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トレンドに闇雲に飛びつく前に、考えるべきこと。DFBテクニカルレポートから推測する5年後のサッカー

 COACH UNITED編集部です。現在、中野吉之伴さんによるオンラインセミナーDFB(ドイツサッカー協会)テクニカルレポートから読み取る5年後のサッカー THEME1:DFB(ドイツサッカー協会)テクニカルレポートによる主要世界大会分析が公開中です。ここでは、中野さんによる同セミナーの補足記事をお送りします。入会されている方は、動画閲覧の前後にぜひお読みください。

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「日本も世界基準のサッカーをしなければならない」とよく言われます。「世界ではボール支配率を高めることに取り組んでいる」「いや、ショートカウンターからの鋭い攻撃が今のトレンドだ」と戦い方に関する話や、「4-2-3-1の方が有効だ」「違う!これからは4-1-4-1だ」というシステム論もよく聞かれます。

 でも実際のところ、世界のサッカー現場で行われているのはどういうものなのでしょうか。流行りやトレンドというのは確かにありますし、重要なものです。しかし現場の人間にとってより大事なことは、ただ闇雲に飛びつくのではなく、どのようにそうしたトレンドが生まれたのかという背景を知り、そして今後5年、10年先のサッカーはどうなるだろうかという視線を合わせ持つことだと思われます。
 
 今回はそのための一例として、ドイツにおける国際コーチ会議で発表されてきたテクニカルレポートを紹介し、サッカーの流れを追いかけてみたいと思います。

 DFB公認A級、プロコーチライセンス保持者対象に行われるこの国際コーチ会議は毎年7月に3日間開催されます。毎年様々なテーマが設けられ、心理学者やスポーツ科学者、教育学者の講義、ブンデスリーガやDFB専任指導者によるトレーニングデモンストレーションなどが行われます。特にワールドカップや欧州選手権が行われた年には各大会の分析・傾向・対策が盛り込まれたテクニカルレポートが発表されます。
 
 2009年にA級ライセンスを獲得して以来、私は毎年参加していますが、どの話も非常に興味深いものです。基本的にほぼすべて真面目な専門的な話ばかりですが、時には「誰もが一度は聞いたことがある、でも実際はどうなんだ?」という"ネバーチェンジング・ウィニングチームは本当か?"とか"PKを奪った選手は自分でPKを蹴るべきではない"といったサッカーにおける真実を、まじめに統計学的アプローチで分析し、果たしてどれだけ信憑性があるのかを探るという酒のつまみにぴったりなネタを出してくれたりもします。

 さて、テクニカルレポートによると2006年ドイツW杯では中盤や前線からのプレスが特徴でした。90年代の守備的サッカーから脱却しようと、各国・各クラブがオフェンシブサッカーへの積極的なアプローチを見せていました。そのためにゴール数は増えましたが、裏を返せば守備に安定感がなく、粗さが目立つ大会でもありました。
 
 そのため2008年欧州選手権の頃には守備ラインを深く取り、守りを固めるやり方が多く見られるようになりました。守備戦術がより深く浸透してきたことで個人技任せや不用意な攻撃ではチャンスを作り出すことが難しくなり、2010年W杯のころにはボールをより大事にし、しっかりとしたビルドアップから攻撃を組み立てていこうというポゼッションサッカーへの傾向が強くなってきました。
 
 このW杯後にドイツ代表監督のヨアヒム・レーブは「守備的な戦い方ではもはや勝てない。2006年のイタリアのような戦い方ではもはやワールドカップで優勝することは出来ない。それが我々の見方だ。リスクにトライしながらオフェンシブに戦わなければならない。自分たち主導で攻守両面において仕掛けていかなければならない」と分析。こうした姿勢が強いだけではなく、美しさも併せ持つようになった現在のドイツ代表によるアタッキングサッカーを生み出す土台となっています。

 ポゼッションサッカーを志向するチームが増えてきたと言っても、ただボールを回すだけではゴールには近づけません。そこで攻撃をスピードアップするためのグラウンダーの鋭い縦パスが重要になってきました。相手も縦パスを入れる選手を警戒し、ボランチへのマークが厳しくなったことから、その役割がCBやサイドバックに今では下がってきています。

 一方でDFB専任指導者ベルント・シュトゥーバーは2010年の国際コーチ会議で「どのチームがカウンターチームで、どのチームがポゼッションチームだという違いはどこまで明確に見られるのだろうか。得点を奪うのに一番いい状況は、相手チームが陣形を整える前に攻めきるカウンターであるのは変わらない」とカウンターの重要性について話していました。
 
 複数の選手がコンビネーションからカウンターを貫徹させるコレクティブ・カウンター、ボールを失った瞬間にプレスを仕掛けて奪い返すゲーゲン・プレッシングといった新しいやり方も生まれています。「ボールを奪う位置、奪ってからの展開で違いはあっても、素早い切り替えから相手が戻り切る前にシュートまで持ち込むことが大事であり、それを念頭に置いたトレーニングが必要だ」とシュトゥーバーは強調していました。

 ポゼッションかカウンターか。技術かスピードか。攻撃的か守備的か。色々な議論が行われてきましたが、重要なのは「どれがベストか」ではなく、「最適な組み合わせはなにか」という点です。元DFBスポーツディレクターのマティアス・ザマー(現バイエルンSD)が印象に残る言葉を残していたので、最後に紹介したいと思います。

「例えばスペインは現在の世界チャンピオンだが、90年から2000年代までも常に強豪国に数えられながらも、ビッグトーナメントでは全く結果を出せなかった。技術も戦術もフィジカルもあったのに、だ。

 そこで精神的にも強い選手が使われるようになった。若い時からタイトルを勝ち取ってきたシャビやイニエスタ、ピケといった選手との融合がスペインを王者にした。シャビやイニエスタを天才だと絶賛する人は多いが、今の彼らに到達するために様々な取り組みが行われてきたことを忘れてはいけない。長期的な視野で、クリアーなビジョンとコンセプトを持って若手育成をやり続けてきたからこそ、今の彼らがあるのだ」

 物事の表面だけを見るのではなく、そこから様々なものを読み取り、改善しようと工夫をし、それを自分たちのサッカーへ還元していく。その試行錯誤の繰り返しが日本サッカーをより一段上のステージへと導いてくれるのではないでしょうか。
 
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中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。


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