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なぜ、日本人センターバックはドイツで活躍できないのか?

ブンデスリーガを見ると、たくさんの日本代表選手がプレーしていますね。しかし、ブンデスリーガ1部、2部でプレーしている選手のポジションを見ると、フォワード、ミッドフィルダー、サイドバックの選手に偏っていることが分かります。うわさに上がる選手も、この3つのポジションの選手たちです。

つまり、ドイツ人のエキスパートから見て、日本人の特徴というのはこの3つのポジションに適しているのでしょう。それでは、ドイツサッカー協会が育成年代に進めている4-4-2の中盤がダイヤモンド型のシステムを見ながら、ドイツでは一般的にどのポジションがどのような特徴を求められるのかを見て行きましょう。

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■ドイツで求められるポジション毎の能力

ゴールキーパー:
1.なによりも、キャッチングやセービングの能力。
2.いかに試合を優位に運び、支配できるかを自覚的に考えながら、最終ラインでプレーできる能力。例えば、どのラインの高さから、相手はプレスをかけてくるのか、などを読み取る能力。
3.グラウンドの幅ではなく、深みを使って攻撃を開始する能力。
4.コーチング。
5.DFラインとの距離をキープし続ける能力。場合によっては、センターライン付近まで上がることもある。

センターバック:
1.ディフェンスの能力がなによりも求められる。あらゆる1対1を賢く、そして激しく、しかし冷静にファウルにならないように勝ち切る能力。
2.ボールを持っている時も、積極的に動いて、試合を有利に運んで支配できるように考えながらプレーできる能力。最終ラインから相手が敷いている守備ブロックを壊すようなプレーを心がける。ボールを要求し、オフ・ザ・ボールの動きを積極的に行い、前方へドリブルし、最前線の選手に速く、遠いスペースへボールを送ることができる能力。

サイドバック:
1.センターバックとの距離を保つために、中に絞る。
2.ボールの奪い合いの際は、激しく、妥協を許さずボールを取り切る能力。背後へのボールに気をつけること。
3.とにかくたくさん走ること。彼の仕事場はサイドライン沿いのスペース全てであり、高さと幅のポジショニングで、攻撃のスイッチを入れる。

守備的ミッドフィルダー:
1.試合を優位に運び、支配できる能力。自分たちの攻撃の際では、エネルギッシュで活発に舵取りをし、相手の攻撃を活発に動いて邪魔をする。
2.ゲームを読んで自重する能力。ゲームのバランスを取り、安定させることができる。

サイドハーフ:
1.守備では、ポジショニング、ランニングのコース、パスコース、ドリブルのコースを切る位置取りを賢く冷静に取り、走ることを厭わない。
2.攻撃では多様な面で顔を出せる。さまざまなゾーンからボールを引き出し、フリーになるスペースと味方選手の動きを読んでシュートに繋がるパスを送る。自身も、最前線に顔を出し、ゴールを狙える能力。

攻撃的ミッドフィルダー:
1.技術的に突出していて、一人でも、味方とのコンビネーションでも攻撃や前線にボールを運ぶアクションを実行できる能力。
2.自我の強さと自制がうまく調整できる。3.ディフェンスでは、近くの選手とうまく連動できて、ドリブルにせよパスにせよ、中央にボールを運ばせない。

フォワード:
1.真っ先に求められるのは、チームが攻撃に割いた労力が報われるのかを決定づける仕事。そして、2トップの選手は、コンビネーションからシュートに向かうのか、ラストパスを送るのかを決める。
2.目標を達成するのに充分な器用さ、スピード、ゴールへ向かう姿勢、フェイントのヴァリエーション、シュート力などはうまく2トップの組み合わせに分けられていなければならない。彼らは互いに補いあい、共にプレーし、フリーランニングで相手を釣って、もう一人をフリーにしてあげることができる。この、自分が動くことで味方選手をフリーでゴール前に飛び込ませるスペースを作ることができる能力は、とりわけ目立つ武器になる。

■身体能力の差が大きな問題ではない?

ここまで見ると、見事なまでにブンデスリーガで活躍している選手たちに当てはまりますね。しかし、それではなぜ、日本人のセンターバックが出て来ないのでしょうか? ゴールキーパーはまた専門性が高いポジションなのでここでは触れませんが、フィールドプレーヤーではセンターバックだけがブンデスリーガにいません。

日本人は小柄、あるいは重量がないからでしょうか? たしかに、それもあるかもしれません。しかし、日本で特に大柄の方ではない細貝選手がチーム状況によっては、他の大柄の選手たちからセンターバックのポジションを奪って出場し、しっかり相手を抑えています。岡崎選手はヘディングの競り合いでは高い確率で勝ちます。清武選手はディフェンスを背負っても倒れずにキープできます。内田選手は1対1で振り切られる場面はあまりありません。つまり、単純に身体能力というわけではなさそうです。

個人的には、ここではゴールキーパー、センターバック、守備的ミッドフィルダーに共通して求められている「試合を有利に運んで支配できるように考えながらプレーできる能力」が、日本の選手を外国人として獲得するほどまでには、ドイツの選手と差がないのではないか、と見ています。

ここにあるように、攻撃の中心になる選手が「自分たちのサッカー」を求めるのは悪いことではありません。しかし、ディフェンスで自分たちが試合を優位に運ぶようにするためには、対戦相手を不利な状況に追い込まなくてはなりません。

つまり「相手の得意なことをさせない」「相手が嫌がることをする」、というのがディフェンスの考え方です。それは「汚いプレーをせよ」ということではなくて、「相手のことを良く知り、その選手に対して、ベストの応対を選択する」ことです。利き足にボールを持たせない、ヘディングの競り方、相手の得意なドリブルパターンなどを頭に入れておく、などの準備です。

そういう意味では、今、ニュルンベルクでセンターバックのポジションを掴んだハビエル・ピノラ選手は良いお手本になると思います。実際には180センチにも満たない身長で、アルゼンチン人の中でも、線が細いピノラ選手の特徴は、試合の展開を読み、それをプレーで他の選手に伝えられることです。

守備では相手を自由にさせず、カバーリングがうまく、ボールを持つ事で試合展開を落ち着かせたいときは、わざとリスクが大きく見えるショートパスをあっさり通して見せ、「ここは守りどころだぞ」というときはわざわざスタンドまでボールを蹴り出します。

このように、ディフェンスでは「相手の特徴を消すための準備」、そして「試合の流れを読んで、それをプレーに反映させ、チームの意思を統一するシグナルを出せる能力」が求められているのだと思います。以前、記事でもご紹介したオランダの育成カテゴリーに合わせて見ると、「大会を勝ち抜く能力」を学び始める高校生の年代にこのプロセスを訓練して、19歳になるまでに習得できる環境になれば、世界レベルのセンターバックも近い将来出てくるのではないか、という推測ができます。


鈴木達朗(すずき・たつろう)
宮城県出身、ベルリン在住のサッカーコーチ(男女U6~U18)。主にベルリン周辺の女子サッカー界で活動中。ベルリン自由大学院ドイツ文学修士課程卒。中学生からクラブチームで本格的にサッカーを始めるも、レベルの違いに早々に気づき、指導者の目線でプレーを続ける。学者になるつもりで渡ったドイツで、一緒にプレーしていたチームメイトに頼まれ、再び指導者としてサッカーの道に。特に実績は無いものの「子どもが楽しそうにプレーしている」ということで他クラブの保護者からも声をかけられ、足掛けで数チームを同時に教える。Web:http://www.tatsurosuzuki.com/


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