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パスコースではなくパスラインを切る!フットサルの守備

※サカイク転載記事(2015年1月20日掲載)※

前回記事『シュートを決めるアイディアが増える!フットサルを学ぶ利点』では、"サッカーにも活かせるフットサルの技術と戦術"という趣旨で、サッカーに応用できるフットサルの攻撃戦術の一部を紹介しましたが、後編は、サッカーに活かせる守備について、フットサル元日本代表の小宮山友祐選手(Fリーグのバルドラール浦安に所属)にお話を伺いました。闘志むき出しの守備に定評のある小宮山さんは「まずフットサルとサッカーの守備に対する考え方はまったく違う」と指摘します。(取材・文/杜乃伍真)

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■サッカーとフットサルの守備の違い

「まずサッカーの場合は、たとえば、"パスコースを切る"と表現しますが、フットサルの場合は"パスラインを切る"と表現し、プレーも異なるものになります。たとえば、サッカーの場合、相手のボールホルダーがいて、その先にふたつのパスコースがあるとすれば、ディフェンダーはその中間ポジションに立てば"ふたつのパスコースを切る"ことはできます。しかし、フットサルの場合はボールが小さいので、少しでもパスのコースがずれれば足を伸ばしても届かずにパスカットはできません。だから、完全にコースを切るために、パスコース上に足だけではなく身体全体を入れて"パスラインを切る"イメージでプレーをするのです」

パスコースをあえて空けておいてパスを出させてカットを狙うときも、瞬間的に身体全体をパスコース上に入れて"パスラインを切る"イメージでプレーします。

このようにサッカーとフットサルではパスカット時のイメージに違いがあります。さらに"相手に寄せる"イメージにも違いがあると小宮山さんは指摘します。

「完全に"パスラインを切る"というイメージの守備が成り立っているフットサルの場合、相手に寄せるときの考え方というのは、相手に触れる1メートルほどの距離まで寄せることになります。相手との距離が1メートル以上あると、相手はパスもドリブルも自由にできてしまい、すぐにピンチを招いてしまうからです。ところがサッカーの場合は、その辺りの考え方が明確になっていないチームが多く、U-12世代の現場では『寄せろ!』という曖昧な指示が横行している印象を受けます。『寄せろ!』と言われただけでは子どももどこまで寄せればいいのかわかりません。そこで無謀にボールホルダーに飛び込めば相手に抜かれてしまうでしょうし、そうなると今度は『飛び込むな!』という指示に変わるのですが、それでは子どもは何をどうすればいいのかわからなくなってしまいます」

では、どこまで寄せることが正解なのでしょうか。

「フットサルでも、サッカーでも、"相手に抜かれない、さらに相手が自由にプレーできない距離まで寄せる"のが"寄せる"ということなのだと思います。ぼくの考え方としては、相手のボールホルダーに寄せて自由を奪い、横方向にパスを出させたらOK。これはフットサルの日本代表監督を務めるミゲル・ロドリゴも常々言っていることですが、ディフェンスの原則は"相手を前へ進めさせないこと"なのです。それがよいディフェンスだと欧州では考えられています」

たとえば、ロナウドやメッシといった選手と対峙したとき、自信をもって相手のプレーを阻止できるディフェンダーはプロでもそう多くはないはずです。そういう優れた選手との1対1や前方向への何かしらのアクションに対して、寄せることで自由を奪い、相手に横方向へパスを出させて前進を阻止したらディフェンスの勝ちと考えるのです。

「"飛び込む"というのは、まさにボールを奪いとるために相手の間合いに飛び込むイメージ。そこでボールを奪えればよいですが、逆に交わされれば一気に数的不利をつくられてしまいます。一方、"寄せる"というのはボールを奪わなくてもいいので、相手から自由を奪うことが目的となります。ただし、相手の自由を奪うのは難しいものです。初めて対峙する相手がどんなプレーをするのか、ディフェンダーにはわかりません。だからこそフットサルで大事にされている守備の原則があります。それは、自分のマークがボールを受けてから寄せる、のではなく"ボールを受けることを予測して素早く寄せる"ということなのです。相手がボールを受けてから寄せていては、相手がボールを受けた瞬間に1メートルの距離まで寄せることはできないでしょう。相手にドリブルもパスもされてしまい、プレッシングから逃げられてしまいます」

その予測を効かせるためには、その前のシーンを注視する必要があります。目の前の自分のマークにパスを出そうとする相手のボールホルダーと、相手のボールホルダーにプレスをかけて距離を寄せる味方の守備を、しっかり観察しながらプレーする必要があるのです。

「まずは、ボールホルダーと味方の寄せ方をしっかりと見ること、味方の選手が、相手のボールホルダーに対して、たとえば、縦方向へのパスラインを完全に切っている守備をしているのであれば、ボールホルダーのパスコースは横方向にくる! と予測できるので、素早く自分のマークに寄せることができます。守備の前提として、ボールホルダーに対して味方がしっかりと縦方向のパスラインを切りながら寄せていなければ、その周辺の味方が、次のパスコースを予測して寄せてボールを奪う、という守備は成立しにくいのです。自分一人だけがその感覚をわかっていてもダメ。逆に言うと、サッカーでも10人中8人がこの守備の感覚をしっかりとわかっていればチームとしての守備は機能します」

■ボール奪取のポイントは横パスを狙うこと

ボールを奪う守備の手順は次のようになります。

1.ボールホルダーに対して、味方が寄せる。
2.そこで味方がボールを奪えなくても、ボールホルダーの横パスに対して自分が寄せる。
3.さらにそこで奪えなくても、自由を奪われた相手が苦しくなってボールを下げる、その瞬間を狙って3人目のディフェンスがボールを奪う。

「このように、チーム全体で予測を効かせた守備を連動してできるようになるわけです。相手にはどんどんプレスがかかって、前進したくてもできない状況が生まれるのです」

現在、守備戦術に長けたイタリア人のフィッカデンティ監督に率いられるFC東京の守備がまさにこれ。中盤で、相手に対して横方向の逃げるようなパスを狙い、ボールを奪ったらすかさずショートカウンターを浴びせる。そんな連動した守備から数多くのゴールを奪っています。

つまり、小宮山選手が言及するフットサルの守備の考え方は、サッカーにおいても機能するということです。もしかすると守備の考え方は、サッカーよりもフットサルのほうが進んでいる部分があるのかもしれません。

最後に、小宮山さんはこう付け加えます。

「攻守というものは表裏一体ですから、トレーニングにおいては、攻守における凌ぎ合いから子どもを上達させることができます。ディフェンダーがボールホルダーに寄せたとき、ボールホルダーはそのファーストコントロールを足下に止めてしまえば相手に奪われてしまいます。だからこのときに、子どもには『相手の寄せに対して、足裏でも、アウトサイドでも、インサイドでもいいけど、ファーストコントールでボールを置く位置がすごく重要になるよね?』と声をかけましょう。『相手のいい寄せがあるのだからもっとファーストコントロールはうまく動かさないと』と。守備側の子どもには、こんな声をかけましょう。『相手がファーストコントロールでうまくプレスを外そうとしているのならば、もう一歩、寄せ方を頑張って厳しくプレスをかけてみようよ』『自分が追い込みたい方向にファーストコントロールをさせるように意識してみようよ』と。このように、ひとつの局面を曖昧な表現で終わらせることなく追求していけば、子どもの技術や判断力、戦術理解能力などをどんどん伸ばすことができるわけです。つまり、よいプレスができて、よいボディコンタクトができて、よいファーストコントロールができるようになります。相乗効果の高いトレーニングが可能になるのです」

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