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オランダ流サッカー分析 第2回「ゲーム分析と確認事項」メモを記し事象を解析する

試合を分析し、勝利へとつなげる。オランダは、この考えをしっかりと実践してきたことでサッカーの強豪国となりました。同国1部リーグの名門アヤックスで活躍されるユース年代の分析担当・白井裕之さんが、試合分析の重要性を解説。(文/COACH UNITED編集部・一色伸裕 photo by ING Nederland

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<<第1回「サッカーの構造について」フィールドでは、何が起こっているのか?

現代のサッカーにおいて、ゲーム分析は必要不可欠なものとなっています。では、その目的は何なのでしょうか。アヤックスのユース年代で分析担当をされている白井裕之氏は、「対戦相手、自分のチームの全体像をつかむため」とその意図を説いています。

まずは対戦相手のチームのオーガニゼーション(システム)を確認し、その特徴とクオリティーをチェックします。例えば、攻撃なら「推進力がある」「ビルドアップがうまい」、守備なら「守備組織が強固」などといった特徴があります。試合が始まったら相手はストロングポイントを前面に押し出し、ウィークポイントは隠そうとしてきます。その点を見極め、「なぜ、強いのか? 選手個々の問題なのか、チーム間の力の差から生じるものなのかなど、さまざまな要因を客観的に確認する」(白井氏)。相手の長所がなぜ長所となっているのか。さまざまな理由を考え、分析していきます。

今度は自分たちのチームの「攻撃」「守備」「攻守の切り替え」のクオリティーを確認します。「特徴が出ているか」「チームの約束事が守られているか」などを見ます。そして「何がうまくいって、何がうまくいっていないのか」を抽出し、その事象はなぜそうなっているのかを分析します。

では、具体的にどのようなポイントを分析すればいいのしょうか。白井氏は、オランダでは下記の流れで分析が行われていると説明しています。

①お互いのシステムを照らし合わせ、数的有利な場所や数的不利な場所、フリーになる選手の確認など、起こり得る事象を考える。
例:自分のチームが4-3-3で相手チームが4-4-2の場合、中盤でワイドに持たれたときに相手をフリーにさせてしまう、など。

②前半と後半での試合の流れを分析し、変化が起きた場合はその要因を考える。
例:前半0-0で相手が後半にやり方を変えたてきた。一人退場になった、交代策で変わったなど、全体像をつかんでポイントを挙げる。

③各モーメント、タスクごとに分けて解析をする。これは前回の記事でご紹介しましたが、下記のようになります。

・攻撃→ビルドアップ(自陣・敵陣)、得点をするところで何が起きているかをタスクごとに分けて分析。
・切り替え→「攻撃から守備」「守備から攻撃」のときにどのような動きがあったのか。
・守備→「敵のビルドアップの妨害」「失点を防ぐ」

④上記で抽出したものを、具体的に「何が上手くいって」「何が上手くいかなかった」かをタスクの中からさらに細分化して分析する。

①~④についてこれを分析用紙にスケッチする。「オランダの指導者の多くは、サッカーのメモ帳を持ち、相手、自分たちのチームオーガニゼーションを描き、システムのかみ合わせを図面でチェック。どこに相手の弱点が出てくるか、どこに自分たちの問題点が出てくるのかをメモに残している。頭で考えるだけではなく、書き留めて確認することが重要」(白井氏)。

これまでの流れを踏まえ、次は試合分析のストラクチャーを説明です。具体的に何を見るのかを解説します。

【ステップ1】 
観察する
・選手を客観的に観察 例:A選手はどんなプレーをしているのか。
攻撃について
・自陣でのビルドアップ→敵陣まで持ち込めているのか。
・敵陣でのビルドアップ→チャンスをつくり出しているのか。
・得点する→チャンスを生かせているのか。
守備について
・敵陣で相手のビルドアップを妨害する→相手チームは自陣までボールを運べているか。
・自陣で相手チームのビルドアップを妨害する→相手のチャンスメイクを防げているのか。
・失点を防ぐ→相手に得点をさせてないか。

【ステップ2】
・誰がサッカーをしているのかを確認。その選手たちの成長段階での特徴を確認する。
・その年齢カテゴリーの目標を把握する。その選手たちに何を指導することができるのか。「ドリブルができるのか」「パスがどの程度できるのか」など。特定の目標をコーチが知っておく必要がある。

【ステップ3】
分析する:5W's オランダではこの5つのポイントを分析。
・「何が」サッカーの意図・目的に関連してうまくいっていないか。 
例:ビルドアップがうまくいっていない。
・「誰が」どのポジションの選手(選手たち)が一番関与しているのか。
→そのプレーに関係している選手(複数人の可能性もあり)
・「いつ」それは起きているのか。
→攻撃のときなのか、守備のときなのか、あるいは切り替えのときか。どのチームファンクションのときに起きているのかを考える。
・『どこで』それは起きているのか。
→フィールドで事象の発生する場所を把握する。
・『どの特定要素』が関与しているのか。
→手の戦術、システム、大会の重要度、順位、天候、ピッチの質など、選手やチームに影響しているさまざまな因子を分析する。

【ステップ4】
ステップ1~3までのステップをノートに書き留め、分析する。

このような流れでゲームを分析していくことになりますが、分析を進める上で、戦術の出発点(セオリー)となる一般的な確認事項を指導者が知っておくべき点があります。

攻撃について
・フィールドを広く使う。
・前方へのプレーすることを考える。
・横パスは縦パスへの準備。
・ボールを失わないこと(攻撃するためにはボール保持が必須)。
・ビルドアップ時には可能な限り広く、深くポジションを取ること。

守備について
・フィールドを小さくする。
・ボールにプレッシャーを掛ける。
・ボール周辺は厳しいマーク。
・ボールから遠い選手はスペースをマーク、カバーリングをしているのか。
・できるだけ長く役割を担う(例:1回や2回のプレッシャーではなく、持続することが大切であり、それができているのかを確認する)

ここまでが白井氏の教えるゲーム分析の目的とその方法です。この綿密なサッカー分析法を取り入れているからこそ、人口1,600万人の小国オランダがサッカー大国となったと言えるのでしょう。指導者の皆様も、このオランダ流ゲーム分析法を参考にしてみてはいかがでしょうか。

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白井裕之(しらい・ひろゆき)
1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。

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