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『海外クラブで働くということ』SVヴェルダー・ブレーメン鍼灸トレーナー・鈴木友規インタビュー(前編)

日本を離れ、ヨーロッパや南米で活躍する"サッカー人"は選手だけに限りません。指導者やクラブスタッフなど、サッカーに関わる仕事は多岐にわたります。今回はドイツ・ブンデスリーガ1部、SVヴェルダー・ブレーメンで働く、鈴木友規氏にご登場頂きました。彼の仕事はヨーロッパや南米の国ではほとんどお目にかかれない、鍼灸トレーナーです。鈴木氏には、海外で働くために必要なことについて話して頂きました。「海外のクラブで働きたい!」と考える人は、参考にしてみてはいかがでしょうか。

suzuki_01_580.jpg取材・文・鈴木智之

■フロンターレからブレーメンへ

――海外で勉強したい、仕事をしたいと思う指導者やサッカー関係者は多いと思いますが、一歩を踏み出すのがすごく大変です。今回はその辺りをお聞きしたいと思います。もともとは、川崎フロンターレのアカデミーで働いていたんですよね。

フロンターレの育成・普及部のトレーナーとして、6年間お世話になりました。昔から海外に出て仕事がしたいというイメージはあったのですが、ドイツに行くことを決めた当初も、いきなり仕事になるとは思っていませんでした。最初の渡航の目的がヨーロッパのサッカーを知ることで、現地に知人がいたので、ツテを通じていくつかのクラブを見て回ろうと思っていました。私の中で、サッカーのトレーナーのスペシャリストを目指すに当たって、「世界に通用する選手」というキーワードはあったのですが、自分はプロ経験もないですし、世界を知っているわけでもありません。そこで、実際に自分の目で見て、肌で感じたいと思ったのがきっかけですね。

――私は鈴木さんがフロンターレにいたときから知っていましたが「辞めて、ドイツに行きます」と連絡が来て、直後に「ブレーメンで働くことになりました」と言われて驚いた記憶があります。どのような段階を経て、ブレーメンと契約することになったのでしょうか?

知人の紹介でヨーロッパのサッカーに精通する方にお会いする機会がありまして、そのときに「海外のクラブで働きたいんです」と話したら、「協力してあげられるかもしれない」と言ってくださって、ヨーロッパのクラブを何チームか回ることになりました。そのうちのひとつがブレーメンだったんです。その方と当時のトーマス・シャーフ監督が知り合いで、テストをしてくれることになったのですが、大事なトップチームの選手を、誰ともわからない日本人に触らせるなんて、普通に考えてありえませんよね。ですが、テストを受けさせてもらうことができ、契約することができたという流れです。

――ブレーメンを紹介してくれた方に会ったときは、どのようにプレゼンテーションをしたのですか?

「私はアスレティックトレーナーと鍼灸師の資格があって、フロンターレで6年間トレーナーをし、いまは海外で働きたいと思っています」という感じです。以前、その方がブレーメンに日本人の鍼灸師を連れて行ったことがあったんですね。シャーフ監督が鍼灸師の仕事に対して知識があったので、もしかしたらいけるかもしれないと。

■ドイツで働くために乗り越えた壁

――ドイツで鍼灸師はポピュラーな存在なのでしょうか?
それほどポピュラーではないですね。鍼治療の存在は知っていても、受けたことがない人が大半です。そもそも、ドイツ人と日本人で同じ能力の人がいた場合、ドイツ人を採用しますよね。そこで、自分の売りは何かと考えた時に、ドイツにはない日本の針を持っていたので、それをアピールしようと考えました。ドイツで働くにあたって、ビザのことや資格のことなどクリアするのが本当に大変でしたけど、最終的にドイツの外国人労働局からOKが出て、働くことができるようになりました。それが2012-13シーズンが始まる直前です。

――テストを受けたときは、実際に選手の身体に触ったのですか?
そうですね。当時はチームにケガ人が多く出た時期で、フィジオセラピスト(トレーナー)の方もてんやわんやでした。それもあって、僕に選手を診させてくれたんです。そこでは筋肉の炎症、肉離れ、ひざの内側の靭帯や前十字靭帯の損傷など、様々な選手がいました。テストとして、自分が試されているのがわかったので、治療を受けて、こう回復しましたという、ビーフォーアフターの違いを出さないといけないと思い、必死にやりました。その際、ブレーメンの下部組織でコーチをされている日本人の方に通訳のサポートをして頂きました。その方がいなかったら、治療はスムーズに行かなかったですし、チームと契約するところまではいかなかったと思います。

――渡独してすぐにブレーメンと契約とはすごいですね。
必死で押し切った感じですね(笑)。2回目の渡航は通訳の方がいなかったのですが、GM(ゼネラルマネージャー)の秘書のところに毎日行って、カタコトの英語で「こういう書類が必要です」とか、「面談しましょう」など言っていました。

――その強引さの有無が、外国で働けるか、そうでないかの分かれ道でしょうね。
そう思います。知識や技術があるだけではダメというか。いま振り返ると、そのときのパワーはすごかったなと、自分でも思いますね(笑)。私自身、見知らぬ土地で、言葉も文化も違う中、自分がどれだけできるのかを試してみたかったという気持ちもあります。それと、結果を出すこと。いい評価を得るだけでは、「いい経験になった」で終わってしまいます。ドイツのクラブと契約するという結果を形で残したかったんですよね。そのために、できることは最大限やりました。あとは、間違いなく自分一人の力だけではこの結果は出せなかったと思います。サポートしてくれた方、応援してくれた方達に本当に感謝しています。

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【プロフィール】
鈴木友規(すずきともき)。SVヴェルダー・ブレーメン鍼灸トレーナー。アスレティックトレーナー、鍼灸按摩マッサージ指圧師。専門学校卒業後、川崎フロンターレの育成部でトレーナーとして活動し、2012-13シーズンよりブレーメン所属。