03.31.2015
いまこそ『生まれ月』の誤解を解く/「ユース年代のピリオダイゼーション」レイモンド氏ウェビナーレポート 前編
サッカーのピリオダイゼーション理論で有名な、レイモンド・フェルハイエン氏が「ユース年代のピリオダイゼーション」についてのウェビナー(オンラインセミナー)※を行った。今回はフェイエノールトを始め、オランダの多くのクラブが取り入れているユース年代の選手に適したトレーニングスケジュールと、生まれ月による有利・不利をなくすためのスカウティングの方法など、世界トップクラブが実践しているノウハウと研究結果を紹介する。(取材・文/鈴木智之 写真/susieq3c)
※「ウェビナー」:ワールドクラスのセミナーが家庭のPCやタブレットで手軽に受講できるとして、世界中のサッカー関係者から高評を得ている画期的な試み。
■『生まれ月』が選手選考に与える驚きの影響
選手の生まれ月で有利・不利はあるのだろうか? 日本の場合、学校教育法により、4月2日生まれがもっとも年長になり、4月1日生まれがもっとも年少になる。つまり、2014年4月2日生まれ~2015年4月1日生まれが、同じ学年として区切られている。2014年4月2日生まれと、2015年4月1日生まれは同じ学年だが、成長期間に1年の違いがある。小学生、中学生時代の1年の差は身長や体重、運動能力などで大きな差になり、遺伝はあるにせよ、一般的には早く生まれた方にアドバンテージがある。
スポーツにおいて、遅い月に生まれた選手(日本で言う『早生まれ』)が不利というのは、日本に限ったことではない。レイモンド氏の調査によると、オランダでも同様のことが起きているという。レイモンド氏は1997~2009年にかけて、オランダの36のプロクラブのアカデミーに所属する1万人以上のデータを採取し、選手の生まれ月を調査した。その結果、かなり偏った数字が出たという。
「1999年まで、オランダサッカー協会の生まれ月の区切りは、8月始まりの7月終わりでした。つまり、8月1日生まれの子どもがもっとも年長で、7月30日生まれの子どもがもっとも年少になります。そこで、オランダのプロクラブのアカデミーに所属する選手たちの生まれ月の調査をしたところ、驚くべき結果が出ました。なんと、8・9・10月に生まれた選手の割合が、全体の37~43%とかなり多かったのです」(※数字に幅があるのは、複数年に渡って調査したため)
レイモンド氏は8・9・10月生まれをひとつのグループとし、以降、11・12・1月生まれ、2・3・4月生まれ、5・6・7月生まれを1つのグループとした。つまり3ヶ月ごとに生まれ月をグループ化し、4つのグループを作った。統計面で考えたならば、4つのグループから平均的に選手が選ばれ、その数値はおおよそ25%ずつになるはずである。しかし、実際の調査結果を見ると、8・9・10月生まれが全体の37~43%と最も多く、5・6・7月生まれが9~15%しかいなかったのだ。
レイモンド氏はこの調査結果について、次のように語る。
「つまり、8・9・10月生まれの選手の中には、通常ならピックアップされない選手(スカウトされるべきではない選手)が18%程度いることになります。一方で5・6・7月生まれの選手は10%ほど足りず、本来ならば選ばれるべき選手が見過ごされた可能性があります」
■指導者が目を向けるべきは「サッカーの能力」
なぜ、このようなことが起こるのだろうか? レイモンド氏によると「フィジカルの能力とサッカーの能力が混同されているから」だという。「8月生まれは、次の年の7月生まれの選手より、11ヶ月年長です。そのぶん、アドバンテージがあります。身体が大きくて強く、足も速いかもしれません。結果としてボールを失う機会が少なく、ゴールをたくさん決めることができます。それが、スカウトされた理由です。そこで、気をつけて見なければいけないのが、彼らが多くゴールできた理由が『フィジカル面でアドバンテージがあるから』なのか、それとも『サッカーの能力が高いから』なのかです。残念なことに、多くのスカウトが『フィジカルアドバンテージがある選手=サッカーの能力のある選手』と判断しています」
それを裏付けるデータがある。1999年、オランダでは生まれ月の区切りが8月1日から1月1日に変わった。そこで引き続き調査をしたところ、今度は1・2・3月生まれの選手が、およそ半数を占めるようになったというのだ。
「年齢の区切りが変わるだけで、8・9・10月生まれの選手の割合が、43%から12%に減ってしまうのです。同じ問題がU-15、U-17、U-19とすべてのカテゴリーで起きています」
選手の成長を見極める際に必要なのは『サッカーの能力をどれだけ秘めているか』である。生まれが遅い選手は、たとえ潜在能力があっても、スカウトから見逃されてしまう現象が起きているのだ。
では、この問題を解決するにはどうすればいいのだろうか? レイモンド氏はひとつの提案をする。それが「選手を生まれ月のグループごとに分けて判断する」方法だ。
「たとえば、日本の場合4・5・6月生まれで1つのグループとし、以降、3ヶ月ごとにグループを作ります。グループの中でトライアルゲーム(セレクション)をして、その中で能力の高い子どもをスカウトします。つまり、フィジカル的な不利を解消した状態でセレクションをし、選手をスカウトするのです」
この方法ならば、生まれた月による有利・不利が起こりにくく、フィジカルの能力ではなく、サッカーの能力に目が向きやすくなる。結果として、公平なジャッジができるのではないだろうか。
選手のポテンシャルを判断し、将来的にこの選手はどう成長するのかを見極めるのが、スカウトの仕事になる。いま目の前の能力ではなく、10年後にどうなっているのかを判断するのは非常に難しいが、生まれ月が早い・遅いというフィルターを外すことで、より判断しやすくなるのではないだろうか。これは日本の育成年代に、すぐにでも取り入れたい方法である。
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取材・文 鈴木智之 写真 susieq3c