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「選手を評価した指導者に預けるのがベスト」加藤好男×幸野健一対談(後編)

COACH UNITED編集部です。サッカー・コンサルタントであり、アーセナル市川SS代表を務める幸野健一さんがゲストを迎えてお送りする対談シリーズ『幸野健一のフットボール研鑽(けんさん)』。前回に引き続き、ゲストはGKコーチの加藤好男さんです。現役時代は古河電工、ジェフ市原(当時)でプレーし、日本代表のGKとして国際Aマッチに出場。引退後は指導者として日本代表やタイのチョンブリFCのGKコーチとして活動され、FIFA/AFCのGKインストラクターも務められています。今回は『指導者の心構え』について話を伺います。(構成/鈴木智之)

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幸野:加藤さんは長く日本代表のGKコーチを歴任されましたよね。どのくらい、日本代表のスタッフとして活動されたのですか?

加藤:1999年に初めて日本代表のスタッフになったので12年です。トルシエジャパンのサポートをしながら、メインで担当していたのはU-17日本代表です。2001年にトリニダード・トバゴで開催されたU-17W杯に出場しました。当時の監督は田嶋幸三さんで、アジアから3チームしか出られない時代でした。その2年前、1999年に日本がワールドユースで準優勝して、アンダーカテゴリーがグッと伸びていく時代でしたよね。

幸野:ちょうど、2002年のW杯自国開催に向けて、チームを作り始めた世代ですね。

加藤:黄金世代と言われる、1979年生まれの選手が中心でした。この年代の選手たちは、2002年W杯の招致活動をしていた時期と重なるので、強化予算がついて世界経験を多く積ませることができたんです。小野伸二、稲本潤一、高原直泰たちは、1995年にエクアドルで開催されたU-17W杯にも出場しています。U-17W杯、ワールドユース、シドニー五輪、日韓W杯と各年代で世界を経験してきたんですよね。

幸野:加藤さんはジェフ市原(当時)やJFAの指導者として、たくさんの選手をセレクションしてきたかと思いますが、選手を見るときに、どの部分に気をつけていましたか?

加藤:選手を選ぶときは、技術、戦術、フィジカル、メンタルなどの項目があって、10数人のコーチで意見を出し合います。コーチが10人いたら、見る目はそれぞれ違うんですね。個人的には、選手を評価した指導者に預けるのがベストだと思います。なぜなら、ポジティブな部分を評価して、そこを伸ばそうとしてくれるからです。ネガティブな評価をしたコーチに選手を預けると、悪い部分を修正することにエネルギーを使い、その選手が本来持っていた、良い部分が伸びづらくなってしまいます。とくに育成年代は、選手が持っている良い面を伸ばしていくことが重要で、そのほうが結果として伸びていきます。選手が持っている課題については、本人が気づかない限り改善されないもの。本人がその気になってやろうとしたときに、初めて徐々に良くなっていくのです。

幸野:コーチとしては『いかにして、選手に気づかせるか』ですよね。選手が自分から取り組むような声掛けであったり、環境を作ることが大切で。同時に、僕は選手のスカウティングこそが大切だと思っています。いかに才能のある子を見つけるかという。

加藤:タレントを発掘することはとても重要です。私はGKコーチとしてスカウティングをするときに、自分の目を疑った時期があったんです。自分の見ているポイントはここでいいのか。フィジカルの要素に傾きすぎているんじゃないか、と。技術、戦術は指導で伸ばせますが、体格やフィジカル、キャラクターはある程度、生まれ持ったものです。その選手をスカウトして、後々、変化させることができるのか。そこを真剣に突き詰めないといけないと感じました。

幸野:欧州や南米のクラブは、育成年代で常に選手を入れ替えることができます。でも日本は中学や高校でクラブや部活に入ったら、基本的には卒業するまで同じクラブでプレーします。そうなると入り口の、選手を選ぶ部分がすごく大切で、3年ないしは6年間で選手をどう育てるか。ビジョンが必要ですよね。

加藤:どのコーチがどの選手をセレクトしたか、その選手がその後どうなったのか。指導者を評価する基準として、その部分があってもいいのかなと思います。自分で選んだ選手は責任を持って育てますよね。サッカーで人生がより楽しいものになってくれれば嬉しいし、高校サッカーでも、大学生活の中でプレーするのもいいと思います。育成年代の指導者は、プロになる選手を一人でも多く出したいと思って、日々選手に接しています。

幸野: 加藤さんはJFAのコーチとして、年代別代表とともに世界で戦ってきましたが、日本と世界の違いを感じる部分は、どんなところにありますか?

加藤:FC東京の権田修一選手がユース年代のとき、フランスのモンテギュー国際大会に出場しました。たとえば接触プレーにしても、日本でプレーしているときはGKに接触するとファウルを取ってくれるかもしれませんが、ヨーロッパではそうとも限りません。そこで、コンタクトプレーやクロス、ハイボールの練習をたくさんして大会に臨みました。モンテギュー国際大会では初戦でカメルーンと戦ったのですが、最初のフリーキックでGKの力量をチェックするかのように、山なりのボールを蹴ってきたんです。そこに相手選手が3、4人飛び込んで来て接触し、権田は吹っ飛ばされました。でも、レフェリーはファウルを取らない。そこで、カメルーンの選手は『日本のGKは前に出てこない』と判断し、次々にハイボールを蹴ってきたんです。

幸野:16、7歳でその判断ができるのがすごいですね。日本ではできない経験をする意味では、世界を回る経験は大切ですよね。

加藤:相手はシュートを打ったら、必ずリバウンドを狙いに飛び込んできますからね。日本の選手はそれに慣れていないので、詰めてくる相手に対してプロテクションができない。『GKと相手選手の間に入り続ける』という守備の原則ができず、ボールウォッチャーになってしまうんです。

幸野:それは日頃のプレーインテンシティが低いからだと思います。激しい守備があるからこそ、対抗してかわす技術が発達するわけで。その表裏一体の部分が日本の弱点だと思います。

加藤:先ほど話した、山なりのボールへの対処も同じで、なぜマークしていた選手が外してしまうのか。GKが、自分が対処するという意思表示で「キーパー!」と声を出すのですが、そうなると任せてしまうんです。でも、海外の選手はキーパーコールがあっても、最後まで相手とGKとの間に体を入れて、GKを守るとともに相手にプレーさせないようにブロックします。そういうことはインターナショナルレベルでは当たり前なのですが、できていないことがあります。

幸野:それは、指導者が当たり前という認識を持っていないからだと思います。必要性を知らないと言いますか。僕自身、海外を回って多くの経験をしてきましたし、加藤さんは日本代表のコーチとして、現場で目の当たりにされてきましたよね。実際に、日本と海外でどこが違うのか、どこを改善しなければいけないかを伝えることが大切だと思います。情報があふれているいまの時代でさえ、世界では当たり前のことが日本ではそうではない現状がありますよね。

加藤:そうですね。また、アジアと世界では違いがあって、アジアでは気候やレフェリングなどの、難しい状況を勝ち抜くために"アジア仕様"のサッカーが必要で、世界大会に出たら"世界仕様"のサッカーが必要。それを感じるには経験しかないんです。

幸野:加藤さんが経験して来られたことは、日本サッカーの発展のためにすごく大切なことだと思います。僕としても、それを多くの方に知ってもらうお手伝いができればと思います。今後のご活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。