11.11.2024
日本と欧州の指導現場を熟知する"サッカーコーチのコーチ"が伝授! ライバルチームに差をつける、ゴールキック設計
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。
今回のテーマは「ゴールキック設計」。講師はCOACH UNITED ACADEMYでおなじみ、サッカーコーチのコーチとして活動する、倉本和昌氏だ。スペインや日本の育成現場で指導を重ねた後、オランダに移住し、日本とヨーロッパの育成をつなぐ活動を展開する倉本氏は、セットプレーに関する書籍も出しており、その道のスペシャリストでもある。
現代サッカーにおいて、ゴールキックは攻撃の第一歩として、重要な意味を持つ。そこで、育成年代でどのようにゴールキックを設計すれば良いか。その考え方と実践例を紹介してもらった。(文・鈴木智之)
ゴールキックは攻撃の第一歩
前編のテーマは「ゴールキックの設計の重要性」。ボールを地面に置いて、プレーが止まった状態からスタートするものを「セットプレー」と定義するのならば、当然、ゴールキックもセットプレーに入る。
なかでも「味方選手がペナルティエリア内でボールを受けても良い」という、ゴールキックに関するルール改正が2019年に行われたことで、攻撃の第一歩としてのゴールキックの重要性が増している。
「ゴールキックは、1試合の中で1チーム10本前後あると言われています。ゴールキックに関して、短い距離で繋いでスタートするチームが増えています。実際に2022年のカタールワールドカップでは、これまで主流だった長いボールを使ったゴールキックが激減し、短いパスからの組み立てが増えたというデータがあります」
もちろんゴールキックでロングボールを蹴り、競り勝って、シュートに持ち込む場面もある。しかし、ロングキックを跳ね返され、セカンドボールを拾われると、相手ボールになってしまう。
倉本氏は「その観点からも、ゴールキックは繋いでいこうと考える指導者が多いのだと思います」と推測する。さらにセットプレーといえば、コーナーキックやフリーキック、スローインも含まれる。
「スローインは1試合に多ければ20回、30回とあります。数として多く現れるプレーなのに、練習しなくていいのでしょうか? とくにスローインは、スロワーが投げて誰かが触るまで、プレーに関与できません。そうなると、瞬間的にピッチの中が10対11になっています」
瞬間的に数的不利な状況で、どう対処するか。そこは指導者の腕の見せ所だろう。
セットプレーを通じて、サッカーインテリジェンスを高める
一方で「セットプレーの練習の仕方がわからない」「説明する時間が長く、運動量が確保できない」「ボールに触る回数が少なく、選手の集中力が切れやすい」「練習相手のチームメイトもやりかたがわかっているので、成功例が出にくい」といった疑問も出てくる。
倉本氏は「自分もコーチをしていたので、その気持ちはよくわかります」と前置きをした上で「セットプレーを単体で考えるのではなく、状況に応じてこう動こうと考えることが、サッカーの解釈やインテリジェンスを高めることに繋がる」と断言する。
その材料として、ゴールキックの設計は大きな意味を持つ。倉本氏は育成年代での課題として、ゴールキックに関する3つの問題を指摘する。
それが(1)遠くまで蹴れない、(2)マークが厳しく味方にパスできない、(3)ペナルティエリア周辺に相手が集中している、という問題だ。これらの課題に対して、倉本氏は空間認識の重要性を強調する。
「ゴールキックの際、相手チームの選手はペナルティエリアの中に入ることができません。これはルールでそう決まっているからです。ペナルティエリアの外は、ゴールキックをする場所から8メートル離れています。実はかなり離れているんですね。8人制のセンターサークル(7メートル)よりも広いので、この距離をフリーな空間として認識することがポイントです」
その際に、相手のマークはマンツーマンなのかゾーンなのかを見極めることや、自分たちはどこにポジションをとればいいのかを考えることは、サッカー理解につながっていく。これを小学生のうちから積み重ねていくことで、ビルドアップにも良い影響が出てくるだろう。
ゴールキックに注目しよう
倉本氏は、ゴールキックを設計する際の実践的なポイントとして、以下の要素を上げる。
・素早いポジショニングとボールのセット
・ボールを受ける際に状況を確認し、相手の正面からずれたポジションをとる
・ペナルティエリアの幅を意識したポジション取り
詳細は「COACH UNITED ACADEMY」にて動画をご覧いただければと思うが、普段何気なく行っているゴールキックに関しても、注目して分析し、トレーニングをすることで、チーム戦術と個人戦術の両方にアプローチすることができる。
ぜひ動画を最後まで観て、ゴールキックならびにセットプレーの重要性を再確認し、選手の成長に役立てていただければと思う。
【講師】倉本和昌/
サッカーコーチ専門コーチ。高校卒業後、スペインのバルセロナに留学。アスレチック・ビルバオにて育成の仕組みについて学び、スペイン公認上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後は湘南ベルマーレ南足柄、大宮アルディージャのアカデミーでコーチを務め、2018年よりサッカー専門コーチとして独立。Jクラブ、大学、高校、町クラブ、幼児など様々なカテゴリーのコーチをサポートしている。2021年12月から家族5人でオランダへ移住し、ヨーロッパのサッカーの様々な情報を発信している。
取材・文 鈴木智之