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「考えろ!」という指示だけというのはヒントにはならない。ドイツサッカー協会とプロコーチ連盟によるW杯分析~Vol.3~

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Photo by Maggio7

前回お話しさせていただいたように、今後もまずベースとなるのは「個人レベルでの技術と戦術の充実」。ドイツでもそうだが、特に小学生年代にはコーディネーション、技術力アップを狙うトレーニングを頻繁に行い、生涯の基盤となる基本技術と身のこなしを身に付けることが大切になる。そして身につけた技術は試合で活用できなければ意味がない。技術力を上げるために必要なのは反復練習。しかしだからといって決まりきった形のドリルトレーニングだけを永遠繰り返すだけでは、試合で生かせるようにはならない。どのように技術は様々なプレッシャーのある試合の中でも発揮できるようになるのだろうか。 (取材・文/中野吉之伴)

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■技術を生かすための戦術理解と判断力

技術を試合で生かすためにはまずベースとなる戦術理解が必要で、その上で何が最適なプレーかを判断する力が大事になる。試合である選手がボールを失うと、「技術的なミスをしたからだ」と結論されることが多いかもしれないが、実際にボールを失う大きな原因は「フリーだったのに慌ててボールを蹴ってしまった」「フリーの選手がいたのに、マークされている選手にパスを出して奪われた」「相手選手がいるほうにトラップしてしまいカットされた」「何人も相手がいるのにドリブル勝負をしてしまった」というように、戦術的なゲーム理解の欠如、判断力のまずさによるものが挙げられる。つまりトレーニングから判断力や戦術理解を深めることにも取り組まなければならない。ではどのようにトレーニングすればそうした能力を高めることができるだろうか。

例えばワンツーの動きを取りいれたパス練習をし、その後で3対3のトレーニングを考えたとする。攻撃の選手が横パスを出しているだけでは何も起こらない。指導者が「ワンツーパスの練習をしただろう!」と指摘する。言われた子どもはいきなりワンツーパスを使おうとする。しかし簡単に相手にカットされてしまう。「何やってんだ!考えてプレーしろ!」と怒鳴る。そうした練習の1シーンに心当たりはないだろうか?

「考えろ!」なかなか便利な言葉だ。しかしその子どもはおそらく何を考えればいいかわからないから困っているはずだ。「考えろ!」という指示だけというのはヒントにはならない。「ワンツーパスを使え!」という指示も具体的なようで解決策にはなっていない。ワンツーパスとは攻撃手段の1つであり、大切なのはどうそれを使うかだ。

例えばワンツーパスを上手く使うためには相手守備の一人を引き出せなければならない。ボールをさらして奪いに来たところで、サポートに来た仲間にパスを出してスペースに抜けだす。パスを受けた選手は"ツー"のパスを返さなければならないわけではない。相手選手の一人がスペースに抜け出た選手に反応したならば、ターンしてボールを運ぶのも有効な手段だ。あるいは3人目の選手がワイドに開いて縦に抜けるパスコースを作れば相手守備陣をさらに揺さぶることができる。

ここで大切なのは、修正を施すのは攻撃側だけではなく、守備側にも行わなければならない点だろう。ワンツーパスの例であれば、相手ボールに軽卒に飛び込んで裏のスペースに抜けられるのは守備選手のミス。積極的に当りながらも、パスを出された際に後ろのスペースに戻るという意識を持っていなければならない。

このように守備側がしっかりと守れている状態で、そこをどのように崩すかにトライすることが試合で生きる技術となる。ただパスを回したり、ワンツーパスを狙うだけでは相手の守備は崩せない。ではどうすればいいのか。例えば一人の選手が裏への飛び出しを見せる。一回では相手もついてくるだろう。しかしさらにポジションチェンジをしながらパスを回し、動きのスピードに変化をつけると対応は難しくなってくる。時にドリブルで仕掛けたり、チェックに来なければシュートを狙ったりとリスクチャレンジすることで相手守備を揺さぶり、チャンスを作り出すことができるようになる。大事なのは駆け引きを身につけることなのだ。

これは1対1の対応においても大切だ。競り合いで相手に負けない身体の強さと使い方、相手との距離感やポジショングや体の向き、オフ・ザ・ボールでの動きなど様々な要素を習得する必要があるが、その上で重要なのは1対1の状況だけでトレーニングをしないことが挙げられる。

1対1で攻撃選手が有利とされるのは、パスなのかドリブルなのかシュートなのかとさまざまな選択肢を持つことができ、主体的に駆け引きをすることができるからだ。ドリブルしか選択肢がない中で対峙した場合、守備選手にとってはそれだけに集中すればいいのだから対応は確実にしやすくなる。もちろんそうした状況でも突破したり止めたりする練習も必要。だがそれ以上にその武器をどのように発揮するかの術を身につけることが大切になる。特に小学生年代では少人数(2対2から4対4)でのゲーム形式でやり合い、相手との駆け引きにトライすることが大事だろう。

■経験の上手な足し算・引き算

経験はもちろん足し算されていくことが望ましい。しかし計算式のように単純に積み重ねていけるものではない。失敗と成功を繰り返し、それをフィードバックすることで自分自身のものさしを持ち、それぞれの経験をどう組合わせると自分にとってプラスになるのかという式を作り上げていく。

例えば「フリーの状況でトラップがうまくいかずコントロールする間に相手に戻られた」という経験から、ファーストタッチを大事にしようと意識し、「ドリブルで相手の逆を取るという練習」から得た経験を加えて、「ファーストタッチで相手の逆を取るところへボールを運ぶ」という目標を立てる。あるいは指導者からのアプローチとしては、中盤でボールを持ちすぎて奪われた選手に「ドリブルは駄目」とバッサリ切るのではなく、どの状況であればドリブルが有効なのかを説明し、どうすれば持ちすぎずに状況を打開できるのかの選択肢を与えることが重要だろう。

結果を焦らない。指導者仲間であるSCフライブルクU12監督のパトリック・ヘルメルさんは「練習で出来ても、いざ試合となると頭から抜けてしまうこともある。しかしそれは普通のことだ。それならばもう一度じっくりと話をして練習でトライすればいい。指導者は我慢強くなければならない。今日言ったことが明日出来ることなどない。しかし昨日までできなかったことが今日出来るように導くのが育成だと思う」と語ってくれたことがある。

選手に自主性や想像性を引き出させるためにといって何も言わずに放任してはいつまでたっても基礎は身につかない。だからといって選手に戦術を植え付けるためとあれこれ細かすぎる指示で管理しては相手の上をいく駆け引きを身につけることはできない。選手の才能を引き出し、次のステージに上げるために、それぞれに合ったやり方で最適なバランスを見つけしていく。

「指導者は力や権力で選手を押さえつけるのではなく、しっかりとした専門知識とそれを我慢強く伝えていく人間性でもって、選手に対して納得させなければならない」

"日本サッカーの父"デットマール・クラマーさんの言葉が、その本質をついている。

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中野吉之伴
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。

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