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怖いのは「GKを"操る"」選手――GKコーチ目線から見た「本当に怖いストライカー」

 COACH UNITED編集部です。これから2回に分け、(株)アレナトーレ所属・TKDGKアカデミー代表/スクールマスターの武田幸生(たけだ・ゆきお)さんに、「GKコーチ目線から見た『本当に怖いストライカー』」という視点からのお話をお送りいたします。
 
 ブラジルワールドカップの開幕が近づき、多くのメディアで特集が組まれています。特に花形になるのは、やはり攻撃の選手たちです。しかし攻撃の選手がどのように素晴らしいかという視点において、意外と見落とされがちなのは、その攻撃を受ける側つまりGKの視点ではないかと思います。とりわけ、GK指導のスペシャリストである武田さんに、GKでなく「攻撃の選手」を語っていただくことで、また違った視点からW杯を眺めることができるのではないでしょうか。
 
 それでは、さっそくお読みください。(取材日:2014年5月26日 取材・文:浜田尚輝 写真:澤山大輔[COACH UNITED編集部])

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■GKが感じる"本当に"怖いストライカー

――武田さんにとって、怖いストライカーというのはどのように定義づけられますか? 

武田幸生(以下、武田) 一言で言うと、"GKを操ることができるプレイヤー"だと思います。GKは基本的に自分からアクションを起こしていくものではなく、リアクションのポジションとも言えます。そのリアクションを、どう崩していくか。そのままシュートを打って決まる場面もありますが、打つと見せかけてタイミングをずらすといったことのできるプレイヤーは、私自身がプレーしていても嫌ですね。指導をしているチームでも、そういうストライカーについては簡単に引っかからないよう指導しています。

――そういったストライカーが絡む、具体的に怖いシチュエーション、プレー展開はありますか?  

武田 まず1つは、GKがゴールを背にした状態でゴールに向かってこられるより、サイドから崩されて視野に死角を作らされる方が怖いです。視野の外から、急に人が飛び込んできたりしますからね。

 なでしこがアジアカップ決勝で取った1点も、やはりCKから一度落として、GKの視野から外れるファーへとクロスが上がったことで得点につながりました。ずっと見ていれば「ちょっと動いているな」と分かりますけど、あのシーンのように目線を変えられると、移動した中ですぐに認知しないといけません。DFを揺さぶるのと同じで、幅を使って攻撃される方がGKにとっては難しいのです。

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――逆に、正面からのミドルシュートを得意とする選手もいますが、そういった選手はそこまで脅威ではないということでしょうか? 

武田 至近距離の1対1であれば、タイミングさえ合えば体で防げたりします。実は、至近距離のシュートの方が、ある距離まではGKも楽なのですよね。しかし距離が遠くなってくると、蹴られて自分のところに来るまでに時間が生まれるので、見て判断する際にコンマ何秒ズレてしまうわけです。

「ミドルシュートって、何であんなに入ってしまうのだろう?」と思われがちですが、ゴールまで到達する1、2秒という時間が意外と判断しづらいのです。あとは、そういったミドルシュートを打たれる時は自分とシューターとボールだけでなく、その間にDFがいます。それゆえ、余計にそこは難しくなります。その間にいる人が重なってしまって、シュートコースが見えづらくなったためにズレが生じ、例えばニアが空いてしまえばそこでやられてしまったりします。

 逆にそういうことを知っているストライカーは、ドリブルをしながらGKとDFのポジションを意図的に重なるように持って行き、そのタイミングでシュートを打ったりします。もしくはGKの正面ではなく斜めに切り込んでいくことでDFを誘導し、シュートモーションでDFに足を出させてその股下を狙ってきたりもします。一瞬ボールが見えなくなり、そこから急にボールが出てくるため反応が遅くなってしまうわけです。

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 また、体を横に持ち出した時にワイドにいた選手が走り、そこにパスを出すモーションをしながらゴールを狙うというオトリのプレーを上手く使う選手もいます。ゴールの位置に対して少し外に持ち出し、その同サイドを相手が走ってくれば、GKも「パスを出すのかな」と感じて重心を少し横に移しがちです。そうなってしまうと、GKも体勢を崩してしまいます。

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 チャンピオンズリーグ決勝でカシージャスがノッキングしたシーンも、おそらく普段のストレスのない状況であれば全然問題はなかったと思います。ですが、「この距離であればいけるだろう」で行ってみたら、自分の目測と違っていたのです。もう少し早く気づけば、そこで1回戻って普通にキャッチできたのでしょうけど、もう行った時には1歩から半歩ぐっと踏み込んでしまっていたので、やられてしまいました。あれも、見えるものや人の配置によって、ズレが生じてしまったからだと思います。もちろん、やってはいけないプレーではありますけど。
 

■W杯で注目すべきストライカーは?

――間もなくブラジルW杯が開幕します。W杯出場国の中で、武田さんが感じる怖いストライカーというのは具体的に誰が挙げられますか?  

武田 1人は王道であるブラジルのネイマールです。ネイマールに限らずブラジルの選手、ストライカーに多いと思うのですけど、よりゴールに近いところでどう駆け引きをするのか、GKの裏をどう突くかということをよく分かっていると思います。GKやDFとの1対1の駆け引きを何パターンも持っているので、GKやDFをより上手く操ることができるのだと思います。

 コンフェデ杯2013決勝の2点目、ネイマールがニアサイドの上を打ち抜いたシュートなんかもそうですよね。オスカルが真ん中から仕掛け、ネイマールが抜け出し、横パスに対してのファーストタッチを左前に流してニア天井を打ち抜いたシーンです。

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 あれも決してゴールエリアの中でシュートを打ったのではなく、ゴールエリアから少し外れたところからのシュートでした。あのシーンを見ても、ボールの位置をずらすことでGKカシージャスがポジションを変えるということが自然と身に付いていますよね。
 
 あの時、GKは右側にポジションを移動したので、GKも少し右の方にそのまま重心が乗ってしまっていたと思います。GKはニアを消さないといけませんからね。そういう時にニア下を狙うと、防がれてしまう可能性があります。ましてやカシージャスほどのGKであれば、反応も早いです。だからと言って、今度はファーにシュートを打ったとしても、左足で振り抜いた時に外側にシュートが行ってしまって外してしまう可能性もあります。
 
 そうなった時に、一瞬で「ニア下は手を出されるかもしれない、でもこのコースなら出せないだろう」という判断をしたのかもしれませんし、GKとの駆け引きの中で「どこに打てば入る確率が高まるのだろう」ということであのコースに打ち抜いたのかもしれません。
 
 決勝は3―0というスコアでしたが、もしかしたらカシージャスが最初の方でシュートブロックをしていた、あるいは下のコースのシュートを全部止めていたということがあって、あのコースを狙ったのかもしれません。あるいは、カシージャスは至近距離のシュートに対し絶対的な強さがあるGKだと知られていますし、事前のデータなどを分析して「上を狙う」という決断をしたのかもしれません。
 
 少し話は逸れますが、ブラジルのフットサルでも結構顔の横を狙うんですよね。そこだと手が出にくかったりしますから。あとは、顔に向かって打つこともあります。そういう部分も、もしかしたらすでに体に染み付いているのかもしれません。

 そういうストライカーに共通していることで、表現はあまり良くないですが「捨てシュート」というものがあると思います。シュートを打ってみて、「あ、このGKはこのコースにも反応するんだな。じゃあ次はもう少しズラしてみよう」とか、「次はDFと重ねてからシュートを打ってみようかな」というのがあると思います。
 
 あるいは、前に食いつくタイプのGKであれば、ちょっと前に食いつかせておいて裏を狙ったりします。そういうタイプじゃないストライカーだと、得意な形は持っているけど、それに対してGKもタイミングを合わせていけばおそらくGKの方が上回っていきます。でも、上手いストライカーですと、GKの動きを見たり「捨てシュート」をしたりします。

 あとは、GKと目の合わないストライカーはそこまで怖くはないと思いますね。フィールドでも、マークについている選手を見た時に目が合えば、「あ、こいつ何か考えているな」と感じますよね。よりGKのレベルも上がると「あ、こいつ見ているな。シュートを打つかもしれない。それじゃあ準備しておこう」とか「見ているけど、違う場所を見ているから、こっちを誘っているな」という感じになるのだと思います。
 
 逆に、GKからも「俺もこっちから見ているぞ」と感じさせれば、「俺のことを見ているな。迂闊にシュートは打てない」となるかもしれませんし、それで少しでもシューターの反応が遅れれば、DFが奪いに行くこともできます。そういう心理戦もあると思います。恐らくネイマールという選手は、そういったことを踏まえて世界的に評価が高い選手であり、テクニックだけでなく感覚的に、もしくは頭も使ってプレーしているのではないかなと感じます。ですから、私が一番に推したいのはネイマールですね。

>>後編:一流のFWほど「捨てシュート」をする――GKコーチ目線から見た「本当に怖いストライカー」>>
 
武田幸生(たけだ・ゆきお)
1970年11月生まれ。北海道出身、株式会社アレナトーレ所属。横浜在住。1999年からジュニアユースチームのGK指導を始め、現在は大学でGK指導。また横浜や東京でGKスクールを開校。全国各地でGK講習会などの地方巡業も積極的に行う。草の根からトップまでのGKを指導のスペシャリストを目指して活動中。日本サッカー協会公認B級コーチ、日本サッカー協会公認ゴールキーパーB級コーチ。