08.28.2023
中学生は最も持久力向上が見込める時期。認知や判断を高めながら行うボールを使ったフィジカルトレーニング
昨今のサッカーは、いかに高強度の中でプレーできるかが重要になっている。試合中、最後まで足を止めることのない持久力や攻守に連続したプレー、爆発的なスプリントなどは、トップレベルを目指す上で欠かすことのできないものだ。
そこで今回は国分寺フットボールアカデミー監督で、ビーチサッカー日本代表のフィジカルコーチを務める鎌田豊氏に「ジュニアユース年代で実践できる、ボールを使ったフィジカルトレーニング」を紹介してもらった。
サッカーの実戦で起きるプレーに即して、持久力や筋力のみならず、認知や判断を高めていくトレーニングは必見だ。
(文・鈴木智之)
2つの無酸素性トレーニングを通じて、体力を強化していく
鎌田氏は「中学生年代は、もっとも持久力の向上が見込める時期です」と話し、「この時期に、ボールを使ってフィジカル、持久力を向上させるトレーニングを行っていきます」と説明。
サッカーのトレーニングには大きく分けて、有酸素トレーニングと無酸素トレーニングがあるが、今回は無酸素性トレーニングを通じて、スピードとスピード持久力にアプローチしていく。
スピードトレーニングでは「瞬間的、爆発的に加速する能力」を高めていき、スピード持久力トレーニングは、「高強度の運動を何度も繰り返す力と高強度の運動を実施する力」の向上を目的に行う。
「サッカーの体力を波線で説明すると、走ってパワーを使って、休んで、走ってパワーを使って、休むの繰り返しになります。この波線が多く、破線が高い選手ほど、良いフィジカルを持っていると言えます」
今回は波線を増やすトレーニング。つまり、スピードやパワーを何度も出し続ける力を向上させるトレーニングを行っていく。
「大切なのは、運動した時間と同じ時間~3倍の時間で休むことです。短い休み時間の中で、何度もスピードを発揮できるようにトレーニングしていきます」
ここで忘れてはいけないのが、コーチングの際にフィジカル面だけでなく、サッカーの認知や判断、技術にもアプローチしていくこと。決して、フィジカルだけを切り取ったトレーニングではないことは頭に入れておきたい。
必然的に方向変換やスピードの変化が行われる「パス&ムーブ」
トレーニングはウォーミングアップからスタートし、ジョグやサイドステップ、動的ストレッチ、ダッシュ、1対1を実施。頭と体に刺激を入れてから「パス&ムーブ+プレッシャー」に移っていった。
トレーニングは36m×40.32mのグリッドで実施。サーバーをグリッド外に8人配置し、グリッド内は8名。グリッド内の選手はサーバーからパスを受け、同じ選手にリターン。その後、グリッド中央のエリアに戻り、別のサーバーからパスを受けてリターンする動きを繰り返す(時間は30秒間)。
「試合のシチュエーションを想像しながらやろう。チームとしては、4-2-3-1で4バックがいて、ボランチにプレッシャーかかっている状態で、センターバックからパスをもらう。あるいはボールを受けたボランチが前を向いたり、無理であればセンターバックにダイレクトでパスを出すといった、チームで取り組んでいるスタイルを実現するためのパス&ムーブの練習です」
グリッド内の選手は30秒間動き続けなければいけないので、フィジカル的な負荷は高い。また周囲に選手がいるので、必然的に方向変換やスピードの変化が行われる設定になっている。
鎌田コーチは「外の選手は、いつもでパスを出せるようにアラートの状態でいよう。ボールは浮かせない。スピードの変化はどう?」などの声かけで、ポイントにアプローチしていく。
今回のトレーニングはすべて、スピード別にグループを分けて実施。50m走が7.5秒以下のチームの場合、グリッドを広げて、より広い範囲で一人ひとりがムービングできるよう要求した。このあたりの工夫も参考になるだろう。
「先程トレーニングしたグループよりスペースが広いので、ダイナミックな動きをしよう。40秒やるので、7、8回ボールにアタックできるように」と声をかけ、「ぶつからない」「ボールを要求して」などシンクロしながら、強度を落とさせないようにしていった。
次は同じ設定で、外の選手が出すボールがスローインになる。浮き球なので「足元」「頭」など、パスを貰う選手がどこで欲しいかを要求するのがポイントだ。
鎌田コーチはプレーを見ながら「まだスピードが出し切れていない。自分の最大限のスピードを出してごらん」とフルパワーで動くことを要求。このようなプレーの積み重ねで、スピード持久力が向上していくのだ。
フィジカル面だけでなく、サッカー面にもアプローチし「中央のゾーンに入ってきたときは、方向転換(マークを外す動き)をしてボールをもらいにいこう」とデモンストレーション。
中の選手はスローインをするサーバーが、ボールを投げられる状況になっているかを観るなど、認知、判断も含まれているトレーニングだ。
試合で想定されるシチュエーションを作り出しながら行う
次は2人1組で攻撃側と守備側に分かれ、30秒間で何本パスを返せるかを競っていく。ここでは「相手の逆をとろう」といった駆け引きを重視し、「1対1のマークの外し方は方向転換、スピードをゆっくりから速く、自分に食いついてきたら逆のサーバーにボールを貰いに行く」などの動きを説明。
さらに最後まで走り切ることを要求し、「足が止まってきたよ。ここだよ。このキツいところで守備。もっと寄せよう」とメンタル面、守備面にもアプローチしていった。
トレーニングの最後はボールの数を減らし、ターンをして違うサーバーにパスを返したら3点。単純なリターンパスは1点というルールで実施。ボランチの選手には、とくに重要なプレーであり、実戦を意識させるトレーニングで締めくくった。
「前編では、スピード持久力向上のトレーニングを行いました。この練習では、試合で想定されるシチュエーションを作り出すことが大切になります。チームの戦い方に応じて、トレーニングを変化させていきましょう。強度を変化させるには、選手の人数やルール、フィールド、時間などのオーガナイズを工夫してください」
後編では、ボールを使ったスピードトレーニングを実施する。
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【講師】鎌田豊/
1982年3月19日生。東京都出身。母校の中学校で指導者としてのキャリアをスタート。現在は、ワセダJFC と国分寺FAで監督兼代表を務め、日本初U-12専属フィジカルコーチとしても活動中。フィジカルコーチとして、RENOVA FC(山梨県)と立川高校サッカー部(東京都)、西南学院大学サッカー部(福岡県)でも指導を行っている。また、ビーチサッカー日本代表フィジカルコーチとしても活躍する。
取材・文 鈴木智之