04.01.2015
「すべての指導者、保護者に告ぐ。」/「ユース年代のピリオダイゼーション」レイモンド氏ウェビナーレポート 後編
サッカーのピリオダイゼーション理論で有名な、レイモンド・フェルハイエン氏が「ユース年代のピリオダイゼーション」についてのウェビナー(オンラインセミナー)を行った。後編では、身長の伸びとトレーニング量の関係について、レイモンド氏の研究結果を紹介したい。子どもに関わる指導者、保護者必見の内容です。(取材・文/鈴木智之 写真/Julius Volz)
■身体の成長とエネルギーの"切実な"関係
10年以上かけて、ユース世代1万人の追跡調査を行ったレイモンド氏。彼が着目したのが「身長とトレーニング量の関係」だ。たとえば13歳の選手のケース。オランダの学年の区切りが1月始まりの12月終わりというのは前編で紹介したとおり。そこで、オランダの36のプロクラブのアカデミーに所属する13歳の選手を1・2・3月生まれでひとつのグループに。以降4・5・6月生まれ、7・8・9月生まれ、10・11・12月生まれとし、4つのグループを作った。そこで身長の伸びを調査すると、興味深いデータが浮かび上がってきた。1~3月生まれの選手は3ヶ月毎に2センチ伸びているのに対し、10~12月生まれは9~11月の時点では1.3センチしか伸びなかったが、次の3ヶ月間は1.6センチ伸び、次の3ヶ月間で1.3センチ、そして6~8月になると、突然3.8センチ伸びるというデータが出たのである。つまり、10~12月生まれの選手は、サッカーのシーズンオフである夏(6~8月)に、急成長しているのだ。果たして、これは何を意味するのだろうか? レイモンド氏が説明する。
「生まれ月の遅い選手(10~12月生まれ)は、シーズン中(9月~5月)にサッカーに多くのエネルギーを使い、身体が成長するために必要なエネルギーが残っていないことがわかります。ちなみに7~9月生まれの選手も、シーズンオフの期間に3.2センチ伸びています」
10~12月生まれが、夏の間に3.6センチ伸びていることを考えると、数字としても整合性がある。サッカーのトレーニングをしすぎて、身体が成長するために必要なエネルギーが残っていない。そのため、身体が成長できない――。これは由々しき問題であり、多くの指導者、保護者が知っておくべき現象と言えるだろう。
さらに衝撃的な例がある。ある14歳の選手がいた。名前をAとしよう。Aはサッカーの能力が高かったので、1学年上のU-15カテゴリーでプレーしていた。12月に生まれたAは1学年上の1月生まれの選手と比べると、23ヶ月の差がある。その選手と同じトレーニングをし、試合の中で競い合わなくてはいけない。
その結果、どうなったか。身体の成長に、大きな変化が見られたのである。レイモンド氏は言う。
「AはU-15のカテゴリーに飛び級し、週に5回トレーニングをしました。その結果、身長は3ヶ月ごとに0.8センチ、1.0センチ、0.8センチとわずかな伸びに留まったのですが、シーズンを終えた夏の時期に、一気に5.4センチ伸びたのです。夏に急激な成長を迎えたことで身体のバランスを崩し、コーディネーションが低下しました。結果、ケガをするリスクが高まりました。調査によると、夏に急激な伸びを記録した選手は65%の確率でケガをします。その結果、満足に練習ができず、35%の確率でクラブを去ることになってしまうのです」
レイモンド氏によると「1~3月生まれの選手の大半は、年間を通して平均的に成長する」という。他の月に生まれた選手と比べて、夏に急成長することはないので、身体のバランスを崩すこともなく、プレシーズンにケガをする可能性は25%程度だという。そのため、クラブを去る可能性は16%と低い。前述の35%と比べると、大きな違いである。
さらにレイモンド氏は、「14歳の選手は1年間でおよそ8センチ伸びる」という。しかし、十分な休養をとることができないと、身長の伸びは低下していく。調査では1~3月生まれが年間8センチ伸びたのに対し、10~12月生まれは6.5センチしか伸びなかったそうだ。その差、1.5センチである。たったの1.5センチかもしれないが、これが12~18歳の間、アカデミーに所属している期間で蓄積されるとしたら、どうお思いだろうか。レイモンド氏は疑問を投げかける。
「本来、180センチになるべきところ、毎年1.5センチずつ伸びないまま6年間が経過すると、171センチで止まってしまいます。その差は9センチ。親としてどう考えるでしょうか。コーチとしては、何を感じるでしょうか。これはサッカーについての話ではありません。健康に関する、倫理的な問題です」
■選手を救う「インディビジュアルピリオダイゼーション」
成長期こそ、選手の状態を見極め、計画的に(ピリオダイゼーション)トレーニングをすることが重要になる。レイモンド氏はひとつの提言をする。「どのユースアカデミーでも、身長・体重、体脂肪率を測定するべきです。ある選手が1ヶ月に1センチ以上成長したとすると、成長の割合が高くなっているサインになります。もし1ヶ月に1センチ以上増えたなら、『トレーニングの回数を週に1回減らす』というルールを設けても良いと思います。週の中の最も強度が高いトレーニングに参加させないようにするのです」
実際にフェイエノールトのアカデミーでは、ピリオタイゼーションの原則をトレーニングの組み立てに取り入れ、U-15の選手は2部練習を含め週に6回トレーニングをしていたところ、週4回に減らした。U-14から飛び級で入った選手に至っては、トレーニングを週2回に減らし、試合も40分しか出場させなかった。これは選手の成長の度合いから見て、適切なトレーニング量を導き出した結果である。
そして、段階を追って3ヶ月毎にトレーニングの量、試合の出場時間を徐々に増やしていった。飛び級するということは、同年代の選手と比べて強度の高い練習をすることを意味し、それはつまり身体への負担も大きくなる。そのため、トレーニングの量を減らすことは理にかなっているのだが、指導現場では見過ごされることが多い部分だ。
「12歳でU-13に飛び級をした選手がいたのですが、彼は当時148センチしかなく、1年間で1センチも伸びませんでした。なぜなら厳しいトレーニングの環境に入れられたため、身体が成長するためのエネルギーが残っていなかったのです。結局、12歳から16歳までの間で4センチしか伸びませんでした。そこで、クラブ内でこの選手はどうするべきか話し合いをしました。サッカーの才能があるので、クラブに残すべきか。それとも、身体が小さいという理由で解雇するべきか......」
この選手が幸運だったのは、クラブがピリオダイゼーションにおける、インディビジュアルピリオダイゼーションの原則を取り入れたこと。その結果、トレーニングの量が大幅に減り、身体が成長するためのエネルギーを蓄えることができた。そして伸びなかった身長は4年間で20センチ伸びたという。
レイモンド氏は述懐する。
「彼は幸運でしたが、世界中には彼と同じ状況に追い込まれ、クラブを去らなければいけない選手がたくさんいます。サッカーの能力があるがゆえに上のカテゴリーに入れられた結果、すべてのエネルギーをサッカーのために使い、身体を成長させるエネルギーが残っておらず、ある日『キミは身長が足りないから』という理由でクラブを追い出されてしまうのです。彼が小さい理由は彼自身にあるのではなく、指導者が作ったトレーニングスケジュールに問題があります。世界のトップコーチと呼ばれる人に、彼らの夢が壊されてしまう現状があるのです」
育成年代の指導に携わる人には耳の痛い内容だが、この問題から目を逸らしてはいけない。はたして、そのトレーニングの量、内容は目の前の選手に合っているのだろうか? レイモンド氏の提言は常に「真剣に選手と向き合おう」というメッセージにあふれている。選手の持つポテンシャルを発揮させ、伸びうる最大限まで導く。それが指導者の役目である。今回のウェビナーのテーマは、指導者がぜひとも知っておくべき内容と言えるだろう。
■「ユースアカデミーと成長期におけるピリオダイゼーション」録画セッション配信開始!
前回のWFAウェビナー「ユースアカデミーと成長期におけるピリオダイゼーション」を受講された方々からの反響が大きく、「都合により受講できなかった」「もう一度受講したい」という再配信の要望が、世界中からWFA本部に多数寄せられたそうです。ついては今回、特別に日本語通訳付きセッションを録画で再受講できることになりました。
▼詳細・お申し込みはコチラ
http://worldfootballacademy.jp/2015/03/26/recording_growth_spurt/
■本年度も8月初旬に「サッカーのテクニックトレーニング」セミナーを開催します!
ブラジルW杯でドイツを優勝に導いたゲッツェ、エジル、ケディラなどを育て上げ、現在もドイツサッカー協会に所属して全育成世代のテクニックトレーニングを統括している他、A代表チームのアドバイザーも務めているマルセル・ルーカセン氏が、セミナー開催のため再来日します。初来日となった昨夏のセミナーでも受講者の大きな気付きとなった、試合の中でも質の落ちないサッカーに特化したテクニックトレーニングとは? 詳細は決まり次第、ワールドフットボールアカデミー・ジャパン公式サイトにてご案内いたします。
取材・文 鈴木智之 写真 Julius Volz