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小嶺忠敏先生から学んだ本質「サッカーが上手なだけではダメ」/前橋育英高校サッカー部・山田耕介監督の育成論

『上州のタイガー軍団』。群馬県の名門・前橋育英高校サッカー部の異名で、伝統ある黄色と黒の縦縞ユニフォームにちなんで呼ばれている。圧巻なのは輩出したプロの数だ。引退したOB選手も含めるとその数は100を超え、全国屈指のJリーガー育成校となっている。同校を30年以上率いてきた山田耕介監督に、自身の指導哲学や共に高校サッカーを支えてきた指導者への思いをCOACH UNITED ACADEMYで語ってもらった。(取材・文/安藤隆人)
※この記事は2015年12月に掲載した記事の再掲です。

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<<本当の強みを見抜いて気付かせる3年間

指導の本質はサッカーを通した人間形成

山田監督の指導者としての哲学のベースは、生まれ故郷の長崎県国見町での記憶にさかのぼる。

「サッカーを通して子どもを大人に、大人をジェントルマンに育てていく環境でした。ですので、いまの生徒にも『サッカーが少しくらい上手くたって、それがどうしたと周りは思っている。みんなから慕われる人間はもっとサッカーが上手い。サッカーを通して人間を形成してもらいたい』と常に言っています」

国見町では周りの大人が、子どもたちを大人にしていった。サッカーを通じて、厳しさ、仲間への思いやり、そして目上の人に対する礼儀など、様々なことを教えてくれた。

「島原商時代、小嶺先生は監督でありクラスの担任で、朝から晩まで一緒でした。小嶺先生は人格者で、厳しいことも言うが僕らのいろいろなことを見てくれていた。日頃のコミュニケーションの中から、人間として大事なことをたくさん学べたんです。だからいまの指導のベースも良い選手、つまり人間的に素晴らしい選手でなくてはいけない、そういう思いがアプローチの原点になっています。そのためにも、これから立派な大人になっていく子どもたちには『どうにかする力』を身に付けさせたい。それをサッカーを通じてやっていくということ。何度も言いますが、サッカーが上手なだけではダメなんです」

そのためのアプローチとして山田監督がピッチ上で選手に求めるのが、プレーのインテリジェンスを司る「情報処理能力」だ。監督は自分に何を指摘し、何を求めているのか。周りは自分をどう見ていて、彼らの見方や要求に対して自分はどのように自己表現するべきなのか。柔軟に対応するところ、信念を貫くところ――。そういうことをピッチ外でも絶えず考えることで、選手の「情報処理能力」は向上するという。

「サッカーが上手いのはもちろんだけど、それに加えて情報処理能力があって、考えを発信するリーダーシップも備えているのが理想。受信と発信のバランスをどうコントロールしていくかはすごく重要なことですから、僕はサッカーを通じてそこを鍛えてあげたいですね」

山田監督は、生徒たちを刺激するために重要なのは指導者の「本気」だと説く。

「例えば『集合!』とグラウンドで声を掛けると、180人の部員が集合します。そのとき『何だろう』と目が輝いている選手と、後ろの方でぼーっとしている選手、話を聞いているようで聞いていない選手、いろいろいるわけです。その違いを指導者が気付いてやらないといけない。そのうえで僕は、良い顔をしている選手を増やしたいですから、気合いの問題にしないで『今日はこういうトレーニングをやってここを伸ばそう』と声を掛け、選手のやる気を引き出すわけです。

ここで重要なのが指導者の「本気度」。指導者が本気かどうかは、実は選手たちが一番敏感に感じ取っているものです。彼らにはそれを見抜く目がありますから、こっちも本気でやらないといけません。選手が入り込みやすいように呼び方も下の名前で呼ぶようにしているし、昼休みも選手たちとのコミュニケーションを欠かしません。ピッチ外でもこちらからコミュニケーションを仕掛けることが重要ですね」

指導者の切磋琢磨が選手を育てる力に

その後、話はライバルとして戦う同年代の指導者へと及んでいく。山田監督の同世代には、昨年度の選手権で決勝を戦った星稜高の河﨑護監督、四日市中央工の樋口士郎監督、奈良育英高の上間政彦監督らがおり、すぐ下の年代には大津高の平岡和徳監督らがいる。

「河﨑は本当に人格者。人間的に素晴らしく、いろいろなことに気付けるしアイデアがある。求心力もある。士郎は本当にまじめで、サッカーが大好きで仕方がない。サッカーの話をしたら止まらないようなやつなので、浅野拓磨(広島)のようにがむしゃらでサッカーが大好きな選手が育つんでしょうね。平岡には『キレ』がある。彼は『言葉の天才』で、人を惹き付ける能力が高いと感じます。

それと、市立船橋元監督の布啓一郎(ファジアーノ岡山コーチ)は良きライバルでしたね。彼は非常に強い信念を持っていた。勝負に対する徹底度がすごくて、僕より年はひとつ下ですが若いころからずっと戦ってきて、いろいろ勉強させてもらいました。特に自分の考え方や信念をはっきり打ち出すところは見習っていましたね」

同世代の指導者と綿密にコミュニケーションを取りながら、小嶺氏や松澤氏といったベテラン指導者にも教えを乞う。こうした濃密なやりとりこそ、高校年代の選手を伸ばしていく重要な力になることを強調した。

「プリンスリーグや国体のU-16化は、僕ら高校の指導者が中心となって取り組んできた結果、いまのような体制になりました。今後も高校だけでなくJユースとも切磋琢磨していくのが理想でしょう。お互いにそれぞれの良さがありますから。そして高校選手権だけでなく、プレミアリーグやプリンスリーグにもっと注目を集めていきたい。そのために僕ら指導者はどんどん交流を図っていくべきだし、特に若い指導者には積極的に盛り上げていってほしいですね」

最後に、前橋育英も参加する高校選手権の楽しみ方について語ってくれた。

「ゴールした選手ばかりに注目が集まりますが、できれば得点の2つ3つ前のプレーを見てほしいですね。例えば、得点の2つ3つ前でボランチの選手が横パスをかっさらったプレーのおかげで、相手が準備できていないところにスルーパスが通るから最後のドリブルが活きる...とかね。そういうセンターバックやボランチの危機察知能力、出足、奪うスピード、パスの意図を感じてほしい。メディアもそこを見逃さずに報じてあげれば、選手はもっとやる気が出て、もっと良い選手になるんです。このプレー、この判断があったからこそ、この展開になった――。そんなプレーにぜひ注目して見てほしいですね」

この続きは、COACH UNITED ACADEMYのセミナー本編で高校サッカーの意義や魅力を再確認していただきたい。

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山田耕介(やまだ・こうすけ)
長崎県国見町出身。島原商時代はキャプテンを務め、インターハイ優勝を経験。法政大学を経て前橋育英高校サッカー部監督に就任し、個の特長を見抜き育て上げる指導でこれまでに100人以上のJリーガーを輩出してきた。チームとしてもインターハイ優勝1回、選手権優勝1回、準優勝1回、ベスト4が4回と全国でも屈指の成績を残している(2018年1月追記)