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一流選手の『人間性』はこうして育まれた/大学サッカーからの提言

5月のCOACH UNITED ACADEMYは「大学サッカーから逆算で考える育成指導」をテーマにお送りします。前半の講師は、大学サッカー界の名門・明治大監督を11年間務め、現在は7月のユニバーシアード・光州大会出場に向けて全日本学生選抜を指揮する神川明彦氏。名実ともに大学サッカー界をリードする指導者の考える「ジュニア世代に必要な育成指導」とは何か――。今回は視点を「ピッチ外」に移した後編の内容から、世界で活躍する2選手のエピソードを中心にご紹介します。(取材・文/小須田泰二)

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<<長友佑都が世界と渡り合えるワケ/大学サッカーからの提言

■長友佑都と山田大記 ふたりの似て非なる点とは?

世界に通用する国際人の育成を目指す明治大サッカー部において、いままさに世界の舞台で活躍している代表的な選手と言えば、長友佑都選手と山田大記選手だ。

長友選手は東福岡高から2005年に明治大へ入学。3年時にFC東京の特別指定選手となり、そのままJリーグ入りを果たした。その後はご存知の通り、2010年のワールドカップ南アフリカ大会で日本代表の一員として活躍したのち、イタリアのチェゼーナへ移籍。そのわずか半年後にはビッグクラブのインテルへ移籍を果たし、世界有数のサイドバックとして不動の地位を築いている。

一方、山田選手は藤枝東高から2007年に明治大へ入学。インカレ優勝、リーグ優勝の立役者として活躍し、ジュビロ磐田へ入団。2年目からはエースナンバーの10番とキャプテンマークを託されると、ここでもチームをけん引する立場で存在感を発揮したのち、ドイツの2部リーグに所属するカールスルーエへ移籍、現在はレギュラーの一角を担っている。

なぜ彼らは、明治大サッカー部を経て加速度的にステップアップを遂げることができたのか。その問いに対して、神川監督は確信的とも言える揺るぎない答えを持っている。

「長友選手と山田選手の共通点。それはどんなことにも動じないメンタリティを持っていることです。それを手に入れることができたのは、ふたりとも似たような出来事を経験したからなのですが......それはさておき、これまでいろいろな選手を指導してきた中で間違いなく言えるのは、メンタルの強さを持っていなければ、選手としてステップアップすることはできないということ。言い換えれば、一流と呼ばれる選手というのは必ずといっていいほど強いメンタリティを持ち合わせています。ですから明治大では人間教育、つまり『人間性』を磨くことに重きを置いて指導しているのです」

どんなことにも動じることのないメンタリティを持つこと。言葉で言うのは容易いが、誰もが簡単に彼らのような『メンタル』を手にすることはできないのではないか――。

「そんなことはありません。私は、誰でもメンタルを強くすることができると思っています。たとえば長友選手はいまでこそ安定していますが、明治大に入学してきた当時の彼のメンタリティはまったく強くありませんでした。むしろ安定しているどころか、どこかやさぐれている感じと言ってもいいほど。しかし、ある出来事がきっかけで彼は見違えるような選手に変わったのです」

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もっとも神川監督の言葉を借りれば、長友選手に限らず、18歳で大学に入学してくる選手たちに足りないものは『人間性』や『精神性』であるという。

「裏返せば、少年時代からサッカーばかりをやってきた選手が多すぎるのではないか、と思いますね。大学でもサッカーばかりやっていればいいというのはナンセンス。学生の本分はあくまで学業ですから、授業に行かないサッカー部の学生は、文字通り"学生"とは呼べません。練習しかしていないサッカー部員なんて、大学にいる意味がないですよね。ですから、明治大サッカー部ではチームの練習を朝6時から行なっているのですが、そのことについては別の機会にお話しするとして......いずれにせよ入学当初の長友選手は"メンタルの弱さ"を克服できていませんでした」

長友選手と山田選手はキャリアこそ似たようなルートを辿っているものの、メンタリティに関して言えば、実は正反対の人間であるという。実際、山田選手が入学当初からつねに高い集中力をもってサッカーに打ち込んでいたのに対し、長友選手は不安定なバイオリズムで日々の練習に参加していた。その結果、ふたりの立ち位置はどうだったか――。メンタル面のバイオリズムが安定していた山田選手が、1年生ながら開幕戦からスタメンとしてプレーしていたのに対して、精神的にコントロールが利かない長友選手は、トップチームに定着することなく、1年時は一度も公式戦に出場する機会をつかめなかったのだ。

しかし前述のとおり、ある出来事がきっかけで長友選手は変貌を遂げる。

「2年生になって長友選手は大きな挫折を経験しましたが、その出来事があったからこそ彼は自分自身を変えることができたのだと思います。それから半年後、顔つきから練習に取り組む姿勢まで、彼の何もかもが本当に変わったのです。同じように山田選手も4年生のときに挫折を味わっていますが、ふたりに共通して言えるのは、そうした挫折を経験したからこそ、壁にぶつかってもつねに乗り越えることができてきたということです」

世界を舞台に活躍する長友選手と山田選手が経験した"挫折"とは何か。そのとき、彼らの心の中でどんな変化があったのか。そして、揺るぎないメンタリティをどうやって身に付けることができたのか......。その答えはセミナー本編で詳しく解説しているので、ぜひご確認いただきたい。

■大学サッカーから逆算で考える育成指導

THEME2 ピッチ外の育成指導

5)メンタル面
①長友佑都と山田大記 ②文武両道 ③挫折を乗り越える
④自分との対話 ⑤考える力×実行する力
6)提言
①良質の試合を観る ②競争力を高める ③感謝の気持ち

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神川明彦(かみかわ・あきひこ)
1966年7月9日生まれ。神奈川県出身。鎌倉高、明治大を経て1994年から同校サッカー部コーチに就任。2004年より監督を務める。2007年に43年ぶりに関東大学サッカーリーグ戦優勝、2010年には51年ぶりに全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)優勝へ導く。2013年より全日本学生選抜(ユニバーシアード)代表監督。関東大学サッカー連盟理事。日本サッカー協会公認S級コーチライセンス取得。