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Jクラブ指導者が見た「ビルバオの育成」後編

2015年1月にスペイン・バスク自治州にある"バスク純血主義"で名高いアスレティック・ビルバオで、S級ライセンスの海外研修として精力的な視察を行ったJクラブ指導者レポートの後編は、日本サッカー界にとっても大きなヒントとなりうるビルバオの「飛び級活用術」を中心に紹介したい。(取材・文/小澤一郎)

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■選手の"旬"を逃さないビルバオの飛び級

萩村滋則氏が所属する東京ヴェルディは2014年もJリーグ最優秀育成クラブ賞を受賞するなど選手育成に重点を置き、アカデミーからトップチームに多くの選手を輩出している育成型クラブとして存在感を示している。ビルバオでの研修中、萩村氏が興味を示した育成システムの一つが「カテゴリーをまたいだ飛び級の活用」だった。

例えば前編で紹介したように、ビルバオの下部組織では同じピッチで2チームが練習を行うが、その2チームは同カテゴリーではなく、ユースB(U-17)とカデーテA(U-16)というように異なるカテゴリーとなっていた。これを見た萩村氏からは、「非常に興味深いやり方で参考になりました。日本でも飛び級はありますが、ジュニアユースからユースというようにカテゴリーをまたいだ飛び級は教育システムの問題もありなかなかありません」という感想が出ていた。「やはり、そういうところをもっと上手くできたらいいなと感じました。日本ではどうしても教育システムの問題がともなうので、無茶な飛び級はできないかもしれませんが、やはり年間を通して、特定の選手だけではなく、今このタイミングで頑張っている選手や成長している選手を上のチームに上げて、『誰にでもチャンスがある』というメッセージを与えることができればいい刺激になりますし、選手の意識も変わってくると思います」。

また、ロアッソ熊本でトップチームのヘッドコーチを務める清川浩行氏が最も興味を持った施策が、バスコニアというCチームの存在だ。実際にはCDバスコニアというビルバオとは別クラブのトップチームだが、1997年にユースAとBチーム(スペイン3部)の間にあるギャップの大きさを課題に感じたビルバオが、近隣の街クラブであるCDバスコニアを買収してCチームとして扱うようになり、今では平日にレサマ練習場でトレーニングを行い、週末はバスコニアのグラウンドで公式戦を戦うシステムを採用している。そのため、4部所属のバスコニアの登録22名の中には、96年・97年生まれのユース年代の選手が9名も在籍し、最年長が20歳という若いチーム編成となっている。サテライトリーグやBチームがないJクラブにおいては、19歳から21歳までの若手の出場機会の少なさが直近の課題として扱われているが、ビルバオでは2部B(3部)所属のBチームのみならず、バスコニアというCチーム、4部リーグを活用してトップチームに定着するための"仕上げの育成"を行う環境を整備している。

■"仕上げの育成"を支える選手登録システム

その育成システムから今季、彗星のごとく現れたのが95年10月生まれの19歳MFウナイ・ロペスだ。昨年8月のUEFAチャンピオンズリーグのプレーオフ・ナポリ戦でトップデビューを飾り、そのままトップチーム登録を果たすと、ここまで20試合に出場している(2月終了時点)。彼のユース時代のキャリアを見直すと、日本で高3にあたる昨年は2部B(3部)のBチーム、高2の一昨年は4部のCDバスコニアでシーズンを過ごしている。ユース時代の2年間を同学年のユースリーグではなく、社会人、セミプロのカテゴリーで戦っていることで、トップ昇格1年目からコンスタントに出場機会を得ることができているのだ。

94年生まれのFWイニャキ・ウィリアムスも今季トップデビューを飾った期待の若手の一人。昨年末のリーグ戦でエルネスト・バルベルデ監督に抜擢されると、清川氏、萩村氏が視察に入る直前の1月3日のリーグ戦(対デポルティーボ)でも先発出場した。しかし、視察期間のトレーニングでは週の初めにトップで練習をしながら後半はBチームに戻されていた。そのまま週末をBチームの主力として出場し、得点を挙げるとすぐさま週明けの練習ではトップチームに引き戻されていた。日本の2種登録のような形態でBチーム登録の選手としながらトップチームで練習を積み、招集メンバーに入らないと判断されれば週の後半にはBチームに戻ってBチームで公式戦に出場できるという、スペインの柔軟な選手登録システムのメリットを垣間見た一例だ。

実際、清川氏からは「スペインのようなシステムがあれば、日本の若手選手ももっと伸びそうですね」という意見も出ていた。ただ、日本で簡単にBチーム、Cチームを作ることが難しい以上、両名からは「Jクラブと大学の提携や密な関係性をもっと考えていかなければいけないですね」という発言も聞かれた。ビルバオを筆頭に育成大国スペインでは、高校を卒業するユース(フベニール)年代で育成は完結しておらず、年齢で見れば21歳前後、BチームやCチームまでのセミプロ~社会人カテゴリーも「育成」、「下部組織」として認識されている。今回の研修でJクラブの指導者2名は、「育成は18歳で終わらない」という世界のスタンダードを改めて理解したようだった。

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