TOP > コラム > 「飛び込むな!」と言わない指導――アンジュヴィオレ広島U-18の場合

「飛び込むな!」と言わない指導――アンジュヴィオレ広島U-18の場合

1398655629291.jpg

 アンジュヴィオレ広島U-12、U-18監督の柴村和樹です。なでしこチャレンジリーグ(2部)に参戦しているアンジュヴィオレ広島は、今年4月からU-18の活動をスタートさせました。U-18チームでは、選手個々の成長を考え『自然体を変化させる指導』を行なっています。
 
 自然体とは、誰からも「やらされていない」精神状態のこと。選手がやらされている状態(表面)を変えるのではなく、自分で考え行動している状態(内面)を変える関わり方をしています。「ゴールを意識したプレーができる」「ボールを奪える選手になる」をベースに、個々の選手の個性を伸ばしています。

■選手自身の変化を引き出す声かけ
 声かけについては、『いつ/何を』を意識しています。「うまくいくように」「失敗しないように」声をかけるのではなく、プレー選択後に、選手自身が意識して行なったプレーを見て「~~が良かったよ!」と声をかけるのです。

 ある日の練習を紹介します。この日は、特にメンタル面での働きかけを重視しました。「協力」「全力」「工夫」をテーマに、グループに分かれて全員が手をつなぎ、フラフープを全員がくぐっていってタイムを計測するというゲームです。
 
 選手間での優劣のないシンプルなゲームですが、「決められたルールの中で全員が気持ちを一つにする」「タイム短縮のためにどう工夫するか」「失敗した人にどう声をかけるか」「全員が一つになって良い結果が出た時の達成感」など、サッカーに置き換えられる要素が多くあります。
 
 ゲームを行なった後は、そのグループでサッカーの試合を2試合行ないました。試合前には、彼女たち自身で「どう戦うか」の話し合いをします。1試合目の前はポジション決めの話し合いをしていましたが、1試合目が終わった後にはこのように声をかけました。

「先ほどのゲームで取り組んだ『協力』『全力』『工夫』を活かし、今よりうまくいく方法を考えてごらん」

 このタイミングで声をかけたことで、各グループは相手の様子から「どのように戦うか?」と話し合い、2試合目ではその話し合いで決めたことを実行しようとプレーし、ミスや失敗が起こっても自然と全員がカバーしようとしていました。外から見ても明らかに1試合目とは違い、緊張感・一体感のある試合になったと思います。試合が終わった後の選手たちを見ても、変化を実感していた様子でした。
 
 こうした変化は、指導者が「もっとやらないと!」「このままではダメだ!」といった声がけではなく、選手自身が起こしたものです。

■「飛び込むな!」とは言わない
 育成年代の現場における声かけでよく聞くものとしては、「飛び込むな!」というものがあります。
 
 このように声をかけ続けると、選手は相手に抜かれないためにボール保持者との距離を広く取るようになります。アンジュヴィオレU-18では、飛び込んで奪いに行けるような声かけをし、ボールを奪いに行ける選手になるよう働きかけています。本当に競った試合で頼りになるのは、「抜かれない」選手でなく「ボールを奪える」選手だと思うからです。
 
 また、「失わないこと」が目的のポゼッションも、ゴールを意識するプレーが自然にできるまでは行ないません。サイドチェンジにしても、ゴールを意識して行うことと、ただボールを失わないために行うとは違います。ゴールを意識する選手たちは、ゴールを奪うためのボールを失わないボールポゼッションを実行できると思います。
 
 このような変化には時間がかかると思っていましたが、指導して2ヶ月ほどで、選手の雰囲気・個々のプレーには良い変化が見られます。選手それぞれが自分の考えを発言するようになり、選手の表情が活々してきました。プレーもボールを奪いにいき、ゴールに向かうプレーを選択することが自然と行えてきています。
 
 ただ、変化は少しずつ起こるものであり、明確な形では表れません。そのため、指導者の観る目が非常に重要になってきます。そして、今何をさせることが選手を伸ばせるのかを選択します。その積み重ねが選手を成長させていくと思います。ただ、選手が伸びれば試合には勝てなくても良いのではなく、選手が伸びるということは、試合に勝てるようになっていく、ということではなければいけないと思っています。パーソナル・ビルディングがチーム・ビルディングにつながると私は思います。

柴村和樹(しばむら かずき)
1980年8月27日生まれ。広島県広島市出身。阪南大学を卒業後、スペインのラコルーニャへサッカー留学。その後広島県の廿日市FCで指導者の活動をスタート、幅広い年代の普及、育成、強化の指導を務める。様々な経験から独自の指導法を持ち、現在は女子チームのアンジュヴィオレ広島で普及・育成に所属。弟はFKブハラ(ウズベキスタン)所属の柴村直弥。