TOP > コラム > 体格や技術差がある相手には1対1の状況を避ける。神奈川の少年団が行う強豪クラブと渡り合うための練習法

体格や技術差がある相手には1対1の状況を避ける。神奈川の少年団が行う強豪クラブと渡り合うための練習法

「サッカー指導者のためのオンラインセミナー『COACH UNITED ACADEMY』」では、毎月8本のトレーニング動画を配信している。その中で、ユーザーから「動画内の選手のレベルが高く、参考にしにくい」「一般的な少年団のトレーニングを見たい」などの意見をいただいた。

そこで今回は、脇坂泰斗(川崎フロンターレ)などを輩出している神奈川県横浜市栄区で活動する少年団、FC本郷のトレーニングを紹介したい。2021年の『全日本U-12サッカー選手権 神奈川県大会』で2回戦に進出したFC本郷の指導者はボランティアで、選手加入のセレクションを実施していない。いわゆる街の少年団だ。

テーマは「体格に差がある相手に対応するための練習法」。土日と祝日しか活動しない"ボランティアクラブ"のFC本郷では、強豪クラブと渡り合うために、どのようなトレーニングをしているのだろうか?(文・鈴木智之)

この内容を動画で詳しく見る

ishikawa01_02.png

次回の記事を読む >>

強豪クラブ対少年団の試合で多く見られる現象とは?

FC本郷は横浜市栄区を拠点に活動し、創設51年目を迎えるクラブである。代表を務めるのは、同クラブのOBで指導歴30年を越える石川広監督だ。石川監督は、スペインサッカー協会公認指導者ライセンス所持し、横浜市栄区サッカー協会理事長も務めている。

ishikawa01_01.png

石川監督は「FC本郷は速く、粘り強い守備から、手数をかけずに攻撃を行う、シンプルなサッカーを目指しています」と話す。

少年サッカー激戦区の神奈川県は、複数のJクラブから強豪街クラブなど、レベルの高い対戦相手がたくさんいる。

石川監督は「強豪クラブ対少年団の試合で多いのが、体格に差があって個で負ける。強豪クラブにボールを持たれて体力を削られる。前線からプレスをかけられてボールを失うことです。これらの課題を解決するためのトレーニングを紹介します」と趣旨を語る。

できるだけ時間をかけずにパスを出して数的優位を作る

「前編では、体格差のある相手に対応するためのトレーニングとして、1対1を避け、数的優位を活用してボールロストを減らすことを目的に、3つのトレーニングを行います」と話し、実演に移っていった。

最初のトレーニングは「2対1」。攻撃2人、守備1人の状況で、守備の選手が前方にいる攻撃の選手へ強いパスを出し、プレーがスタートする。ゴールエリア幅にマーカーを設置し、守備側はマーカー内からボールを外に出せば勝ちとなる。攻撃側はマーカー内から出てはいけないルールでゴールを目指し、オフサイドもある。

ishikawa01_03.png

攻撃側は2対1の数的優位なので、1対1を仕掛けるのではなく、コンビネーションを使って相手を攻略していくことがポイントだ。

このトレーニングで石川監督が強調したのが「時間をかけずにプレーすること」。そのためパスの出し手は、受け手が止まった状態でプレーするような足元へのパスではなく、受け手のやや前方にパスを出すことで、走り込んでボールを受け、スピードを落とさずにシュートに持ち込むことをレクチャーしていった。

また、「スペースに緩いパスではなく、足元の少し前に強いボールを出そう」「2回も横パスをすると時間がかかっちゃうよ」「トラップはゴールに向かってやろう」など、シンプルでわかりやすい言葉を使い、端的に伝えていく。

ishikawa01_04.png

続いて「スペースを作る動き」にチャレンジ。ボール保持者が斜めにドリブルをすることで、守備の選手を食いつかせると同時に、もう一人の選手が背後を走り抜けることで、フリーでボールを受けることができる。

石川監督は「DFがパスを気にしだしたら、1対1で抜きやすくなる。味方をおとりに使えるよ」と声をかけ「上手な選手は、走っている味方のタイミングに合わせることができる。パサーが難しい練習だけど、最初に動き出す人、(ボールを持っていない人)に合わせてみよう」と、周囲の状況を見て、タイミングを合わせることの重要性を説いていった。

奪ったボールを失わないために、一度横か後ろにパスを出す

2つ目のトレーニングは「パス交換→センタリングシュート」。ゴール前の設定で、4人1組でプレー。コーンをDFに見立て、走り込む味方にパスを合わせるトレーニングだ。

ishikawa01_05.png

流れとしては、中央にいる選手が前の選手にパスを出し、リターンパスを受ける。そのタイミングで左右、いずれかの選手が動き出し、中央からスルーパスを通す。サイドでボールを受けた選手は、アーリークロスならばニアサイドへ、スルーパスやドリブルで持ち込めた場合はファーサイドの味方へセンタリングを入れ、シュートに持ち込む。

このトレーニングのポイントは、パスの出し手と受け手のタイミングを合わせること。具体的には、実際の試合をイメージして、相手にインターセプトされないコースに、強いボールを出すことが重要になる。

ishikawa01_06.png

石川監督は「強いボールを味方の足元に出そう」「パスの受け手がイニシアチブをとろう」「センタリングは速く、強く」など、プレーを成功させる上でのポイントを伝えていった。

3つ目のトレーニングは「ボールロストを回避する3対3」。20m×15mのグリッドで、3対3のミニゲームを実施。「ボールを奪ったら、横か後ろにパスをする。それをしないと得点が入ったとしても認められない」というルールにすることで、奪ったボールをすぐに相手に奪われないように意識づけしていく。

ishikawa01_07.png

石川監督は「奪ったボールを奪い返されるリスクを減らすための練習」と説明し、「ボールを奪ったら、まず相手に体を入れてキープして、横や後ろにパスを出そう」と具体的な動作に落とし込んでいく。

ほかにはキックインを素早く行うことや、フリーの味方を使うプレーを実演。数的同数だからこそ、パスの受け手が動いてフリーになることの重要性を伝えていった。

また、ボールキープばかりに意識が向かないように「ドリブルで前に行けるときは勝負しよう。取られないことばかりを考えると攻められないよ」とアドバイスし、「いい状態でボールを貰ったら、ドリブルで持ち出そう」とチャレンジする後押しをしていた。

前編のトレーニングは以上で終了。体格や技術の差がある相手と試合をする際に、どのようなプレーが必要なのかが、よくわかる動画だ。学校の校庭というシチュエーションも、多くの視聴者にとって親しみやすいだろう。

後編では、ポゼッションサッカーへの対応法のトレーニングを紹介したい。

次回の記事を読む >>

この内容を動画で詳しく見る

▼▼COACH UNITED ACADEMY 会員の方のログインはこちら▼▼

【講師】石川広/
神奈川県出身。1962年3月11日生まれ。中学生時代にFC本郷に入団。それ以降は、社会人チームに至るまでプレーし、長男の入団に伴い指導者として各カテゴリーを経験する。
2000年から2006年までスペインのバルセロナに長男と共にサッカー留学をし、2003年に「スペイン公認指導者ライセンス」を取得。帰国後はFC本郷に指導者として復帰し2011年に代表指導者に就任し、現在に至る。また、横浜市栄区サッカー協会理事長も務める。