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認知・判断を伴った1日のトレーニングの作り方/ミゲル・ロドリゴのインテグラルトレーニング入門

COACH UNITED ACADEMYでは「トレーニングデザイン」をテーマに、フットサル日本代表監督ミゲル・ロドリゴ氏のノウハウを全4回に渡って公開しています。

第2回は「トレーニングのデザイン方法」を、実際にメニュー作りのプロセスを披露しながらわかりやすく教えてくれました。いよいよ、第3回は「トレーニングデザインの実践」です。(取材・文/木之下潤)

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<<前回:トレーニングデザインに重要な3つのフェーズ

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ミゲルが推奨する9つのコンテンツ

「前回までにトレーニングデザインの原理原則とその方法を説明してきました。これでようやく実践できますね」

こう話を切り出すと、ミゲル氏は最初にトレーニングメニューを考えるとき、どんなコンテンツを含んでいなければならないかという条件を9つ示しました。

①数的優位・不利の局面
②数的同数の局面
③フィニッシュの局面
④個のテクニックトレーニング
⑤攻撃・守備がセットされたアクション
⑥プレッシングとプレス回避
⑦ポゼッション
⑧GKを意識したトレーニング
⑨ゲーム形式のトレーニング

そもそも、攻守に立場が違っても得点の7割は数的優位・不利の状況から生まれるそうです。それゆえフットボールでは、数的同数からいかに数的優位を作るかがポイントになり、ボールポゼッションで相手の守備を乱すことが求められるわけです。つまり、ポゼッション本来の目的は『整った陣形に偏りを作ること』。その枝葉として、例えばリードしている状況で『ボールを保持しながら時間をつぶす』などの使い方があるのです。

ただ、どんなトレーニングも認知と判断をともなうことが、実戦に直結したテクニックを身に付ける条件です。より実戦に近い感覚を養うためにゴールを設定し、攻守である程度の陣形をセットすれば、選手は実戦とほぼ同じアクションを展開しなければなりません。すると、必然的にポジショニングを考えることでより多くの局面が生まれ、それを体感することができるのです。

そして、高い強度を保つために気を付けるべきことは、「飽き」や「慣れ」への対策です。より高い集中力を保つため、5球以内に何点取るといった特別ルールを作ってゲーム性を加えます。そうすると、フットボール本来の「点をとる楽しさ」を実感でき、集中力を持続できるのです。さらにゴールが置かれたトレーニングであれば試合と同じスピード感をもって何度もシュートを打つことを求められ、常にフィニッシュを意識することができます。

また、もうひとつ大切なことはGKの存在です。特に11~12歳になれば、必要不可欠なものです。トレーニングの強度を上げるためにも、この年代ではフィールドプレイヤーがウォーミングアップをしているとき、GKは専門のアップを行ない、その後に全体練習に加わることが大事になります。加えて、守備では最終DFとしての役割、攻撃では最初のアタッカーであるという現代サッカーの常識を学ばなければなりません。

これらの条件は、インテリジェンスを兼ね備えた選手を育てるために加味すべきコンテンツです。そこを理解し、ミゲル氏が実践してくれたトレーニングデザインをのぞいてみましょう。

「インテグラルトレーニング」のケーススタディ

想定は週2回、90~120分のトレーニングの1回分です。内容はフットサルのメニューですが、サッカーでも十分に使えることがおわかりになるはずです。ではご覧ください。

【トレーニング1】
人数:18名/ピッチ:20×40m/時間:20分(3分+ストレッチ2分)

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「最初はウォーミングアップです。このとき、身体だけでなく頭を働かせて温めることも必要ですから、判断をともなう要素を加えます。メニュー内容は、3つのグループがフットサルコート内で4対2のボールポゼッションを3タッチで行ないます。ルールはパスをつなぎながら9本以内にセンターラインを浮き球で越えること。

この練習は有酸素運動の中で様々な判断をしなければならないため、身体と頭のアップにピッタリです。パスを違うグループの選手に当てないこと、センターラインを意識すること、ボールを浮かすための工夫など、身体を動かしながら考えることがいっぱいあります」

【トレーニング2】
人数:18名/ピッチ:20×20m/時間:30分(4分+2分休憩)

「次のメニューには、フィニッシュと数的優位・不利・同数を加味してみましょう。私がよく使うトレーニングメニューで『ピラミッド』と呼んでいます」

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「ゴールを2つ置き、GK2名を配置してボールサーバーを用意します。選手は2つの角にわかれ、チーム対抗戦でシュートを行ないます。

まずはボールサーバーからボールを受けた選手がシュートを打ちます。その選手はピッチに残り、DFになります。そうすると、次の選手はシュートを打つ際に1対1の状況になっています。プレーが途切れたらその選手も残り、反対側の選手がスタートします。すると、チーム対抗戦ですから今度は2対1の状況でシュートを打たなければなりません。そうやって4対4になるまでフィニッシュのトレーニングを続け、4対4になったらまたイチから始めます。

このように条件設定次第で、フィニッシュと数的優位・不利・同数という要素が一度に体験できるトレーニングをデザインできます。指導者が注力すべきことは、どちらのゴールを狙えば一番早いフィニッシュを選択できるかということ。その点について的確なコーチングしなければなりません。見るべきポイントは身体の向き、シュートをする瞬間にGKを観察しているかであり、この練習では量より質を大事にすべきです」

【トレーニング3】
人数:18名/ピッチ:20×40m/時間:30分(4分+2分休憩)

「3つ目はカウンターです。これをテーマに取り上げたのは理由があります。それは、フットサルがカウンターから生まれるゴールが非常に多いからです」

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「左半面では2対1、右半面では3対2という状況を作り、ハーフウェーライン上に4人のフリーマンを置きます。スタートはGKから。攻撃の選手にパスが渡ったらフリーマンが1人守備に加わります。つまり後追いですが、2対2の状況になるわけです。要するに、攻撃側は数的同数の状況になる前にフィニッシュまでもっていかなければ、ゴールの確率が減ってしまうわけです。

そして、左半面でフィニッシュまで終えたら、プレーに関わったGKが右半面にいる攻撃の選手にボールをフィードして3対2がスタートします。左半面と同じように攻撃の選手がボールに触った瞬間にフリーマンが守備に入るため、3対3の状況になります。

したがってこれも左半面と同様、数的優位な状況でシュートまでもっていくことが重要なのです。それを繰り返すことで、すごく早い切り替えの起こるトレーニングになります。カウンターに関する攻撃か、守備か...指導者にとっては、フォーカスしたい内容でアドバイスの仕方が変わります。トレーニングの強度を高く維持するにはスピード感が大事です。それを落とさないように行ないましょう」

【トレーニング4】
人数:18名/ピッチ:20×40m/時間:30分(4分+2分休憩)

「最後に、GKを加えた4対4のゲームです。ここでひとつ、特別ルールとしてローバウンドボールを使いましょう」

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「さらに、もうひとつ特別ルールを設けます。全員が手にボールを持ち、4対4のゲームを行ないます。そして、味方同士で2組のペアを作ります。これがゲームの肝になります。なぜなら、足で扱っているボールを手で拾い上げたら、ゲームで使っているボールがペアを組んでいる選手の持つボールにワープするからです。つまり、パスになるのです。

このゲームの主題となるのは、このワープの原理を利用することです。4対4の状況だとマンツーマンで守られています。しかし、一人の選手がマークを外し、もしボールがワープすればビッグチャンスが生まれます。そのときに、ペアとなる選手が素早くボールを手に拾い上げたら成立するわけです。

マークを外す=ボールを拾う=ワープする=数的優位な状況でボールを扱える。それを考えたら指導する視点は自ずと見えてきます。受け手はマークを外すタイミングが重要であり、ボールを保持する選手はピッチ全体を把握しておかなければなりません。そうすれば、チャンスを見逃さずに早い決断を下し、フィニッシュまで持っていくことができるのです。指導者は視野の確保と動き出しのタイミングを見極め、選手にポジティブな声をかけ続けてあげれば、この練習はどんどん面白いものになっていくでしょう」

これら4つのトレーニングはすべてボールを使い、認知・判断をともなった技術と戦術を切り離さないインテグラル(統合的)なトレーニングにデザインされていることが理解できるでしょう。各トレーニングのオーガナイズや詳しいルール設定などは、COACH UNITED ACADEMYのセミナー本編でぜひお確かめください。

次回:フットサルがサッカーに役立つ理由は「6倍の差」にある>>

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ミゲル・ロドリゴ(Miguel Rodrigo)
1970年7月15日生まれ。スペイン・ヴァレンシア出身。イタリアのルパレンセ・パドヴァやロシアのディナモ・モスクワ、スペインのカハ・セゴビアなどで指揮を執った後、2009年6月フットサル日本代表監督に就任。2010年AFCフットサル選手権3位。2012年AFCフットサル選手権優勝。2012 FIFAフットサルワールドカップでは日本代表史上初のベスト16に導く。2014年AFCフットサル選手権で大会2連覇を達成。FIFAインストラクター、スペインサッカー協会フットサル指導者資格保有。