04.08.2015
街クラブからの移籍をスムーズにするには? 考える指導者たちが変える日本のグラスルーツ
2015年2月、『FOOTBALL LEADERS』(以下、FL)という組織が立ち上がった。これは育成年代の指導に当たるコーチが中心となって発足した団体で、現在は月2回の勉強会を中心に活動している。FLの発起人は南里雅也(FCプラウド)、大串祐一郎(Refino)、佐々木和之(目黒区サッカー協会)、鈴木浩二(FC E'XITO YOKOHAMA)といった育成現場の指導者および、地域のサッカー連盟に携わる人物。いわば育成現場の最前線で日々、子どもたちや地域、協会と向き合っている人々である。今回はFL立ち上げの経緯や活動内容の一端を紹介する。(取材・文/鈴木智之 写真/FOOTBALL LEADERS in TOKYO)
■指導者による指導者のための勉強会
なぜFLを立ち上げたのか。発起人のひとりである南里氏は次のように語る。「普段、一緒にトレーニングマッチをする指導者の方々とは、試合の後に懇親会をしながら、話をすることがあります。すると、話が尽きないんです(笑)。僕も含めて指導者はいろいろな人の話を聞きたいし、勉強もしたい。そのような想いを持っていると思います。そこで同じ想いを持つ鈴木さんや佐々木さんたちと話をして、月に2回ぐらい、平日の昼間に集まって勉強会をやろうということになりました。それが始まりですね」
月に2回の勉強会は1回が実技、もう1回が座学となっている。4月13日には南里氏が講師となり「パス&コントロール」の実技を行う予定だ。さらに4月27日に予定されている座学では、昨夏に2回目が開催され、ジュニア年代に大きなインパクトを残した『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』についての報告会が開催される。
FLは指導現場の最前線に立つコーチたちが中心となり企画しているため、テーマ設定が具体的であることが特徴だ。ちなみに第1回の座学テーマは「街クラブからJクラブへの移籍をスムーズにするにはどうすればいいか」だった。
たとえば、ジュニア年代で街クラブや少年団に所属する選手が、Jクラブのセレクションを受けたとする。Jクラブに行きたいと思うレベルであれば、その選手は街クラブや少年団ではエース級の選手だ。選手はJに行きたい、Jのクラブも良い選手は来て欲しい。そこには健全な需要と供給の図式が成立しているのだが、もともと所属していた街クラブや少年団の指導者からすると、どうしても「Jクラブに引き抜かれた」という感覚になってしまう。
なぜなら、エース級の選手が抜けるとなると、チームの戦力ダウンは避けられないからだ。本来ならば、ジュニア年代で勝ち負けにこだわるのはナンセンスだが、現場の指導者たちにはそうも言っていられない事情がある。地域や地区大会の結果によって、「あのチームは強いみたい」「あそこに入りたい」と希望する保護者や子どもがいるからだ。つまり、大会の成績がチームの会員数に影響してしまう側面もあるのだ。
■指導現場の問題に正面から向き合う
その結果「他クラブのセレクションを受けたいのなら、クラブを辞めてからにしろ」と言う指導者が出てくる。プレイヤーズファーストの観点からすると、大人の都合極まりない考えなのだが、実際にはこのようなクラブが少なくない。こうした現状をどうにかしようと、心ある指導者たちは日々悩んでいる。はたして、どうすれば選手の移籍がスムーズになるのだろうか――。南里氏は言う。「ヨーロッパなどは毎週末リーグ戦があって、選手たちは自分のレベルに合ったチームに所属して出場機会を得ます。チームを移籍するのは当たり前で、実際に日本でも1種(年齢制限のない大人)はそうなっていますよね。私も長く1種の指導をしていたのでわかるのですが、自分に合ったチームに移籍するのは当たり前として捉えられているのに、ジュニア年代になるとその認識が変わってしまう。指導者の中には、選手をJクラブに快く送り出したい人もいます。一方で、選手を取られたと感じてしまう人がいるのも事実です。そこで選手を預かるJクラブから、街クラブや少年団に何かしら還元できる仕組みがあれば、もっと相互に協力体制を築いていけるのではないかと。たとえばヨーロッパでは、選手の供給元クラブにプロクラブの指導者を派遣して指導を行ったり、より直接的に育成費という名目で金銭が支払われる形があります。日本のJクラブでもボールを提供してくれるケースがある。そんなふうに、お互い快く感じながら選手を成長させる環境作りの方法がきっとあると思うんですよね」
また直接的な見返りだけでなく、選手の立場に立ったサポート体制ができると、送り出す側の心理的な負担も少なくなる。南里氏は言う
「たとえば、少年団からJクラブに移籍したけど、なかなか試合に出場できない。そうなったときに、もといたクラブに戻ってきてもいいと思います。地域によっては移籍後、1年間は別のクラブに行くことができないといったローカルルールがありますが、それは子どもたちの可能性を閉ざすことにもなりかねません。"出戻り"は子ども自身や保護者のプライドも影響してくることではありますが、どうすれば選手をレベルに合ったクラブでプレーさせ、より成長につながる環境を作ることができるか。それを考えるのが我々指導者の役目だと思っています」
学びの場だけでなく、指導者同士のコミュニケーションの場でもあるFL。ここを基点にチーム間のコミュニケーションが促進され、指導の悩みやチームの取り組みなどを共有することで指導者のレベルアップにもつながる。それが子どもたちのためになり、ひいては日本サッカー全体の強化にもなる――。そうしたビジョンの下、FLは学びとしての場にとどまらず、実際にリーグ戦形式の大会を主催する計画を進めている。それが4月中旬から開催予定の『U-11プレミアリーグ』だ。次回、育成年代のリーグ戦モデルとなる可能性を秘めたU-11プレミアリーグの内容に迫ってみたい。
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FOOTBALL LEADERS
日本サッカーの未来を担う、育成年代に関わる者たちの自発的な活動として、必要とされているものを見極め、ビジョンを共有する人をつなぐことで、ともに学び、高め合うための機会をオーガナイズする指導者の集い。
公式サイト:http://football-leaders.tokyo
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取材・文 鈴木智之 写真 FOOTBALL LEADERS in TOKYO