TOP > コラム > 「良いGKを育成するためにはどうすればいいか~ドイツでGK指導を学んだ日本人コーチが語る、世界基準のGK育成法」(後編)松本山雅FCアカデミーGKコーチ 川原元樹インタビュー

「良いGKを育成するためにはどうすればいいか~ドイツでGK指導を学んだ日本人コーチが語る、世界基準のGK育成法」(後編)松本山雅FCアカデミーGKコーチ 川原元樹インタビュー

ブラジルW杯で上位に進出した国には、ワールドクラスのGKがいた。W杯などの国際舞台を勝ち抜いていくためには、相手の攻撃を的確にストップし、素早く攻撃に転じることのできる判断力・決断力・技術力を持ったGKの育成が急務である。かつてドイツのブンデスリーガでGKコーチとして経験を積み、現在は松本山雅FCアカデミーでGKコーチを務める川原元樹氏に、GKの育成について話を伺った。(取材・文/鈴木智之 写真/田川秀之)

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――ドイツにはシューマッハーやカーン、ノイアーなど、名GKを輩出する国という印象がありますが、ドイツのGK育成事情はどのようになっているのでしょうか?

川原:選手の育成に力を入れ出したのが、2000年の欧州選手権で惨敗してからなんです。DFB(ドイツサッカー協会)は、ブンデスリーガの各クラブにアカデミーの保有を義務付けて、トレセンを整備しました。アカデミーがGKの指導者ライセンスができたのが、ここ2、3年のことで、それまではGKの指導者講習会などもありませんでした。そのためGK指導を学びたい人は、隣のオランダに行っていました。指導者を養成するシステムは、オランダの方が進んでいる印象があります。

――オランダのファン・デル・サールは、ノイアーのように身長が高くて足元の技術がある、名GKでしたね。ドイツの場合、数年前まではDFB主導ではなく、各クラブのアカデミーの指導者たちが、良いGKを育成しようとしていたんですね。

川原:そうですね。DFBは2000年の欧州選手権で敗れたあと、プライドを捨てて、育成で良いと言われている国に多くの指導者を派遣しました。海外の進んでいる事例を、ドイツに取り入れようとしたんです。いまドイツのGK指導ライセンスには、ベーシックコースとプログレッシブコースという2つのカテゴリーがあり、それに加えてプロライセンスを作ろうとしています。ドイツのGKライセンスをとるには、講義を受けて指導実践をして、基準に達していれば合格になります。私が受けたときは、40時間の授業を1週間で受けるという日程でした。いまはライセンスを持っていないと、アカデミーで指導することはできません。

――川原さんの活動について伺いますが、松本山雅FCのアカデミーとして実施している、GK講習会は定期的に行っているんですか?

川原:はい。小学校4、5、6年生を対象にしたコースを月に1回、行っています。子どもたちは飲み込みが速いので、少し教えるとすぐに覚えてくれますね。いまは3回目を終えたところなのですが、回を重ねるごとにぐんぐんうまくなっている印象があります。練習時間は1時間半で、身体よりも頭の中を疲れさせるような練習メニューを組んでいます。

――川原さんのように、専門のGKコーチがいない場合、どうやって指導をすればいいか、悩んでいる指導者もいると思います。トレーニングの組み立ては、どのようにして行えばよいのでしょうか?

川原:まず大切なのは、プレーを分析することです。試合の中で、ディフェンスラインを突破された、クロスがあがった、シュートを打たれた、点を決められたなど、起きた結果は見ることができますよね。そこで、なぜそのプレーがうまくいかなかったのか、どうすればうまくいくかを分析して、それをもとに練習を組み立てていきます。指導をする年代が育成年代であれば、苦手なプレーを1つずつ消していくことも必要です。相手がプロの選手であれば、その選手に合わせたトレーニングをするのも良いと思います。実際に僕がブンデスリーガのビーレフェルトにいたときに、一緒に働いていたコーチは、選手によって練習内容を変えていました。トップレベルでプレーすることを考えると、苦手なプレー、弱点がひとつでもあれば、良いGKにはなることができません。選手の弱点は個々によって違うので、その選手に合った内容のトレーニングをするのも良いと思います。

――トップレベルになればなるほど、スカウティングが進んでいます。そこで『このGKは右からのクロスボールに対する判断に迷いがある』など、弱点がわかってしまったら、そこばかり突かれて失点する可能性が高くなりますね。

川原:チームメイトの信頼も失ってしまいますよね。苦手なプレーがなくなると、自信も大きくなるんです。『クロスボールが来たらどうしよう』と思いながらプレーするのと、『どんなボールが来ても対応してやるぞ』というのでは、相手に与えるプレッシャーも変わります。ブラジルW杯のノイアーは、自信に満ち溢れていましたよね。プレーが成功すると自分も乗ってきますし、相手に与えるダメージも大きいんです。シュートを簡単に防がれるのと、ギリギリのところで防がれるのとでは、シュートを打つ側に与える影響も違いますよね。渾身のシュートを簡単に止められたら『どうしたらいいんだ?』となって、シュートを打てる場面でもパスを選択したり。そうやって相手にプレッシャーを与えられるのが、良いGKなんですよね。

――GKに対して、自信をつけさせるためにはどのようにすれば良いのでしょうか?

川原:ひとつは、数多くの成功体験をさせること。それと、プレーの振り返りも大切です。GKにとって、失点したことを放ったらかしにされるのが一番きついので、なぜ失点したのかをコーチの方やチームメイトとディスカッションをしてもらえればいいと思います。ミーティングの中で、GKの意見はスルーされがちなんです。ドイツでもミーティング中に、『この失点はGKから見てどうだった?』と聞くコーチは多くはありません。GKの考えを聞き、ディスカッションをすることでポジショニングやタイミング、判断などについてより考えるようになりますし、GKの考えを他のポジションの選手が知ることで、知識の共有にもなります。

――ブラジルW杯を見てもわかるように、GKがしっかりしていると、試合が引き締まりますね。それだけ重要なポジションでもあります。

川原:それは練習も同じです。シュート練習にせよ、4対4などのスモールゲームにせよ、点が入ったら試合が一旦途切れますよね。そこで、GKがシュートを止めるとプレーは続くので、攻守の切り替えが速くなったり、プレーの強度も上がります。練習のなかで、GKが果たす役割は大きいんですね。シュートを打つ側の選手も、コースを狙って蹴らなければ入らないと思ったら、工夫するようになりますよね。

――今後、良いとされるGK像はどのようになっていくと思いますか?

川原:ある程度良いプレー、チームに求められるプレー、必要な技術は決まってくると思います。ビルドアップへの参加、DFラインの背後をカバーするプレー、クロスに対するプレーの強さなどは重要視されると思いますが、やはりGKの原点は得点機会を阻止すること。それは変わらないものだと思います。今後は、多くの人にGKに対する知識を持ってもらい、良いGKを育成するにはどうすればいいか......という視点が増えてもらえればと思います。GKも11人のうちの1人ですからね。私自身、微力ながらGKについて発信していくことができればと思います。

川原元樹(かわはら・もとき)
大学卒業後ドイツに渡り、ケルン体育大学に通いながらGKとして6部リーグでプレー。指導者転向後は、GKコーチとして名高いトーマス・シュリーク氏のもと、アルミニア・ビーレフェルトで育成からトップまで指導を行う。ハノーファー96ではU17のGKコーチ、酒井弘樹の通訳としてトップチームに帯同。VFBシュツットガルト、バイヤー・レバークーゼン、TSGホッフェンハイム、シャルケなどの育成チームで研修を積んだ後、2013年より松本山雅FCアカデミーのGKコーチに就任。ケルン体育大学の卒論のテーマは「ブンデスリーガ・アカデミーのGK練習の考察」。

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