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育成年代にも必要! バウミール氏が語るフィジカルトレーニング

育成年代の子どもたちにとって、フィジカルトレーニングはあまり重要視されていないと思います。

しかし、ブラジル国内でパルメイラス、サンパウロ州選抜、サンパウロFCなどのコーチを歴任してきたフィジカルコーチ・バウミール氏は、「日本人の子どものテクニックは素晴らしい」と前置きしつつも「フィジカルの要素が弱い」という評価をしています。

身体ができていないうちからフィジカルトレーニングをすること自体ではなく、「過度の」トレーニングが問題ということであるようです。具体的には、どういったトレーニングを導入すべきなのでしょうか? さっそくご覧ください。

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■最も大事なのはフィジカルとディフェンス

「フットサル=ディフェンス+フィジカル」

 1月9日、埼玉県内で行われたブラジル人コーチ、バウミール氏によるフットサル指導者講習会。その冒頭で、バウミール氏は自らの考える"フットサルの方程式"をホワイトボードに書いた。

「『フットサル』というと、みんながパスやドリブルをイメージします。しかし、本当に大事なのはディフェンスとフィジカル。この2つをしっかりと鍛えていけば、良い選手になれるのです。今回の講習会ではその2つを重点的に行っていきます」

 バウミール氏はフィジカルコーチからキャリアを始め、GKコーチとしても働き、クラブチームの監督も務めた人物だ。今回はサンパウロ州の指導者ライセンスを日本国内で取得できる「ブラジル・サンパウロ州フットサル連盟指導者講習会」のインストラクターとして来日した。

 過去にも何度か日本を訪れ、それ以来「日本のフットサルを常にチェックしている」というバウミール氏は、日本の、特に育成年代に足りないものをこう分析していた。

「バーモントカップの映像も見ましたが、日本人の子どものテクニックは素晴らしいと思います。ただ、フィジカルの要素が弱いと感じました」

 せっかくドリブルでかわしたのに、シュートで踏ん張りが効かず枠に飛ばない......。相手に身体をぶつけられると、正確なパスが出せなくなる......。確かに、このようなシーンは育成年代で頻繁に見られる。

 とはいえ、日本の育成年代では積極的にフィジカルトレーニングを行なうチームは少数派といっていい。「身体ができていないときからフィジカルを強化することは、怪我につながりやすい」というイメージもある。しかし、バウミール氏は育成年代からフィジカルトレーニングを行うことの重要性を説く。

「確かに、やり過ぎはよくありません。ですが、しっかりと負荷を計算して子どもに合った量を行なえば問題ありません。体幹、バランス、アジリティのトレーニングを行なうことは、身体が強くなるだけでなく、怪我の予防にもつながるのです」

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■トレーニング導入に向けた3つのポイント

 バウミール氏がフィジカルトレーニングに充てたのは3時間の講習会のうち、ちょうど半分にあたる1時間半。一つひとつのメニューを細かく紹介していくと膨大な量になるので、ここではバウミール氏が強調していたポイントを3つ挙げたい。

 一つ目が「トレーニングを子供用に"最適化"すること」。

「大人と子供では身体の強さも違います。子供に最適な量がどれぐらいなのか把握しておかなければなりません」(バウミール氏)。

 例えば、身体のコア(中心部)を鍛える体幹トレーニング。大人が1ポーズ2分間のメニューの場合、15歳以下は40秒、12歳以下は30秒が目安になる。また、同じ年齢でも子供によって身体の強さや、成長スピードは異なるのでレベルに合わせてあげる。

 体幹トレーニングは日本でも流行っているので、実用書なども数多く発売されている。このような本には「目安の時間」が書かれているが、基本的には大人を想定したもの。本に書いてあるからといってマネしても、子供に最適な量とは限らない。

 二つ目が「トレーニングの目的を明確にすること」。

「コーチは、このフィジカルトレーニングを『何のためにやっているか?』を子供たちに理論的に説明できなければいけません」(バウミール氏)

 バウミール氏のトレーニングを見ていると、フィジカルを鍛えることだけが目的ではなく、フットサルに通じる要素が含まれていることがわかる。

 例えば、片足を浮かせて手を広げながらバランスを保つメニューでは、DFを背負った状態でボールをキープする場面、地面に置いたマーカーをステップでかわしていくときは、ドリブルでDFに仕掛ける場面といった具合に。

 ただし、子供たちはイメージしなければ何となくやってしまう可能性がある。どんな場面で活用されるのか、どんな動きにつながるのか......。コーチが声をかけてあげることで、子供たちの取り組み方や集中力も変わってくる。

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 三つ目が「毎回やること」。

フィジカルトレーニングはたまにやるのではなく日々の積み重ねが大事だとバウミール氏は言う。実際にバウミール氏は自分が指導するチームでは冒頭15分はフィジカルトレーニングをする時間をとっているとのこと。限られた練習時間の中でボールに触らないのは「もったいない」と思うかもしれないが、15分であれば十分メニューに加えられるだろう。

 バウミール氏は最後にこんな言葉を付け加えた。

「私のアドバイスは高いレベルで通用する選手になるためのものです。ボールを楽しく蹴ることが目的だけだったら、そこまでやらなくても良いでしょう。だけど、真剣にフットサルをうまくなりたいと思っているのであれば、フィジカルもやったほうがいい。身体を作らずに技術を習得することは難しいと思います」

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北健一郎(きた・けんいちろう)
1982年7月6日生まれ、北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

取材協力/一般社団法人国際サッカーコーチング&マネジメントスキル認証機構
日本における「海外トップレベルのサッカー指導・運営における知識の学習・普及・発展を支援する」という趣旨のもと、世界レベルのコーチを日本に招き指導者講習会などを開催している。URL:http://ifco-soccer.jp/