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川崎は、J1最強・広島の守備ブロックをどう崩したのか? 森保広島・風間川崎の攻防を読み解く(2)

図表・文/五百蔵 容(いほろい・ただし)

<<風間八宏はなぜ「背中を取れ」という言葉を使ったのか? 森保広島・風間川崎の攻防を読み解く(1)

 2014年現在Jリーグにおいて極めて興味深い対戦となっているカード......サンフレッチェ広島と川崎フロンターレのシーズンをまたいだ二度の対戦を詳細に見ていくことで、この2チームが1試合単位では収まらないどのような差し合いを演じ、そして発展しているのか、計四回に分け読み取っていきます。

 第一回目は、風間八宏監督によって作り上げられている現在の川崎フロンターレの特徴について概観しました。リンクはこちら。森保一監督のサンフレッチェ広島の特徴については、以前の考察をご覧下さい。

 第二回目の今回は、2013年のリーグ終盤における川崎ホームでの対戦を、翌年(今季)再戦時の様相を視野に入れつつ、事実上試合の趨勢が決まった前半の試合内容に注目し分析してみたいと思います。

 まず、この試合時点の両チームが置かれた状況を確認しておきます。2013年のJリーグは、サンフレッチェ広島の前年に続く優勝で幕を閉じます。結果的には連覇という形となりましたが、広島の攻撃に対する対策が浸透したことによって思うように勝ちきれない試合が続いていました。
 
 対して川崎フロンターレは、シーズン序盤は守備が崩壊し苦しんだものの、後述する守備の再編によって成績は徐々に安定。攻撃面でも中村憲剛・レナト・大久保を中心とした前線の攻守のセッティングが徐々に整い、とりわけレナトがフィットしてきたことから、風間川崎らしい繊細なパスワークでの崩しに、ジュニーニョ時代を彷彿とさせる憲剛→ワイドに開いたレナトで構築されるカウンターという強力なオプションが加わりました。この年の得点王をとることになる大久保の好調も相まって、勝ち点を上積みしつつACL圏内をうかがう、という位置を視野に入れる好調で広島をホームに迎えました。
 
 結果的にこの第25節は、川崎にとって2013年シーズンのベストゲームのひとつとなりました。この試合における完勝の勢いを駆ってか、川崎は最終節までの残り9試合を7勝2敗という好成績でまとめACL圏内に滑り込むことになります。

■2013Jリーグ ディビジョン1 第25節 川崎F対広島 スタメン


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 まず、この試合で川崎が行った守備の基本的なやり方を見てみます。
 
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 問題点はSHとSBの間のスペース管理にあります。SHにはFWの選手、SBも攻撃的MFの選手が起用されることが多く、攻撃時SH、SB共に高い位置で起点となることが求められます。SHは左右とも、BOX内に侵入してシュートにまで積極的に絡んでいきます。
 
 そのため、SHとSBの間のスペース、SB裏のスペースが危険なまでに空くことが多く、守から攻への切替時に適切な対応が困難になります。DMFにも攻撃的な選手、サイドのヘルプに効率よく関与することが不得手な選手を起用する傾向も手伝って、風間体制初期から2013年序盤戦では多くの失点の起点になっていました。

 この問題は2013年開幕後しばらくしてからDMFに山本真希を固定することで改善していきます。山本真希は清水時代から中盤のバランス調整にすぐれた能力を発揮していた選手で、札幌移籍後は守備時間が長くなるチーム事情も手伝ってボール奪取能力、危険なスペースを見ておく管理能力、守備の局面において展開を読む能力が非常に向上しました。
 
 DMFによるSH~SB間のスペース防護を必要とする川崎の事情に非常にマッチした人材に成長した山本真希に加え、人に強い稲本とジェシをセンターラインに配し、サイドの穴埋めを堅実にすると共に、サイドからボールを生かされたりクサビを真ん中につけらたりしてもしっかり潰す目処が立ちました。

 風間監督就任当初と比較し、2013年第25節時点で川崎はスカウティングをしっかり行い、落とし込むチームに変貌しています。相手のやり方を良く見た対応を主に守備面で盛り込むようになっていました。実際に、この試合で川崎は攻撃だけでなく守備においても広島を苦しめました。その広島対策を見てみましょう。


●川崎の広島対策、広島の川崎対策
 川崎の広島対策は、この試合に先だつ第20節・名古屋と浦和の試合において名古屋が採ったものを踏襲しています(名古屋の浦和対策についてはこちら)。

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 対する広島の狙いは以下のようなものでした。
 
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 このような両チームの企図が、実際にどう働いたか......試合の勝敗をほぼ決めた、前半の展開を中心に見ていきます。


●J1最強の守備を振り回した川崎のパスワーク

 前半開始後、主導権を握ったのは川崎でした。守備における広島の基本的な約束事や、この試合における狙いをパスワークで崩していきます。

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 広島の約束事によるブロッキングが、背中を取るパスワークで振り回されているシーンです。広島のバックライン3枚のうちでは比較的ボールを持てない水本、プレッシングやボールアプローチが軽い高萩のサイドというのが特徴的で、これは狙いだったかもしれません。川崎はこの高萩と水本のサイドを集中的に攻め、先制点を挙げます。

<第3回へ続く>