07.14.2025
「ボールゲーム」ではなく「ボードゲーム」─ヨーロッパで共通する「サッカーの基本」とは何か?
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、ヨーロッパなどにおける最先端の指導理論なども配信中だ。
今回は、ドイツを中心に指導者として、またジャーナリストとしても活躍する中野吉之伴氏に、「サッカーの基本を正しく身につけるトレーニングデザイン」について解説いただいた。
前編では「ヨーロッパにおけるサッカーの基本と解釈とは?」についてお届けする。(文・中野吉之伴)
サッカーにおける基本とは何か?
基本をおろそかにすると、安定したパフォーマンスの発揮が難しく、その後の成長にはうまく結びつかない。これは日本だけではなく、世界中どこでも大事にされていること。
では、《サッカーにおける基本》とはなんだろう?
それを理解するためにはサッカーがどういうスポーツかを正しく認識し、どんなスポーツかを把握したうえで、《基本》の概念を解釈することが求められる。
サッカーは世界で最もシンプルなチームスポーツと言われる。1つのボールと2つのチーム。それぞれに守るゴールと攻めるゴールがあり、点を取り合う。そして相手より多く点を取ったチームが勝つ。
世の中には様々な考えや理論がある。サッカーに関しても必要な要素を細かくカテゴリー化していくと、数えきれないほどたくさんの要素が思い浮かんでくるだろう。
テクニック、タクティック、フィジカル、メンタル、インテリジェンス、チームビルディング、パーソナリティ。
大きなカテゴリーの下では、さらに多くのカテゴリーに枝分かれさせて考えられるし、それぞれの要素を掘り下げようと思えば、いくらでも掘り下げられる。丁寧に取り組むことは大切だが、とはいえ全てをくまなく掘り下げ続けることはできないし、局所的に一部を深掘りするのもまた違う。

サッカーは「ボールゲーム」ではなく「ボードゲーム」
なぜならサッカーとは、ボールを持ってからどうするかのスキルを競い合う《ボールゲーム》ではなく、ピッチに生じるスペースやルートを巡ってお互いに駆け引きし合う《ボードゲーム》の要素を多分に持ったスポーツだからだ。
ドイツやスペイン、イングランドやオランダ、イタリアやポルトガルやフランスといった強豪国に限った話ではなく、欧州各国どの国に行って当地の指導者と話をしても、同じようなビジョンを持ってサッカーをやっていることを知る。
サッカーが複数選手で構成された2チームが互いに自分達のゴールを守り、相手のゴールを狙い合うスポーツなのだから、その基本となるのは、選手それぞれの成長/発達段階に応じた人数とピッチサイズでのゲーム形式だ。
元SCフライブルク監督のクリスティアン・シュトライヒはことあるごとにこう主張している。
「1つのボール、2つのゴール、そしてたくさんの友達。それが子どもたちにとってのサッカーだ。子供たちの成長にはいろんな体験が大切だ。みんながボールに触ることができて、1対1でボールを奪い合って、ドリブルにチャレンジして、思いっきりシュートを打って。そんな体験を通して、子供たちにサッカーを好きになる可能性を与えてくれ」
2対2からサッカーの理解がはじまる
ドイツをはじめ欧州各国では幼稚園年代で2対2から3対3、小学校低学年年代では3対3から5対5で試合が行われるのがもはや当たり前。ドイツでは24-25シーズンからミニゴール4つの3対3で試合をするフニーニョが全国で正式採用されている。そして普段の練習でも頻繁に少人数でのゲーム形式で子どもたちはサッカーの基本をどんどんと身につけているのだ。
サッカーがうまくなるためには、サッカーというゲームを知らなければならない。日本人的な《基本技術習得》に時間を割くのがNGとは言わない。ただ脳科学的な見地でいうと、人は同じ動作を3度繰り返すと、そこから学習効果はどんどん下がっていくという。それに子どもたちの発達過程を考えると、小さい子どもたちが集中し続けるのは難しい。そして子どもたちがまず身につけるべきは、サッカーとはどういうスポーツかを常に感じられる環境だ。
サッカーはつながり合いのスポーツ
FCケルンでアカデミーダイレクターを歴任したクラウス・パプストがこんなことも言っていた。
「サッカーはつながり合いのスポーツだ。誰かが一度ミスをしたら、パスをもらえないなんて馬鹿げている。逆だよ。どんどんパスを送ってあげればいい。何度もチャレンジしていいのがサッカーなんだ。ミスをしたらそのことを認めて、それを取り戻すためのチャンスをあげて、それができるまで頑張ればいいんだ。サッカー的な思考を持てるかが重要なポイントだけど、それはサッカーの中でしか身につかない。いろんな年代の子どもたちと一緒にやるのは面白い。みんな考える。そうするなかで、社会的な関係も身についていく。それがサッカーだよ」
誤解を恐れずにいえば、J下部やトレセンのセレクションに合格するためのスクールはいらない。サッカーの基本から遠ざかる悪因にもなりかねない。それよりも仲間を輝かせるためにどうしたらいいのか、仲間から生かされるためにはどうしたらいいのかを感じられる環境でサッカーを楽しむ方がずっといいのではないだろうか。
「COACH UNITED ACADEMY」で配信する中野氏の動画では、ヨーロッパでのサッカーにおける基本の考え方やトレーニングデザインについて、さらに詳しく紹介されている。ぜひ、この先の詳細は動画でご覧いただきたい。
【講師】中野吉之伴/
サッカー指導者・ジャーナリスト。大学卒業とともにドイツへ渡り20年以上在住。ドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを保持し、元ブンデスリーガクラブ・フライブルガーFCをはじめ、数々のクラブで指導経験を持つ育成年代のスペシャリスト。現在はSVホッホドルフU17監督を務める。著書に「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」や「3年間ホケツだった僕がドイツでサッカー指導者になった話」などがある。
取材・文 中野吉之伴