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あらためて、ドイツ「育成年代の改革」を構造で理解する/ドイツメソッド・ミニマム講座

選手たちにどのようにしてサッカーを学ばせるか。あるいは、サッカーをどのように教えていくか。それは多くの指導者が、日々直面している悩みだと言えます。そこで、10月後半のCOACH UNITED ACADEMYでは「ドイツメソッド・ミニマム講座」と題し、各年代で何をどのように学んで行くべきかの指針となるドイツサッカー協会の考え方について紹介します。講師の土屋慶太氏はドイツで9年間、選手&指導者として活躍。現在は東京23FCのヘッドコーチ兼アカデミーダイレクターとして、ジュニアからトップ年代まですべてのカテゴリーで選手の指導にあたっています。(取材・文/鈴木智之)

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■15歳までに築きたいサッカー選手としての土台

土屋氏が指導者としての基礎を学んだドイツは、2014年のW杯で優勝しました。そこに至る過程において「育成年代の改革」という大きな出来事があったことは、多くの方がご存知のことでしょう。土屋氏はドイツサッカーに変化が訪れた2001年から2009年までをドイツで過ごし、変化の過程を目の当たりにしてきました。

「私がドイツにいる間、ドイツのサッカーが大きく変わりました。若手が輩出されなかったり、国際大会で結果を残せない時期を経て、2014年にW杯で優勝しました。2013年にはチャンピオンズリーグの決勝でバイエルンとドルトムントが対戦するなど、ドイツサッカーの復活を印象づけています。私自身、こうしたドイツ成功の要因は選手育成にあると感じており、今回は『ドイツメソッド・ミニマム講座』と題して、ドイツの選手育成の概要について掘り下げていきたいと思います」

土屋氏によると、ドイツサッカー協会が提案する育成年代の指導段階は3つに分けられるそうです。それが、第一育成段階(5歳~10歳)、第二育成段階(10歳~15歳)、第三育成段階(15歳~19歳)です。各段階について、次のように説明します。

「第一育成段階は基礎の部分です。サッカーのスキルだけでなく、遊びの中でボールにたくさん触ること。そして、サッカー以外のスポーツや遊びを通じて、様々な動きを習得していく段階です。ここでは主に一般的な基礎運動能力の向上を目指し、サッカーではルールや相手との駆け引きといった基本的な要素を身に付けるとともに、守備よりも攻撃(ドリブル、パス、シュートなど)を中心にトレーニングしていきます」

幼児から小学校低学年を経て、10歳からは「ゴールデンエイジ」と呼ばれる動きの習得に適した年代に突入します。ここでは、選手個人のボール扱いに加えて、個人戦術とグループ戦術を学んでいくそうです。

「この年代は運動神経の状態が良く、コーディネーションやテクニックのトレーニングに適した時期だと言えます。精神面でも自分から積極的に『もっと上手くなりたい!』という気持ちが芽生えてくる時期です。練習では遊びの要素を含む対人形式や、2~6人の選手が関わるグループ戦術、ポジションの役割の理解。個人戦術ではオフ・ザ・ボールの動き、身体の向きなどもトレーニングで身に付けていきます」

12・13歳からはジュニアユースのカテゴリーに入っていきます。中学生年代は思春期を迎える時期であり、育成面でも非常に難しい年代です。身体が急激に大きくなることでバランスを崩したり、いままでできていたプレーができなくなることもあります。加えて精神面でも変化が訪れる頃で、心と身体の調和をとることが難しい時期だと言えるでしょう。

「ここでも引き続き、個人戦術とグループ戦術を学び、テクニック面では大人と同じレベルを求めます。大人と違うのはスピードとパワーだけ。それ以外のテクニック面では、正確にプレーできるように練習をしていきます。個人戦術では予備動作、3人目の動き、ワンタッチプレーなど、高度なものに取り組んでいきます。トップレベルの選手になるために、15歳までにサッカーの大まかな要素を学んでいきます」

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土屋慶太氏作成「年代別における選手育成の概要」より抜粋(参考資料:ドイツサッカー協会指導者養成講習会)

■チーム戦術の遂行に不可欠な個人・グループ戦術

15歳までに身に付けたいのがサッカー選手としての土台だとすると、16歳から18、19歳という育成の最後の年代は「大人のサッカーに移行するための準備段階」。土屋氏はユース年代の育成を次のように説明します。

「16歳以降の年代では『結果を残す』ため、つまり『試合に勝つ』ためのトレーニングを中心に行ないます。次の試合の対戦相手を分析し、どのように攻撃をするか、どのように守備をするかを考えて、トレーニングを組み立てていきます」

毎週末のリーグ戦のために、トレーニングでは勝つための準備をする。その中で、相手の出方に応じ、どのように戦うかという戦略を立て、それを実行するためのトレーニングをしていきます。チーム戦術を行なう上で、チームの一部であるグループ戦術、個人戦術の質が低いと、チーム戦術を正しく実行することができません。つまり、15歳までにサッカー選手として学ぶべきこと、身に付けるべきことができていないと、チーム戦術を実行する段階で正しくプレーすることができないのです。

「例えば、チーム戦術として最終ラインからビルドアップをするときに、一人の選手の身体の向きやポジショニングが悪かったり、ボールを止める・蹴るというテクニックが身に付いていなければ、チームとしてイメージしているレベルのビルドアップができません。そのためジュニア年代から、ボール扱いのトレーニングだけでなく、個人戦術やグループ戦術の理解、向上も重要になるのです」

土屋氏はドイツと日本を比較すると、「日本にはチーム戦術の情報が少ない」と感じていると言います。

「日本では選手任せでビルドアップをしたり、チームとしてどうプレーするか?というチーム戦術のコンセプトがあまりないと感じることが多く、まだまだ発展の余地があると思います。ドイツには『選手の10年後を考えて育成をする』という言葉があります。選手は年齢とともに段階を経て、年代に沿った技術・戦術を身に付け、サッカーへの理解を深めることで、サッカー選手としての土台を形成していきます。しっかりとした土台があれば15歳以上のユース年代において、どのような戦術や戦略を遂行する際にも順応することができるのです」

選手の将来のために、いま指導者ができること、すべきことは何か。未来を見据えた指導の重要性は、世界共通だと言えるでしょう。COACH UNITED ACADEMYの動画セミナー本編では、土屋氏がドイツサッカー協会の指導要綱を元にどのように指導を積み重ね、サッカー選手としての土台を作っていくかという方法論を公開しています。この機会にぜひご覧ください。

とある「1日のトレーニング」の組み立てを再考する>>

土屋慶太(つちや・けいた)
1978年12月19日生まれ。静岡県出身。清水東高、信州大を経て、2001年にドイツに渡る。選手としてドイツ2部の1.FCザールブリュッケン、チェコ2部のFCボヘミアンズ・プラハなどに在籍。2005年からドイツ5部の1.FCライムスバッハ、4部のEGC ヴィルゲスでプレーする傍ら、下部組織で指導者の道を歩み始める。2009年に帰国後、フッチ・スポーツクラブ、修徳高、修徳ジュニアサッカースクールを経て、東京23FCのヘッドコーチ兼アカデミーダイレクター、修徳FCジュニアのテクニカルディレクターとして活動中。ドイツサッカー協会A級(UEFA‐Aレベル)ライセンス保持。

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