TOP > コラム > 異競技に眠っている「まだ見ぬタレント」を探せ!

異競技に眠っている「まだ見ぬタレント」を探せ!

選手がさらに成長するためには何をすればいいか――。競技レベルの差やカテゴリーを問わず、スポーツに関わる指導者・関係者に共通する課題に対して、平成24年度の文部科学省委託事業から始めた『アスリートライフスタイル』という考え方について、この事業を推進する独立行政法人 日本スポーツ振興センター(JSC:JAPAN SPORT COUNCIL)スポーツ開発事業推進部の山田香さんに、今回は「日本スポーツ」という枠組みで取り組んでいる選手の育成・強化についてお話を伺った。(取材・文/鈴木智之 写真/woodleywonderworks

20150702_01.jpg

<<選手の『アスリートライフスタイル』を気にしていますか?

■1つの競技で終わらないアスリートの"育成パスウェイ"

『アスリートライフスタイル』を提唱するJSCでは、未来のトップアスリートを発掘するため、タレント発掘・育成コンソーシアム事業を実施している。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技会やそれ以後の国際大会に向けて選手を発掘し、地域や競技団体と連携して、メダルを狙える選手まで確実に引き上げるためのシステム構築をしていくことがこのプロジェクトの狙いだ。

2015年1月には、シンガポールでウィンドサーフィンの「インターナショナルパスウェイプログラム」を実施し、地域で活動する若年層の選手に対して、国際的な環境でのトレーニングや試合、生活を経験し、国際舞台で活躍するアスリートになるまでの道筋(パスウェイ)整備を行なった。

他にも、複数の地域から構成される九州タレント発掘・育成コンソーシアムでは、福岡県のホッケーの競技者に対する発掘・育成に関わる測定を行ない、東北タレント発掘・育成コンソーシアムでは、山形で地域タレント発掘・育成事業修了生を対象に、技術的・体力的課題を把握するための測定会や、オリンピアンや中央競技団コーチを招いた講演を開催している。これらの取り組みは、2020年以降も見据えて、JSCと地域が連携し、全国各地でアスリートの発掘・育成を行なっている一例だ。

JSCの山田香さんは言う。

「各都道府県では、小・中学生を対象にタレント発掘・育成事業を実施しており、そこではさまざまなスポーツ体験などを通じた身体能力開発だけでなく、知的能力開発などのプログラムが行なわれています。」

アスリートの発掘・育成には、いくつかの方法がある。1つは、すでにそのスポーツをやっている選手を対象にしたもの。他には、そのスポーツをやっていない選手に対して、フィットネステストや各種目で要求される専門的能力の測定を行ない、適性を見ていくものがある。たとえば、日常的にサッカーや野球、陸上などに触れる機会はあっても、セーリングやホッケー、自転車など、育成環境が限られるスポーツとは接点が少ないのが現状だ。

そこで、2015年の2月にイギリスからトップレベルのコーチを招聘し、「チャレンジプログラム」として、自転車競技の育成プログラムを実施。参加基準は「中学生男女でパワーもしくは持久力に優れた者」。これには、男女合わせて10名が参加した。

「実は、競技によってパフォーマンスのピークを迎える年齢が異なるんですね。たとえばカヌーや自転車であれば、かつて陸上で培った持久力や瞬発力が活きるかもしれません。JSCとしては、トライアウトやタレント発掘などの場を設けて、アスリートとして進んで行く道筋(パスウェイ)を作っていくことができればと思っています」(山田さん)

■合同トライアルで異競技の可能性を発掘する

タレント発掘はジュニア年代にとどまらない。「2020年に東京でオリンピックが開かれる。自分もオリンピックに出たい!」と望む人も多く存在する。そこで昨年、16歳から39歳を対象に合同トライアルを実施。持久力、パワー、スピードなど、スポーツに必要となるベーシックな能力を測るテストを行ない、6つの競技団体から「スポーツ選手として有望である」と認定された25名(延べ38名)が、競技団体が提案する次のステップに進んだ。

「合同トライアルは、幅広い年齢層の身体能力に自信がある方を集めてフィットネステストを行ないます。その場にさまざまな競技団体の方が来て、『この選手、良いね』と思う人がいれば、実際にその競技の専門的トレーニングを行なう検証段階に入って行きます。サッカーや野球など、競技人口の多いスポーツではなかなか試合に出られないけど、他のスポーツなら活躍できるケースもあるかもしれません。それぞれの適性に合ったスポーツに触れる機会を作ることで、アスリートを発掘することができれば思っています」(山田さん)

20150702_02.jpg

いままでサッカーを長くプレーしてきた選手が、カヌーやボート競技に適性があり、実際にやってみようとした場合、当然それまでサッカーをしてきた生活環境、トレーニング環境からがらりと変わることになる。そこで戸惑いや不安、悩みなどのさまざまな問題を乗り越えるための、ひとつの指針となるのが『アスリートライフスタイル』だ。

JSCでは講習会や情報発信、ワークショップを通じて、アスリートのサポート活動を続けている。いまでこそ「アスリートライフスタイル」という言葉には多少の説明が必要だが、ときを重ねるにつれ、それが当たり前のように浸透していくのが理想だ。山田氏は、今後のビジョンを次のように語る。

「アスリートライフスタイルを普及させ、この考え方に共感してくださる方とネットワークを作り、多くのスポーツ関係者と一緒に活動ができればと思っています。それはスポーツ界だけに限らず、ビジネス界などの方も含めてです。そして、アスリートライフスタイルという考え方を誰もが知っていて、当たり前のように実践している。そうなればいいなと思っています」

JSCは、日本のスポーツを統括する文部科学省の管轄にある。サッカーや野球、バスケットボールといった、何かひとつの競技団体ではなく、『日本のスポーツ』という枠組みで事業を行なっているのが特長だ。全体を見渡して、多くの競技団体にアプローチできるJSCだからこそできる事業。アスリートライフスタイルもその一環であり、まずは2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、さらにはその先の日本のスポーツの発展を目指して、活動は続いていく。

日本スポーツ振興センターウェブサイト>>
スポーツ開発事業推進部ウェブサイト>>