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世界との差は「教わっているか、教わっていないか」日本の高校サッカー部がスペインの指導者と契約した理由

近年、毎年のように年代別代表選手やJリーガーを輩出している興國高校(大阪)が、2016年より、スペイン・バルセロナを拠点に世界中のクラブ・選手を指導する、プロ指導者集団「サッカーサービス」とパートナー契約を結んだ。

これは、サッカーサービスが興國高校のチーム、選手のコンサルティングをし、さらなるレベルアップを図るというもの。(取材・文/鈴木智之)


前回記事:「スペースの作り方と使い方について。中学生に「サポート」をどのように指導するか?」>>


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■高校のサッカー部という枠組みにとらわれない取り組み

前回の記事ではサッカーサービスのコーチが、興國高校のサッカーに興味を持つ中学生を対象に実施した、サッカークリニックの様子を紹介した。そこでは、ボール保持者に対してパスコースやプレーするスペースを提供する「サポート」をテーマに、「どのようにスペースを作り出すか」「作ったスペースを誰が使うのか」というトレーニングを行った。

参加者の中学3年生は「チームでは教わらないことばかりだったので、新しいことを知ることができて楽しかったです。普段、ボールを見て動くことが多いので、周りの仲間やスペースを見て動くのは、新しい視点でした。自分のチームに戻っても、今日教わったことを意識してプレーしたいです」と、充実した表情を見せていた。

興國高校サッカー部を率いる内野智章監督は、サッカーサービスとパートナー契約を結ぶ狙いを、次のように明かす。

「我々は7年ほど前から、サッカーサービスのコンサルティングを受けています。スペイン遠征に行った時も、現地で指導をしてもらい、お互いのサッカーに関する考え方に近いものを感じていました。彼らは欧州トップレベルの分析力、指導力を持っていて、日本にいると、そのような人たちから直接指導をしてもらう機会はなかなか無いですよね。我々としても、彼らから多くのことを学びたいと思っていますし、今回のクリニックに来てくれた中学生には、貴重な経験になったと思います」

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サッカーサービスは、テクニックやフィジカルに加えて、適切な判断力を備えた『サッカーインテリジェンスの高い選手』の育成を標榜している。

サッカーにおけるプレーのサイクルは『認知』『状況判断』『プレーの実行』から成り立っているが、日本サッカーの現状として、『プレーの実行』に多くの練習時間を割き、『認知』『状況判断』の部分に働きかける時間はそれほど多くはない。

内野監督は「良い選手になるための大前提として、技術は必要です。ボール扱いの面では、日本の選手は世界でもトップクラスだと思います」と前置きをした上で、次のように語る。

「ヨーロッパのトップレベルで活躍するためには、その技術を、試合の中で発揮するための個人戦術が必要になります。それが認知や状況判断の部分であり、サッカーサービスのトレーニングメソッドで高めていける部分だと考えています」

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■世界との差は「教わっているか、教わっていないか」

興國高校は「ボールコーディネーション」という独自のトレーニング方法で、ボールコントロールのテクニックや身体の使い方を向上させる取り組みを続けている。高校の3年間をかけて、高い技術を備えた選手たちが、認知、状況判断といった個人戦術、グループ戦術を身につけていく。その結果が、多くのプロ選手を輩出することにつながっているのは間違いないだろう。

昨年、興國がスペインに遠征に行った際、現地の指導者に「このサッカーをたった3年間で作り上げたのか」と驚かれたことがあったというが、言い換えれば日本人選手の理解力、規律の中でプレーする能力は高く、それは個人戦術やグループ戦術を日頃のトレーニングで「教わっているか、教わっていないか」の差とも考えられると内野監督は言う。

「日本にも、世界で活躍できるタレントはたくさんいると思いますが、世界で活躍するために何が必要か、という部分を知らない人が多いと感じています。世界で活躍するために、育成年代で何を身につけておかなければいけないか。技術だけでなく個人戦術も含めて、ベースとなる部分を知らないと、海外に行ってプレーしたときに苦労します。興國はサッカーサービスのメソッドを通じて、ヨーロッパのトップレベルの選手になるために、育成年代で身につけておくべき要素についてトレーニングをしています」

さらに、こう続ける。

「サッカーサービスはパリ・サンジェルマンのアカデミーを統括していますし、他のヨーロッパのクラブでも指導をしています。我々としては、興國の3年間でサッカーの素地を身につけて、18歳でヨーロッパに行ってプロになることを目指しています。『興國からヨーロッパへ』を実現するために、サッカーサービスとともに進んでいきたいと思います」

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サッカーサービスのフェランコーチも、内野監督に同調する。

「興國の指導者は我々を信頼してくれていますし、一緒にプロジェクトを展開できるのは素晴らしいことです。興國にはチームのコンセプトがあり、それに伴った良いトレーニングをしています。だから良い選手が生まれ、良いサッカーができていると思います。これからも力を合わせて、選手をレベルアップさせていきたいと思っています」

興國とサッカーサービスとのパートナー契約は、高校のサッカー部という枠組みにとらわれることなく、日本サッカー界にとって先進的な取り組みになる。興國は高校サッカー激戦区の大阪で活動しているが、その勇姿を全国の舞台でアピールする日も、そう遠くはないだろう。


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サッカーサービス/
スペイン・バルセロナを拠点に世界各国の主要リーグの選手などに対して、パーソナルコンサルティングを行っている育成のプロ集団。2015年までは日本サッカー協会とパートナー契約を締結しコンサルティングプロジェクトディレクターを務めた。また、同社が提唱する「エコノメソッド」はフランスのパリ・サンジェルマンも全面導入している。2016年より興國高校(大阪)とコンサルティング契約を結んだ。