02.06.2014
フットサルの基本は守備。バウミール氏が語るコーチング
フットサルといえば、華々しいテクニック、トリッキーなプレーを連想する人が多いでしょう。守備についてのイメージを持つ人は、どちらかといえば少数派であるはずです。
しかし、こちらの記事でも登場していただいた、ブラジル国内で数々の強豪チームのコーチを歴任してきたバウミール氏は、「フットサル=ディフェンス+フィジカル」と述べています。また、育成年代のトレーニングとしてフットサルを導入することの有効性についても言及しています。いったい、どういう点が育成年代にとって有用なのでしょうか?
■ディフェンスができなければ始まらない
フットサルと言えば、足の裏を使った細かいドリブルや、トリッキーなパスをイメージする人が多いだろう。だが、バウミール氏はこのように言う。「フットサルで最も大事なのはディフェンスだ」と。
ブラジルはロナウジーニョ、ネイマール、ロビーニョなどフットサル出身のテクニシャンを多数輩出している。それなのに、バウミール氏が「ディフェンス」を強調するのはなぜなのだろうか?
「育成年代でフットサルをやることは、守備の原理原則を学ぶのに最適だからです。サッカーに比べて、フットサルは人数が少なく、一人ひとりの責任が明確になります。それによって、しっかりとしたディフェンスの技術を身につけられるのです」
実際に講習会の後半はディフェンスに重点が置かれた。まずはフィクソ(サッカーのDF)が相手のピヴォ(サッカーのFW)をマークするときのやり方から。バウミール氏がフィクソ役となってレクチャーする。
「最初からピヴォの後ろにつくのではなく、前に入ってインタセプトを狙います。そのとき大事なのは手でピヴォに触って常にどこにいるかを感じること。マークを見るために首を振ると、そのタイミングではボールを見失ってしまいます」
ボールが入ってしまったらどうするべきか。バウミール氏のアドバイスは、実に具体的かつ論理的なものだった。
「相手の利き足を見ましょう。利き足側にターンさせてしまえば、強くて正確なシュートを打たれてしまいます。例えば右利きだったら、左側にターンさせる。右足側から身体を寄せれば、相手は左側にターンしようとします。そこを狙ってカットするのです」
バウミール氏のディフェンスレッスンは続く。続いては、相手が前を向いてボールを持っているときの寄せ方。
「1対1であればドリブルを止めることが最優先になります。サイドであれば中に行かせるのではなく、サイドに追い込むようにステップします」
サイドで1対1になったバウミール氏は、ボールを持った選手が中に運ぼうとしたら、素早くその方向にステップ。それを見た相手が縦にドリブルしたら、斜めに下がりながらサイドの狭いところに追い込み、奪い取る。
「こうした場面では、最初にやったアジリティやステップなどのトレーニングが活きてきます」
そこからの発展系として2対1の場面。ボールを持った選手と、パスを受ける選手。その間に立ったバウミール氏が説明する。
「このような場面ではボールを持った選手に寄せながら、パスを受ける選手の間、パスラインに素早く入ることが大事です。相手がパスを出せない状態になったところで距離を詰めて行きます」
また、パスを受ける選手にアプローチするときは、ボールが相手の足下に入ってからではなく、ボールと一緒に移動するようなイメージで寄せていく。ただし、パスを受ける選手までの距離が遠くて、寄せが間に合わない場合は我慢して距離を保つ。
これらのことは当たり前のようにも思える。だが、育成年代から習慣化させておかなければ、とっさの状況で行うのは難しい。プレー人数が少なく、ディフェンスに関わる回数が多いフットサルはそうした習慣を覚えるのに最適といえるだろう。
■育成年代はゾーンよりもマンツーマン
もう一つ、バウミール氏が講習会で強調していたのが、「育成年代ではゾーンよりもマンツーマンから入ってほしい」ということだ。マンツーマンは自分がマークする選手を決めてついていくという守り方で、ゾーンは自分のエリアに入ってきた相手を見て、味方に受け渡しながら守るというもの。
「ディフェンスの基本となるのはマンツーマンです。自分がマークする選手は責任を持って止める。それができてからゾーンでの守り方を教えていきましょう」
マンツーマンの基本となるのがチャレンジ&カバーだ。ボールを持った選手に1人が寄せていたら、もう1人の選手はカバーできるポジションをとる。ボールの位置が移動したら、ボールに近い距離の選手が寄せて、もう1人がカバーリングをする。バウミール氏はこの動きを何度も繰り返し行うことが大事だと言っていた。
このとき、相手にピヴォ(縦方向のパスコース)がいる場合は、自分の前だけでなく背後にいるピヴォの選手のポジショニングも確認しながら守る。バウミール氏はピヴォ役の選手に2種類のカラーのビブスを持たせて、守備側の選手に色を当てさせるというメニューを行っていた。こうすることで、後ろのスペースを見る習慣をつけるのだ。
フットサルはサッカーに比べてボールに触る回数が多いと言われる。それは裏を返せば、ボールを持った相手にディフェンスをする回数が多いということでもある。フットサルをすることでサッカーにも通じるディフェンスの原理原則を身につけられる。バウミール氏の講習会からは、そんなメッセージが感じられた。
北健一郎(きた・けんいちろう)
1982年7月6日生まれ、北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。
取材協力/一般社団法人国際サッカーコーチング&マネジメントスキル認証機構
日本における「海外トップレベルのサッカー指導・運営における知識の学習・普及・発展を支援する」という趣旨のもと、世界レベルのコーチを日本に招き指導者講習会などを開催している。URL:http://ifco-soccer.jp/
取材・文 北健一郎 写真 新井賢一