05.19.2025
選手への指示が減る!「練習前後の効果的な質問」と「思考の言語化」
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。
前回は「チームの方向性を明確にし、指導のブレをなくす」として、質問を通じて指導方針を明確にする方法について紹介。今回はその続編として、メンタルトレーナーの藤代圭一氏に「選手の自主性を育て、指導の負担を減らす」アプローチについて解説してもらった。
「自分で考える選手を育成したい」「選手の自主性を育てたい」と考えるコーチ、必見の内容だ。(文・鈴木智之)
指示を減らし、選手が考える環境を作る
COACH UNITED ACADEMY動画後編のテーマは「選手の自主性を育てる、実践的なアプローチ」。藤代氏は「僕自身、指示命令をやめて質問を活用することで、より肩の力が抜け、選手たちを観察し、コーチングすることができるようになりました」と語る。
監督・コーチの指示を減らし、選手が考える環境を作るためのサイクルとして、藤代氏は4つのステップを提案している。
「まずは質問を活用すること。指示や命令ではなく質問を活用し、選手自身が考える機会を作ります。次に子どもの答えを待つこと。すぐに答えを与えないことで、選手が思考を巡らせる時間を作ります」
また、考えることに慣れていない選手には「選択肢の提示」が効果的だという。
たとえば「シュートを打つためにはボールをもらった方がいいかな、もらわなくていいかな」といった選択肢から始め、徐々に考える習慣をつけていく。そして、ノートや選手主体のミーティングを通じて、自分で考える力を身につけていくというサイクルだ。

効果的な質問とは?
藤代氏は質問の種類によって、選手の反応が大きく変わることを紹介。特に「なぜ(Why)」で始まる質問には注意が必要だという。
「例えばシュートを外してしまった選手に対して『なんでシュートを外したんだ』と聞くと、子どもたちはありとあらゆる言い訳をします。『ボールに空気が入っていなかった』『水たまりがあった』というような言い訳が返ってくるんです」
一方で「どうすれば(How)」で始まる質問は、前向きな思考を促す。「どうすればシュートを決められたと思う?」という質問をすると、選手たちはアイデアを考え始める。「シュートを打つためにはボールのもらい方を工夫した方がいいかな」「コースを狙えるようになりたい」などの建設的な答えが返ってくるという。
練習前と練習後の効果的な問いかけ
藤代氏は練習の質を高めるために、練習前と後に質問の時間を設けることを推奨。そして練習前にする質問の例を2つ挙げる。
「今日の練習が終わった時に、どうなっていたら最高だと思う?」(練習の目標を決める質問)
「理想の自分に近づくために、どんな工夫をしようか?」(具体的なアクションプランを考える質問)
そして練習後には、4つの質問で振り返りを行う。
「今日の自分に点数をつけるとしたら何点?」(自己評価)
「どうして、その点数にしたの?」(感覚の言語化)
「うまくいったことは何があった?」(ポジティブな理由)
「どうすれば、もっと良くなるかな?」(改善点)
藤代氏は「練習前と練習後、5分ずつでも構いませんので、質問をする時間を取ることによって、必ず選手の成長につながっていきます」と強調する。
サッカーノートの効果的な活用法
最後に藤代氏は「サッカーノート」の活用を勧めている。ノートを使って思考を言語化することで、メタ認知能力(自分がどう考え、どう学んでいるかを把握する能力)とリフレクション(振り返り、今後に活かす力)が高まるという。
「言語化するスキルが上がるほど、サッカーの上達にも役立ちます。書くことで、頭の中の情報を言葉として外に出して整理し、それを見ることによって記憶や学習の効果を高めることができます」
藤代氏はCOACH UNITEDを運営するイースリーと共同で、小学生向けと中高生向けのサッカーノートを制作している。そこには今回紹介された質問以外にも、多くの質問が掲載されているという。
「大好きなサッカーを通じて書く習慣、考える習慣を身につけると、サッカー選手としてだけでなく、社会人として活躍する基盤にもなります」
藤代氏は「質問を通じて、一人でも多くの人が、自分らしく輝く社会を作りたい」と語り、指導者、保護者、選手がそれぞれの立場で輝ける環境づくりを目指している。
ぜひ「COACH UNITED ACADEMY」の動画を最後まで観て、質問の活用法とサッカーノートの導入について理解を深め、選手の自主性を育てる指導に役立てていただければと思う。
【講師】藤代圭一/
教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。全国優勝チーム、日本代表チームなど様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。 「やらせる」のではなく「やりたくなる」動機付けを得意とする。著書に「教えない指導」など国内外で多数出版。
取材・文 鈴木智之