05.12.2025
「指導のブレ」をなくす!チームの指導方針を明確にする4つの問い
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。
今回のテーマは「指導者の考え方を整理し、選手の主体性を引き出す」。講師はメンタルトレーナーとして活動する藤代圭一氏だ。サッカーコーチとしての経験を持ち、質問力を活かしたメンタルトレーニングの専門家として指導を行っている藤代氏は、質問による指導法に関する書籍も出しており、その道のスペシャリストでもある。
新年度や新チーム結成時、指導者は何から始めれば良いのか。指導方針の立て方と選手の自主性を育てる質問の活用法について、紹介してもらった。(文・鈴木智之)
新チームづくりの課題とは
前編のテーマは「チームの方向性を明確にし、指導のブレをなくす」。藤代氏は指導者が抱える3つの課題を挙げる。
「一つ目は、指導方針が毎年変わってしまい、一貫性のない指導を繰り返してしまうこと。二つ目は、情報過多によって『これもやった方がいい、あれもやった方がいい』と混乱してしまうこと。三つ目は、スタッフ間で意見が分かれて意思決定が難しくなってしまうことです」
藤代氏は「SNSが主流となった現代では、海外の最先端情報にも簡単にアクセスできるようになりました。それは大きなメリットですが、一方で情報に振り回されてしまうというデメリットもあります」と指摘する。
これらの課題に対処するため、藤代氏は新チームのスタート時に整理すべき3つのポイントを提案する。
「1つ目はチームで大事にしたいことを決めること。2つ目は指導方針やチームの目標を明確化すること。3つ目はそれをスタッフ間で共有することです」

大事にしたいことを決める重要性
藤代氏は「大事にしたいことを決めることで、指導の迷いが減り、日々の伝えたいことや指導がシンプルになります」と強調する。
例えとして中華料理店のメニューを挙げる。「100品も200品もあるメニューの中から選ぶのは難しいですよね。同じように、たくさんの素晴らしい指導方針があると、かえって迷ってしまうんです」
また、方針が明確になることで選手や保護者にも理解してもらいやすくなり、スタッフ間の方向性も揃いやすくなるというメリットがある。
指導方針を明確にするための問い
藤代氏は指導方針を明確にするために、4つの問いを提案している。
特に4つ目の「やらないこと」を明確にすることの重要性を説く。
「私たちはつい"やること"ばかりに意識が向きがちですが、"やらないこと"をあらかじめ整理しておくと、チームの行動指針が明確になり、魅力もぐっと高まります。
たとえば――
● 礼儀正しいチームでありたい
→ 挨拶を怠らない(=挨拶をしない、をしない)
● 最後まで諦めない姿勢を身につけてほしい
→ 途中で投げ出さない(=簡単に諦める、をしない)
目指す価値観 やらないこと
仲間を尊重する 仲間のミスを責めない・陰口を言わない
フェアプレー 審判への暴言・判定への執拗な抗議をしない
時間を守る 練習や集合に遅刻しない
集中力を高める 練習中に私語やスマホ操作をしない
成長志向 失敗を恐れて挑戦を避けない
このように「やらないことリスト」を可視化して共有することで、チームの価値観が統一され、日々の行動がブレにくくなります。」
この4つの問いに答えることで、指導方針が明確になっていくという。
チーム全体での共通認識を作る
藤代氏はブレない軸を持つための考え方として、以下の3点を大切にすることを推奨している。
これらを実践するための方法として「GROW」というモデルを紹介。これは「Goal(目標の明確化)」「Reality(現状把握)」「Options(選択肢の検討)」「Will(行動計画)」の頭文字を取ったもので、日々の練習や試合の振り返りに活用できる。
また、チーム全体で共通認識を持つために「スタッフ間のミーティング」「保護者や選手を巻き込んだ話し合い」「選手主導のミーティング」という3段階のアプローチを提案している。
「指導の軸が決まっていくと、実はコーチの負担が減っていきます。あれも伝えたい、これも伝えたいというものが少なくなり、日々の意思決定がシンプルになってストレスも軽減されるのです」
藤代氏の提案する方法は、自己決定理論や成長マインドセットといったスポーツ心理学のエビデンスに基づいているという。ぜひ「COACH UNITED ACADEMY」の動画を最後まで観て、質問で始めるチーム作りの重要性を再確認し、選手の成長に役立てていただければと思う。
【講師】藤代圭一/
教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。全国優勝チーム、日本代表チームなど様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。 「やらせる」のではなく「やりたくなる」動機付けを得意とする。著書に「教えない指導」など国内外で多数出版。
取材・文 鈴木智之