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「負けず嫌いのメンタリティを選手たちに伝えたい」中村忠(FC東京U-15むさし監督)×幸野健一 対談(前編)

COACH UNITED編集部です。サッカー・コンサルタントであり、アーセナル市川SS代表を務める幸野健一さんがゲストを迎えてお送りする対談シリーズ『幸野健一のフットボール研鑽(けんさん)』、今回のゲストは元日本代表MF・DFの中村忠さんです。

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中村さんは読売ユースからの生え抜き選手としてヴェルディ川崎(現:東京ヴェルディ)でプロ人生をスタートさせると、その後は浦和レッズ、京都パープルサンガ(現:京都サンガF.C.)でプレー。日本代表では国際Aマッチに16試合に出場した経歴を持っています。現在はFC東京U-15むさしの指導者をされている中村さんとの対談前編をお届けします。(構成/鈴木智之)

幸野:中村さんは東京ヴェルディの育成組織の出身で、トップ昇格以降、長くプロとして活躍されました。上の年代には、僕と同じ年の戸塚哲也さんや都並敏史さんなどの生え抜き選手がいて。

中村:そうですね。ヴェルディではユースからジュニオールを経て、大学1年でプロ契約をしました。

幸野:現役引退後はヴェルディの育成組織で指導を始め、2012年からはFC東京U-15むさしのコーチ/監督として活動されています。ヴェルディとFC東京は同じ東京に拠を構えるライバルですが、どのようなことを考えて移籍を決めたのですか?

中村:ひとつの理由としては、自分自身、色々なクラブを見てみたいというのがありました。FC東京という、ヴェルディとは文化も歴史も違うクラブで、自分のサッカー観をどのようにして選手たちに伝えられるのか。慣れ親しんだクラブで長くやるよりも、外に出て異なる環境で指導をするほうが、チャレンジとしては難しいですし、やりがいもあるのではないかと感じて、移籍を決めました。

幸野:いまはFC東京に来て3年目ですが、どのようなことを選手たちに伝えたいと思って、指導にあたっていますか?

中村:プレー面で言うと、技術や駆け引きをベースに、見ている人に『おもしろい』と感じてもらえるようなサッカーです。それと、大好きなサッカーに対しては絶対に負けないという、負けず嫌いのメンタリティですね。FC東京の選手はある意味、真面目というか、ファウルをしてでも相手に勝つといったような気迫は薄い部分があります。僕も言葉で伝えようとするのですが、『サッカーに対する本気度』は、言葉だけでは伝わらない部分も多いじゃないですか。

幸野:たしかにそうですね。それはコーチが教える部分でもあり、トップチームの選手の姿を見て、自然と感じる部分だと思います。ヴェルディはジュニアからトップまでよみうりランドで活動をしていますし、中村さんもユースの頃は、トップの選手のプレーを間近で見て、勉強になったことはたくさんあったと思います。いまFC東京はむさしも深川(U-15)も、トップチームとは別の場所で練習をしています。グラウンドの問題などはありますが、育成の観点から見るとマイナスの面もありますよね。

中村:僕自身、トップの選手のプレーを間近で見ることや、一緒にプレーをして感じることはたくさんありました。ただ、環境を言い訳にしても仕方がないので、トップの試合を定期的に見せたり、言葉で伝えたり、考えながらやっています。指導者として、選手に『軽いサッカー』はさせたくないんですね。うまいという言葉は一見、足先のテクニックなど、軽いプレーに取られがちですが、本来伝えたいのはそういうことではなくて。

幸野:中村さんが現役の頃は、守備的なポジションはどこでもこなす、マルチプレイヤーだったわけですが、ポリバレントな選手か、特徴を持って突き詰めていく選手になってほしいか、指導者としてどう考えていますか?

中村:いまは中学生を指導しているので、最低限のことはできるようになってほしいと思っています。その上で、この子はドリブルでプロになる、キックに特徴がある、フィジカルが強い......という子はそれほど手を加えず、選手の持っている発想を大事にしてあげたいです。

幸野:それは、選手に伝えるわけですか?

中村:ドリブルが持ち味の選手が、パスばかりを考えてプレーしてしまっているのであれば言います。どうしても、上手いサッカーというと、きれいにパスを回すイメージがあるじゃないですか。それもひとつの方法なのですが、パスばかりになってしまうと、その選手の良さが消えてしまうので、チャンスがあればドリブルで行く。ほかにも、スピードがある選手に「スピードを使うのもサッカーだけど、そればかりではだめだよ」と言うこともあります。そのバランスは、多くの指導者が悩んでいる部分だと思います。

幸野:ドリブルの話が出ましたが、海外との比較で言うと、日本の選手は場所や時間帯、得点状況を考えず、ドリブルの得意な選手はどんな状況であってもドリブルをする傾向にあります。それは、レベルの高い試合を見る回数が少なく、サッカーに対する理解が不足しているからだと思います。

中村:先ほど、選手個人の技術や駆け引き、メンタリティと言いましたが、それを試合の流れや状況、場所などを理解しながら出せるのが理想の選手ですよね。

幸野:僕はその原因として、小さい頃からサッカーを見ていないことがあると思うんですよ。それは個人戦術にも影響を及ぼしていると思います。いまは地上波でサッカーを見る環境がほとんどないわけですが、ピッチ内でどう補って、工夫していこうと考えていますか?

中村:FC東京に来て最初に考えたのは『どのようなサッカーのイメージを共有させるか』でした。ヴェルディのときはジュニアがあって、ジュニアからトップまで、それなりに同じスタイルのサッカーで統一されていました。中学生であってもジュニアから上がってきた時点で、ボールを動かす感覚、相手の食いつかせ方、止めなければいけないところは身体を張って、ファウルも辞さない構えで止めるとかなど、ある程度は認識が共有されていました。

幸野:たしかに、ヴェルディっぽさはありましたよね。

中村:僕はヴェルディでユースを数年、Jrユースを1年担当したのですが、選手とコーチの中で共通のサッカー観がある中で、個を伸ばすにはどうすればいいかを考えていました。ですが、FC東京の場合はジュニアがなく、チームとして活動するのはJrユースからです。中学生でFC東京に入って来た段階で、選手個々のサッカー観はバラバラです。そこを統一させるのが、最初の仕事になります。

幸野:それは中村さんだけの仕事というわけではないですよね。クラブとして、Jrユースで何を教えるか。そしてユースにどうつなげて行き、最終的にはトップに昇格する選手を育成することが目的ですよね。

中村:そうですね。数年前、クラブに育成ビジョンができました。いろいろなチームから良い素材を獲得する部分では、FC東京は非常に高いレベルにあると思います。そこでどのようなサッカーをするのか。クラブのカラーを出していく必要があると思っています。それができたときに、本当の意味でビッグクラブになれるのではないかと思っています。

幸野:首都のクラブとしてそうなってほしいし、そうなるべきですよね。FC東京に来て、U-15を3年間担当されましたが、チームの変化や手応えについてはどう感じていますか?

中村:手応えを感じている部分と、足りない部分がはっきりしています。昨年、今年と監督をやらせてもらって、ボールを相手ゴールまで運ぶこと、フィジカルを全面に押し出さなくてもできるんだという部分は、少しずつ変わってきたかなと思います。一方で、関東のトップや全国レベルが相手だと、それができない試合もあります。

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幸野:いま中村さんが言ったようなことは、日本サッカー界が抱える課題のひとつだと思います。日々の練習でハイプレッシャーを受けることが少ないことや、スピードが上がった状態での技術の発揮について、それほど意識が向けられていないことがあると思います。

中村:それを日々のトレーニングでできるようになれば、もっとレベルが上がっていくと思います。僕自身、正直まだ甘い部分があるなと。中学生だから、いまはこれぐらいかなと考えながらやってしまうのはよくないですね。

幸野:僕自身、日本とヨーロッパを行き来して育成の勉強をする中で、プレーインテンシティの差は常に感じています。それが日常にならない限り、世界と互角に戦うのは難しいと思います。それはアンダー世代の国際試合を見れば明らかですよね。練習の中で、プレーインテンシティをどう高めていくか。具体的な練習などで、どのように工夫をしていますか?

中村:どうしても、子どもたちは綺麗にサッカーをやろうとする傾向があるので、ある程度の接触はファウルをとらずに練習をすることはあります。

幸野:でも、日本の子どもたちは「激しく行ってもいいよ」と言っても、なかなか行けないんですよね。

中村:そうですね。それは子どものキャラクターによっても違いますし、学年によっても違うところはありますね。

幸野:ノーファウルゲームのような練習をすることで、子どもたちのプレーは変わりました?

中村:徐々にではありますが、変わってきました。子どもたちが、いまはこういう状況だったらこうしたとか、自分を主張するようになりました。あとは、軽いプレーをする味方に指摘をしたり。本来であれば、そういう状況を日常の練習でもっと作りたいんですよね。

幸野: それが日常になることが大切で、とくに日本のトップレベルであるJクラブが変わらないと、世界のトップ10に入るのは難しいと思います。

中村:相手がファウル覚悟で来ても、止められないぐらいの選手にならなくてはいけないし、ファウルが来ることを感じながら、プレーできる選手になるのが理想ですよね。

幸野:厳しい守備を打ち破るために、攻撃をどうすればいいかを考えます。1対1の場面であれば、相手の接触をかわす技術が伸びるわけで、そこは表裏一体ですよね。

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【プロフィール】
中村忠(なかむら ただし)
FC東京U-15むさし監督。現役時代は日本代表としても活躍したMF・DFで、"ミニラ"の愛称で親しまれている。ヴェルディ川崎(現:東京ヴェルディ)、浦和レッズ。京都パープルサンガ(現:京都サンガF.C.)でプレー。2004年の引退後、古巣東京ヴェルディで指導者の道を歩みはじめ、2012年にFC東京U-15むさし コーチに就任。昨年より現職。