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身体のコンディションが良くてもそれを動かす魂がない! U-16日本代表のメンタリティ AFC U‐16選手権レポート~前編

2014年9月14日。AFCU-16選手権において、吉武博文監督率いるU-16日本代表は、準々決勝でU-16韓国代表に0-2で敗れ、3大会連続で出場していたU-17W杯を逃した。
この大会のU-16日本代表の戦いぶりを通じて、見えてきたことがいくつかあった。ここではメンタル面と戦術面に分けて、この大会を振り返ると共に、この年代に起こっている問題点などを浮き彫りにしていこうと思う。

まずはメンタル面。あまり「現代っ子は」と言いたくはないが、彼らのメンタリティの変化が、悪い方向にモロに出てしまった。今大会の結果は初戦の選手たちの様子から、ある程度予想できていたのかもしれない。(取材・文・写真/安藤隆人)

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■自信と危機感は相対ではない

初戦の香港戦。日本は前半、圧倒的なポゼッションでハーフコートゲームを進めていたが、1点も入れることができなかった。0-0で迎えたハーフタイム。吉武監督はこの展開に不安を覚えていた。

「自分はこれでいいのかと不安だったが、選手たちはそうじゃなかった。0-0の状況に危機感を覚えるというより、『大丈夫でしょ』という一切心配していない表情をしていた」

これは一見すると、選手たちがそれだけ自分たちのサッカーに自信を持っていて、『このまま続けていれば勝てる』という気持ちから出ているようにとれる。それであればポジティブなことだが、前半の攻め込めど最後のところで消極的だったり、ミスをしている状況でのこの様子は、本物の危機感を持っていない、『あっけらかん』としている状態ともとれる。

もちろん自信を持って戦うことは大事だ。しかし、それが相対的なことであるとは思えない。重要なのは、自分たちが積み上げてきたサッカーに対する自信をどう捉えているか。吉武ジャパンで言えば、パスを繋いでボールポゼッションで相手を上回り、相手の短所を消していくサッカー。しかし、その精度の高さは選手たち自身で図るものではなく、相手との相対性で図るものである。この相手にどこが通用してどこが通用しないのか。どこを突けば一番の有効策となるのか。そこを分析しながら、プレーをしていくことこそが、自分たちのサッカーへの自信の深さに繋がっていく。

だが、単純に『自分たちはここまでトレーニングしてきたから大丈夫』という尺度で図ってしまい、現状の深刻さを理解していないのは非常に危険だ。香港戦、前半から相手を押し込めていたのは、相手が攻撃を捨てて貝のように閉じこもって守ってきたからであり、そこを前半はのらりくらりとパスを繋いでいるだけで、香港は相手がミスをするのを待っている状態だった。確かに後半は2点を奪って、2-0で勝利をしたが、飛び込んでこない相手になかなかテンポアップできない展開は、今後の戦いを不安にさせるものであった。

そして、第3戦のオーストラリア戦。前半の試合の入り方の悪さが、モロに失点につながった。オーストラリアは香港と同じようにブロックを作りながらも、隙を見ては果敢にカウンターを狙っていた。明らかに攻撃力は香港より上の相手に、香港戦のような試合の入り方をし、案の定前半だけで2失点。結果的に2-4で敗れた。韓国戦も前半は今大会最高の出来を見せながらも、相手の絶対的エースの2発にあっけなく沈んだ。

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■今大会を『数ある試合の一つ』と捉えてしまっていたメンタリティ

韓国戦での試合後の選手達の発言、そして表情や態度が、今回の敗因の一つをくっきりと映し出していた。

「負けてU-17W杯の出場権を逃したのに、あまり悔しがっていない。それに関しては香港戦から感じていたし、むしろ今年の3月、4月、さらに1年前から同じ事が起きていた」(吉武監督)。

試合後、泣いていた選手は片手で数えるほどだった。さらに試合後はどこかすっきりした表情の選手も多く、バスから韓国の選手に手を振る選手もいた。もちろん泣けばいい、悔しがればいいという話ではない。だが、試合後の彼らの雰囲気が、どこか『他人事』に受け取れてしまった。残念ながら彼らには、この試合の、この大会の重要性が十分に理解されていなかった。

「この大会の持つ意味などをもっと普通に考えれば、第一戦で勝っても、そこで課題を見出せるようにならないとダメ。大会を振り返って、1試合目に出た選手は、『僕たちがもう1点取れていなかったから』、2戦目で出た選手は、『僕たちが3点目を取れていれば...』と。3戦目に出た選手が、『あの試合に勝っていれば、1位通過でマレーシアが相手だったのに』と本気で思っていない。そこに大きな問題がある」。

チームとして、同年代の代表として、国を背負った選手としての自覚の欠如。この大会を『数ある試合の一つ』と捉えてしまっていたメンタリティが、皮肉にも結果に反映されてしまった。

「大会前も大会中も、今回タイに来ることができなかった選手のメッセージ映像を流したりしたのですが、その場ではそのような気持ちになり、韓国戦ではそれなりに気持ちを持って戦ってくれた。しかし、それは本物の気持ちではない。その心に問題があると感じる。今大会、選手の身体のコンディションは良かった。でも、それを動かす魂がなくなってきている」(吉武監督)。

事の重要性が分かっていないことは、すなわち判断力の欠如にもつながる。試合の重要性や意義、相手の度合いを理解し、自分たちのサッカーに対する相対的な視点を持って、今、自分たちの置かれている立場を理解することで、判断はより研ぎ澄まされる。これを単純に『あっけらかんとしている』『現代っ子だから』で片づけてはいけない。

「結局、根は一緒で感性がないんです。海外に目を向けると、常にチーム内で競争があって、劣るものは完全に置いていかれる。でも日本の場合は置いていかれることがなくて、なんとなくでも次のステージに行けてしまう。それは簡単に行けてしまうような社会全体に問題があると思います。せめてサッカー界だけでもそうならないようにしたい」。

これまで述べていたことは、すべて子どもたちに責任があるのではない。やはりその周りの大人が、彼らのメンタリティを磨く環境を作らないといけない。サッカーにおけるプレーの重要性だけでなく、試合の重要性と意義、自らの評価に対する相対的な視点。この2つを理解させる環境づくりの重要性を、今大会で痛感した。

後編に続く>>