11.14.2018
ジュニア世代の体幹トレーニングは必要なし!? 元スペイン名門のトレーナーに聞く、強く速くなる身体の作り方
少年サッカーシーンにおいても、近年はフィジカルトレーニングを行うチームは少なくありません。「より速く」「より強く」を目的に、いわゆる体幹トレーニングを練習メニューに取り入れているチームもあるそうです。
果たして、成長期にある小学生年代から、そうしたトレーニングは必要なのでしょうか。スペインの名門エスパニョールのアカデミーで10年に渡ってトレーナーを務め、ベガルタ仙台のトップチームでも同職を担った経験のある松井真弥さんに、少年期における体幹トレーニングのあり方について、話を伺いました。(取材・文:原山裕平)
※サカイク2017年10月17日掲載記事より転載
(写真はU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017より)
■スペインのクラブは体幹を鍛えるだけのメニューはない
まず、松井さんはスペインにおける体幹トレーニングの実情を説明してくれました。
「まったくやらなくというワケではないですけれど、いわゆる体幹部分と言われる背骨を中心とした身体の軸となる胴体部分だけを鍛えるなど、それだけを徹底するのではなく、練習の中にうまく組み込んでやっているという感じですね。ただ、個人的な見解で言えば、"U-12"の段階で体幹トレーニングは特に必要ないと思っています」
もちろんパフォーマンスを向上させるには、しっかりとした体幹が必要なのは確かでしょう。ただし、それをトレーニングに求める必要はないと松井さんは言います。
「体幹という言葉を使うかは別にして、そもそも良い姿勢でプレーしたり、動いていれば、背骨周り、腹部や背面の筋力は自然と付いてくるものです。具体的に言えば、骨盤を前傾させた状態で走ったり、背筋をしっかりと伸ばしたりすることですね。それによって身体の軸となる部分が鍛えられるとともに、怪我の予防にもつながります」
動きをスムーズにするためには、筋力と言うより、身体を連動させる事。そのためにもっとも大事なのは、「骨盤」だと松井さんは言います。
「あまり極端ではだめですが、軽度に腰に反りを作り骨盤を前傾させる。そうすると、背骨に自然なS字カーブが出来、肋骨と骨盤の間の骨のない部分を柔軟に動かせるようになります。そこが堅いと、下肢に負担が来てふんばった際にヒザやカカト、あるいはそけい部等の痛みにつながる危険性もあります。柔らかければ自然と負担がなくなり、動き自体もスムーズになっていきます」
■良い姿勢は体幹トレーニングにも匹敵!? ケガ予防にも!
「やっぱり、猫背だと背中が機能しなくなるので、良い姿勢を保ち、背骨をいかに思うように動かせるかが、大きなポイントとなります。背骨には前に曲げる、後ろに反る、左に反る、右に反る、左にひねる、右にひねると6方向の動きがあります。それらの動きをした際に、どこかが引っかかる感じがあると、それは思うように動かせていない証拠です。そこを滞りなく、スムーズに動かせるようにすることが、体幹トレーニングの代わりになると、僕は考えています」
体幹トレーニングは身体の強度を身に付ける分には有効ですが、一方で関節が硬くなる危険性があり、それはケガの温床となりかねません。それよりも身体全体を正しい姿勢に保ち、その状態での動きを身に付けたほうが、パフォーマンスの向上につながり、ケガの予防にもなるのです。
(悪い姿勢と良い姿勢を比較 良い姿勢は背骨がS字カーブを描いている)
骨盤の前傾や、背骨を6方向スムーズに動かすための具体的なトレーニング方法は、次回、動画とともにレクチャーします。ここでは、常日頃から意識すべきポイントを、松井さんに伝授していただきました。
「例えば姿勢を良くしろと、親が言ってもなかなか子どもはなかなか聞かないもの。僕がよく言うのは、せめてご飯を食べる時くらいは良い姿勢で食べなさないと。やっぱり、良い選手は身体が起きているんですよね。そういう選手の動画を見せて意識を高めるのもいいかもしれません。意識しないと、すぐに猫背になってしまいますから。ご飯を食べる時、あるいは勉強の時、本を読む時でもいいですが、常日頃からそうした時間を設けることが大事ですね」
■スペインの子どもが試合後のクールダウンをしない理由
体幹だけでなく、身体をケアするためには様々な方法がありますが、そのうちのひとつに、試合後のクールダウンがあります。激しい動きをした後に、身体の筋肉をほぐしてあげることは、一般的に重要だと考えられています。その点についても松井さんに話を伺うと、意外な言葉が返ってきました。
「クールダウンもそんなに重要視していないとは言いませんが、スペインでは、ほとんどクールダウンなんてしません」
その理由のひとつに、文化の違いがあると松井さんは言います。
「なぜかと言うと、スペインには連戦がないから。日本は週末の試合が多すぎるのです。だからケガをしないためにいろいろやる。ダウンだけではなく、アップも同じことで、基本的にスペインではアップは身体を温めるというよりも、気持ちを高めるためにやっています。ダウンも軽く走る程度で、入念にストレッチをすることはありません」
子どもたちに連戦や過度な負担を強いる昔からの日本のやり方については議論すべきポイントでしょう。しかし、そうした環境を変えるのは、一筋縄ではいかないもの。週末の連戦が日常となっている日本では、やはりクールダウンはしっかりとやるべきものなのではないでしょうか。
「語弊があるかもしれませんが、やっぱりプロ選手がやっているようなクールダウンはそれほど必要はないと思います」
松井さんは言います。そしてこう言葉をつづけました。
「基本的にはさっき言ったように、良い姿勢や正しい動き方を身に付けることで、予防できるとことだと思います。それでも、ダウンをやりたいというのであれば、足ではなく、骨盤や背中の部分を動かしてやる程度でいいと思います。結局は良い状態で動けば疲労も少なくなるし、怪我も少なくなる。そうした考え方を持つことが、なにより大事なのではないでしょうか」
■良い姿勢は大人世代の腰痛予防にも
大事なのは、負荷をかけた後ではなくその前なのです。疲労が出てから対処することも翌日以降を快適に過ごすために大切ですが、まずは疲労を少なくする状態を日頃から作っておくことがポイントです。
(子どもが笑顔でサッカーを楽しむために、親ができるサポートとは)
ケガや痛みがあってはサッカーも学校も楽しめません。対症療法も痛みの改善に効果的ですが、痛くならない(ケガしにくい)身体をキープすることが保護者のサポートになるのではないでしょうか。
今回ご紹介した「良い姿勢」は、腰痛などを防ぐ効果もあります。デスクワークや運転するとき、サッカーの応援時などお父さんお母さんも良い姿勢をキープして、健康的な毎日を送りましょう。
松井真弥(まつい・しんや)
アスレティック・トレーナー。2000年より10年間、スペインのリーガ・エスパニョーラ1部の名門RCDエスパニョールでトレーナーを務める。帰国後は2011年から14年までJリーグのベガルタ仙台でトレーナーとして活動。現在は千葉市にある鍋島整形外科にて身体のケアや身体の使い方によるケガ減少の指導を行っている。不定期で走り方教室を開催中。
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取材・文 原山裕平 写真 新井賢一(ジュニアワールドチャレンジ2017)