04.18.2016
指導者の役目は、選手がプレーの意図や狙いを持てるように導くこと/自ら判断できる選手を育てる問いかけ術
COACH UNITED ACADEMY 今回のテーマは「ゲーム時における、判断を求める問いかけ術」と題し、ドイツで14年間の指導経験を持ち、ドイツサッカー協会より、DFB・エリート・ユース・ライセンスを取得した、坂本健二氏を講師にお届けする。坂本氏は選手のプレー中の判断について「定数と不定数を含んだ、連立方程式を立てて解くようなもの」と表現する。果たして、指導者が選手にどのような問いかけをすることで、選手自身が自分で考えてプレーするようになるのか。坂本氏の方法、アイデアを紹介したい。(文・鈴木智之)
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理解を深めるために言葉にして表現させる
坂本氏は育成年代の指導経験が豊富な指導者だ。ドイツ時代はブンデスリーガの名門SVヴェルダー・ブレーメンのU16、U13、U9の指導者を歴任。01年にはクラブ史上初のコーディネーション・コーチにも抜擢された。2006年にはFCペンツベルクで日本人初のアカデミー・ダイレクターを務めるなど、様々なカテゴリーで指導にあたってきた。坂本氏の指導スタイルは「選手の潜在能力を信じ、質問を投げかけていく形で会話を進め、個々が持っている力を引き出しながら、良い方向へ導いていく」というもの。坂本氏は「練習中、選手はミスをします。そこでプレーを止めて、いまのプレーが良かったのか、悪かったのかを問いかけて、選手の口から正解が出るように導いていきます」と、指導のスタイルを説明する。
今回の練習のテーマは「攻守の素早い切り替え」。COACH UNITED ACADEMYで公開中の映像では、坂本氏が初めて指導をするU12の選手達に対して、トレーニングを通じて「攻守の素早い切り替え」を意識させていく。
トレーニングの1つ目は、コーディネーション要素が含まれたものからスタート。トレーニングの設定は、ゴール2つを背中合わせに置き、2チームに分かれた選手達がそれぞれのゴールにシュートを決めるというもの。ルールとしては、足ではなく手を使ってパスをつなぐ。ラグビーのように、ボールを持って走らない。シュートは浮いているボールをダイレクトでボレーキックかヘディングのみという設定で行われた。
坂本氏はルールを説明し、まずは選手達に自由にプレーをさせる。そして、修正すべきプレーが見られたときに「ストップ!」と言って止め、選手達に質問を投げかけていく。声掛けの詳細は動画をご覧頂きたいが、例えば坂本氏はゴール前でパスを待っている選手がボールを要求しない場面で、フリーズをかけている。
坂本氏はゴール前で待っていた選手に「どういうプレーがしたかった?」とたずねたところ、最初はもじもじして答えない。そこで、他の子に「誰か助けてあげて」と言って、周りの子か自らが答えることを待つ。そこで、質問をされた選手がようやく「ボールを受けてシュートしたかった」と答える。
次に、ボールを持っていて適切なタイミングでボールを供給できたにもかかわらず、ゴール前にフリーでいた選手の存在を知らなかった選手に対し、状況確認の質問を行っていく。坂本氏によると「ボールの受け手と出し手の協力、共通認識が、成功への土台だとわかってもらうため」だという。
このようにして、プレーの意図を選手自身に考えさせ、坂本氏は決して「どうすればいいか」という答えを与えない。質問をすることで、すべきプレーへと到達していくように導いていく。
正しい認知・判断・実行に導いてあげること
坂本氏は選手達に質問をすることの意味を、次のように語る。「選手に対して"なぜそのプレーをしたのか?"と理由を聞くことで、選手は直前に行ったプレーにまつわる判断要素と判断基準を問われることになります。そして、指導者との問答を通じて『それが何か』を知ることができます。プレーに必要な判断要素と判断基準がわかれば、次からはそれらを『自分で認知し、判断する』ことに、サッカーの面白さがあると気が付くと思います」
さらに、坂本氏はこう続ける。
「選手自身、プレーに意図がないと、なぜいまのが良くないプレーだったのか、という間違いに気付きません。選手自身にプレーの狙いがあれば、やりたかったプレーと結果とのズレ(差)に自然と気が付きますよね。選手自身が、プレーの意図や狙いを持てるように導くのが、指導者の務めだと思います」
2つ目の練習では「5+5対5のポゼッション」という練習メニューを通じて、攻守の切り替えをトレーニング。そこでは坂本氏がトレーニング中に「キミはいま何を考えている?」「プレッシャーを受けていなかったらどうする?」「どこにパスを出す?」と、それぞれのシチュエーションで質問を投げかけ、思考を掘り下げるように仕向けていく。なかでも、「誰もボールを取りに来ていないよ」「どういう状況? 言葉にしてみて」といったアドバイスを通じ、選手の口から状況を言わせることで、認識させる姿が印象的だった。
坂本氏のトレーニングの設定、コーチングをするポイント、質問の内容、タイミングについては、ぜひ動画をご覧頂ければと思う。指導対象はごく一般的なレベルのU12年代の子ども達であり、そんな彼・彼女たちに対して、坂本氏はどのような質問や導きで指導をし、身に付けるべき練習テーマを意識させていくのか。指導の一端を見ることで、多くの気付きが得られることだろう。
坂本氏は、最後にこう締めくくった。
「16年間のドイツ生活を終え、昨年10月に帰国してから、いくつかのクラブから練習指導のリクエストを頂き、やらせてもらいました。改めて日本の現状を見たときに、ある言葉が甦ってきました。それは、かつて私がお世話になった、ドイツ人指導者から聞いた言葉です。彼は日本に2年間住んだ経験があるのですが、あるとき、私に向かってこう言いました。『日本は、あらゆる国で行われている最先端の練習形式を既に輸入している。しかし問題なのは、指導者がその練習形式をどう実際に行っていくか、という部分にある』と。練習は生き物です。指導者が企画した練習意図を、どう選手たちへ伝えるのか。また、重点に沿った課題克服を、どのようにして選手たちと一緒に格闘していくのか。その部分に、我々日本人指導者の課題があると思います」
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【講師】坂本健二(さかもとけんじ)
1960年東京生まれ。82年~89年山雅SC(現松本山雅FC)にてプレー(85年北信越リーグ優勝)。98年サッカー留学のために渡独。99年からSVヴェルダー・ブレーメンのU16、U13、U9などの指導者を歴任、01年にはクラブ史上初のコーディネーション・コーチにも抜擢された。04年ドイツサッカー協会指導強化ビデオ『「ボールを重視した」守備』を翻訳、同協会認定指導者B級ライセンス取得。06年日本人初、FCペンツベルクでアカデミー・ダイレクターに就任。15年指導者資格DFB・エリート・ユース・ライセンスを取得、日本へ帰国。
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6歳から10歳までの子どもたちがサッカーを楽しみ、自らチャレンジして上手くなる指導法とは?詳しくはこちら>>ドイツサッカー協会が編集し、坂本健二氏が翻訳したU-10年代を指導するコーチに向けた指導書と、 ドイツの指導者養成機関であるケルン体育大学で講師を務め、1.FCケルンで育成部長などを務めたクラウス・パブスト氏によるトレーニングDVD「モダンフットボール」をセットにしました。
取材・文 文・鈴木智之