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[書評] FCバルセロナスクールの現役コーチが教えるバルサ流トレーニングメソッド

※本記事は、ブログ『22番の蹴球ファカルティ』様の同名タイトル記事の転載となります※


初学者のためのトレーニングメニューの紹介。

本書は主にお父さんコーチをはじめとするコーチ初学者のためのトレーニングメニュー本である。ただ、初学者向けだからといって単純なメニューを紹介しているわけではなく、村松尚登氏らしくほとんどのメニューが状況判断を伴ったものとなっていてサッカーの本質を実践的にトレーニングできる内容となっている。

自分でメニューを作ることが難しい初学者はまずは本書のような書籍を参考にしてメニューを模倣し、少しずつ中級者向けの書籍を用いてメニューをアレンジしたりするのが良い。中級者向けとしては例えば以下の書籍が参考になる。


戦術的ピリオダイゼーション理論とは何か

本書では冒頭のP.16-27を用いて戦術的ピリオダイゼーションについての説明がなされている。ただし著者の村松尚登氏も言うように、読み飛ばし可である。

この理論を知らなければ本書で紹介しているトレーニングメニューを実践に移せないというわけでは決してありませんから、この理論編を飛ばしてトレーニングメニューに進んでいただいても全く差し支えはありません。(P.16から引用)

戦術的ピリオダイゼーションとは、サッカーを要素還元主義的に捉えずに複雑系として捉え、サッカーで必要なテクニックなどは単体で取り扱うのではなくコンテクスト(文脈)といっしょに取り扱わなければ意味がないということを謳う理論である。

このことを理論の提唱者であるビトール・フラデ教授は「サッカーはカオスでありフラクタルである」と表現し、村松尚登氏は「サッカーはサッカーをすることで上達する」とキーメッセージにまとめている。

筆者が小学生のころはコーンを並べてジグザグドリブルの練習をよくさせられたものだが、こういった練習はサッカーに必要な状況判断やプレッシャーがないため、戦術的ピリオダイゼーション理論に則ればあまり意味のないものということになる。村松尚登氏も「はじめに」で次のように語っている。

本書に記載されているトレーニングメニューは、単調な反復練習ではなく、「サッカーをやりながらサッカーを学ぶ」、つまり決められたとおりの方法でトレーニングをこなすのではなく、状況判断のある環境の中で取り組むことを意図としています。サッカーでは常に状況判断が求められます。皆さんは、2人組のパス交換やコーンを並べたドリブル練習など、実はサッカーの"重要な要素"が欠けている反復練習を子どもたちに課していませんか?(P.2-3から引用)

こういった考え方に少しでも賛同できるのであれば、ぜひ本書のトレーニングメニューを試してほしい。状況判断を伴ったテクニック、攻守の切り替え、疲れているときの攻め方守り方などが網羅されており、まさに「サッカーはサッカーをすることで上達する」を地でいく内容ばかりである。

チームとして大事なのはプレーモデルの構築

また、同理論ではチームを強化するために最も大切なのはプレーモデルであると説いている。

プレーモデルとは、そのチームが目指すサッカーとしての全体像、または最終目的を意味します。チームを率いる監督の理想像と考えれば、理解しやすいでしょうか。サッカーはメンバーやコンディション、ピッチの条件や気象条件によって試合展開が大きく変化するスポーツです。このような偶然性の特長を持つサッカーに必然的な法則性を見出すためには、チームとしての方向性、すなわちプレーモデルを設定しなければ、チームを統率するための規律は生まれません。(P.22から引用)

ただし、「どのようなプレーモデルが良いのか」「プレーモデルに適したトレーニングはどのようなものか」といったことまでは本書には書かれていない。プレーモデルはそれぞれのチームで異なるものなので一概には書けないということもあるのだろうが、それでは初学者は困ってしまう。そこで、まずは守備から硬めてカウンターで勝利を狙うようなチームが目指すプレーモデルの構築に役立つのが先にも紹介した『4-4-2ゾーンディフェンス トレーニング編』(筆者のレビュー)である。ゾーンディフェンスの徹底とリスクを踏まえたカウンターによる攻撃を志向するプレーモデルからチーム作りをはじめ、徐々にサイドや中央を使った攻撃を構築するトレーニングが体系的にまとめられている。


ちなみに、戦術的ピリオダイゼーション理論について理解を深めたければ村松尚登氏の『テクニックはあるが、「サッカー」が下手な日本人』(筆者のレビュー)を読むのが良い。村松尚登氏の戦術的ピリオダイゼーション理論との出会いやスペインでのコーチ生活の苦悩などが冒険譚のような形でまとめられており、非常に勉強になる。

※ブログ『22番の蹴球ファカルティ』様の同名タイトル記事より転載※

鈴木洋平(すずきようへい)
1979年9月10日生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学政治経済学部卒。採用や育成を手がける人事コンサルタントを本業としながら、背番号22番をつけてサッカーやフットサルに興じる。ワールドカップは98年より連続現地観戦。趣味はラーメンの食べ歩きで年間200杯食べる。ブログ:サッカー書籍の書評ブログ「22番の蹴球ファカルティ