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ワンツーで戦術眼が磨かれ、戦術能力が向上する(後編)

※サッカークリニック2014年8月号 特集『ワンツー・パス活用術』掲載

ジュニア界の強豪クラブの指導者による対談が実現。全日本少年サッカー大会へ6年連続で導いているファナティコスの若林秀行代表と、今年のダノンネーションズカップで優勝に導いた、横河武蔵野FCジュニアの戸田智史監督。ともに戦術でワンツーを重視する理由とは。

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HT023196_580.jpg(取材・構成/石田英恒 写真/田川秀之 協力/サッカークリニック編集部

■レシーバーがギャップを取る

戸田:ファナティコスの選手を見ていると、みんなが目線を合わせながらプレーしているのが分かります。われわれには参考になり、勉強になるものでした。ワンツーをするときに欠かせないのが、目線を合わせるアイコンタクトだとあらためて理解できました。ボールを持っている選手に対し、目線を合わせる選手の人数が増えると、指導者が驚くようなパス交換や、すごい崩しが出てきます。

――ワンツーでは目線を合わせることが大事なのですね。

若林:目線と声掛けで、タイミングを合わせることが必要です。ほかにも、ワンツーを行なうことで、距離感に関して学ぶことができます。育成年代において距離の感覚をつかむことは非常に重要です。例えば、ショートパスで狭いスペースの混戦を突くワンツーの距離感もあります。また、ボランチからの縦パスや、サイドバックの斜めのパスからのスタートで、広い視野を持って行なうワンツーの距離感もあります。ワンツーで距離感がつかめるようになると、パス能力が向上し、スルーパスもうまくなっていきます。すると、ジュニアユースで、パススピードが速くなっても対応できるようになっていくのです。

――ワンツーのパスに関してはどうですか?

若林:ワンツーのパスの基本は、縦パスか斜めのパスで、横パスは極力行ないません。斜めのパスはインターセプトされても、パサーが守備に戻ることができます。しかし横パスはインターセプトされた場合にパサーが対応できず、決定的なピンチにつながります。特に少年サッカーは8人制なので、横パスでミスすると、どんなに能力があっても置いていかれ、ピンチになってしまいます。レベルの高い試合では、横パスのワンツーはほとんどないと思います。

戸田:横パスはカウンターを浴びるリスクがあります。8人制になり、よりリスクが高まりました。そういう場面を少なくするために、子供たちにはボールも人も斜めに動き、トップの選手に斜めに入れるイメージが持てるように指導しています。ビルドアップのスタート時から、斜めのパスのイメージを持つように伝えています。トレーニングにおいても、相手のバイタルエリアに進出した選手に入れるラスト・パスから、逆算して攻撃を組み立てるイメージで行なっています。またウチでは、子供たちにワンツーをしようと指導するよりも、受け手に相手選手のギャップをとることを意識させています。相手のギャップに入れるかどうかで、相手を置いて前に行けるかどうかが決まるのです。

――ワンツーの基本的なパターン、トレーニングについて教えてください。

若林:前を向かないとワンツーは成立しないので、まず前を向くことです。基本パターンは3つぐらいあり、それを練習で行なっています。1つには味方の背後を回って追い越し、ワンツーのパスを受け、相手を引き出して、数的優位をつくるパターンがあります。2対2から2対1をつくっていく動きです。パサーはレシーバーの動き、周りの状況を一瞬で判断し、ボールを入れていきます。

戸田:ワンツーでの基本的な動き方としてポイントの1つとなるのが、受け手が相手選手3人のトライアングルの中心に入って受ける動きでしょう。ギャップをとる動きを分かりやすくしたもので、三角形の中心で受けてリターンパスを出すことで、相手ディフェンスを置き去りにすることができます。また、トライアングルの3人の中心に入ると、斜めのパスが入りやすくなり、先に話したように、ボールが斜めに動くことで、カウンターを受けづらくなり、味方の縦関係も取りやすくなります。

――では、どんなトレーニングを行なっているのですか?

戸田:例えば2対2のライン突破ゲームです。ゴールを設置すると、ゴールを意識して崩しの場面が出にくくなってしまうので、ゴールを設置せずにライン突破で行ないます。相手をどう食いつかせ、相手の背後をどうとるか、動きの質、タイミングが重要です。コートの縦の長さや横幅の設定を変えて行ないます。

若林:ウチでは例えば5対5を行なっています。ポゼッションの中でワンツーを行なったら1点というゲームです。スペースの広さを変えながら、ワンツーの距離感やタイミングをつかむことを目指します。ワンツーのトレーニングをジュニア期に行なうのは、戦術練習の導入としても効果的です。何より、子供が楽しんで行なえますし、ワンツーの戦術理解は比較的分かりやすいという側面があるからです。