06.09.2014
ギリシャは、最後のステージまで闘える力を持っている――ランデル・エルナンデスの対戦国分析(2)
文/ランデル・エルナンデス
翻訳/小澤一郎
<<前回記事、コートジボワールは、明確なスタイルを持たない――ランデル・エルナンデスの対戦国分析(1)<<
【特徴】
ギリシャは国際大会の常連国です。ただし、今大会のグループリーグ突破の可能性については未知数です。明らかなことは、日本が簡単に勝てるような相手ではなく、ワールドカップを十分に闘える力を持っている、すなわち最後のステージまで闘い続けることができるチームであるということです。
このグループ内では「最も決勝T進出の可能性が低い国」と言われていますが、前評判が低いということは逆に負けを恐れることなく闘うことができる、精神的に優位に試合を進めることができる要因となります。
基本システムは4-3-3で、守備を意識した戦いを遂行する時にはダブルボランチの4-4-2を用います。ギリシャは明確なスタイル(これはチームが機能し、試合中のプレーを明確にする一つの鍵となります)を持っており、それは相手に与えるスペースを潰すこと、チームをコンパクトにすること(=ライン間のスペースを消すこと)、攻撃時に生まれる少ないチャンスを活かすこと、そこから生まれるセットプレーからの得点を基本としています。
また、コンビネーションプレーやボール保持をさほど好まず、攻撃陣にスピードを持った選手がいないため、ロングボールを駆使した単発のカウンター攻撃も頻繁には行いません。
チームの中心は大ベテランMFのカラグニス(フルアム)、カツラニス(PAOK)の二人ですが、中盤にはタフツィディス(トリノ)のような若手選手も育っており今大会のギリシャは高齢化がネックになるようなチーム、選手構成ではありません。
堅守が長所のチームだけに、トロシディス(ローマ)、パパスタソプロス(ドルトムント)といったDFの主力が欧州の強豪クラブで活躍しています。前線にはエースのCFミトログル(フルアム)が控え、ウイングでプレーできる選手層も厚く、交代の切り札での起用が予想されるフェトファツィディス(ジェノア)のドリブル突破も攻撃のアクセントとなっています。
【監督】
フェルナンド・サントス
ポルトガルとギリシャで指導経験を持つベテラン監督です。彼は前回大会後に退任したオットー・レーハーゲルの後任監督として就任しましたが、ギリシャのサッカーを過度に改革することを好まず、攻撃の質と動きの数を増やすことをチームに加えながら、チームの根幹は維持しました。また、基本である守備に関しては前任者からのやり方を踏襲するなどバランス感覚に長けたチーム作りで初のグループステージ突破を狙っています。
【日本の勝ち方】
この試合での日本の勝ち方について言及するためには、ギリシャ戦の初戦(コロンビア戦)の結果が重要な意味を持ちます。欧州予選での戦いを見ても、ギリシャは試合の主導権を握ることに興味がないチームですから、この日本戦は日本にボールを持たせることを前提とした戦い方を敷いてくるでしょう。
しかし、彼らは少ないながらも決定機なゴールチャンスを作り出すために粘り強い守備を行い、場合によってはロングボールを多用した中盤省略の展開に持ち込んで来るでしょう。日本代表が勝ち点3を取るためのポイントは以下の4つです。
(1)相手陣内にサイドから侵入
4-2-3-1を基本システムとする日本としてはギリシャのアタッキングサードで多くの選手がプレーすること自体が判断ミスとなりますので、センターバックから相手を背負ったボランチにパスを付けるような配給は避けたいところです。
日本はサイドから相手陣内に侵入し、ギリシャのウイングを自陣に押し込まなければいけません。サルピンギディス(PAOK)、サマラス(セルティック)といったウイングが自陣で守備を行う時間が多くなれば、日本にとっては有利な展開となりますからギリシャのシステムが4-3-3から4-1-4-1になるようサイドからの侵入と崩しを心がけたいところです。
(2)ボランチのポジショニング
ギリシャの攻撃は、カウンターかライン間のスペースを利用することでチャンスを作り出してきます。守備における日本のキーポイントは攻撃時から選手間の距離を短く保つことと、ボランチのポジショニングです。特にボランチは、攻撃しながら守備でカバーリングできるポジションとチーム全体のバランスを常に意識したいところです。
ギリシャのカウンター攻撃ですが前線1トップへのロングボールは単発な攻撃で終わりがちですからさほど警戒する必要がなく、それよりもウイングが中寄りの中途半端なポジションを取ってライン間のスペースでパスを受けることでスイッチが入る攻撃や仕掛けに警戒したいところです。
(3)積極的なシュート
試合で勝つためにはチャンスをものにしなければなりませんが、その前にチャンスを作り出さなければなりません。ギリシャ相手に日本が試合をコントロールし、リズムを作り出すのは間違いないと見ていますが、少し不安なのは「支配」を「チャンス」に変えることができるかどうかです。
確かにゴールするためには才能と運が必要ですが、少なくともシュートを打たなければ話になりません。この試合において積極的にシュートを打つ姿勢を持つことは2つの目的があり、当然ながらゴールを奪うため、それとギリシャにカウンター攻撃をさせないためです。
(4)自陣での軽率なファールを避ける
ギリシャの大きな武器の一つがセットプレーですので、日本としては自陣での軽率なファールをできるだけ避けるべきです。特に、ディフェンシブサードでのファールは最大限に注意すべきでしょう。前回大会で日本は守備的な戦いを敷いたということもあって、自陣で簡単にファールを冒してしまうようなシーンが散見されましたが、その過ちは二度と繰り返してはいけません。
高さのある選手が揃うギリシャはセットプレーから一発でのシュート、得点のみならず、折り返しやこぼれ球からのゴールも狙ってくるでしょうから、日本のセットプレーの守備としては最初のボールを触る、弾きだした後の集中力の持続もポイントとなってきます。
■ランデル・エルナンデス
1976年3月6日、スペイン・ビルバオ生まれ。育成年代の指導に20年以上携わる。2006年、「アスレチック・ビルバオ主催キャンプ」でU-12からU-14の日本人を指導、2007年、2010年に日本でクリニック、指導者講習会を開催。取得資格は「弁護士資格」と「スペインサッカー協会公認上級ライセンス(LEVEL 3)」。
取材・文 ランデル・エルナンデス 写真 poolie