05.16.2016
オンオフでも子供の興味をいかに引き出すか/球際の強さを上げるレジスタFC流トレーニング
昨年度の全日本少年サッカー大会では並み居るJクラブを破り、初優勝を果たしたレジスタFC(埼玉県)。COACH UNITED ACADEMYでは、三回に分けてレジスタの強さの秘密に迫っている。最終回はレジスタの中城勉氏が考える、ジュニア年代の育成、選手との接し方について紹介したい(文・鈴木智之)
コーチングの強弱だけでも子供の興味は変わってくる
COACH UNITED ACADEMYではレジスタ・中城氏の指導風景を公開中。中城氏は常に選手たちに視線を向け、プレーに言葉を合わせ、シンクロでコーチングをしている。その様子からは、コーチングの哲学が垣間見える。「だいたいシンクロでコーチングをしていますが、ここだけは絶対覚えてほしい! ということは、何度もフリーズさせます。誰かのプレーがうまくいったときに、あえて止めて『できたろ!』と、大きな声で褒めることもあります。子どもは一人が褒められると、自分も褒められたいと思いますよね。周りの選手が同じことを意識すれば、よし、今度は自分もやってやろうという気になります。このご時世、サッカーを習い事として来る子もいますが、まずは子ども自身がうまくなりたいと思わないと、上達しませんよね。ただ決められた日にグラウンドに来て、サッカーをして終わりというのでは寂しい。だから全力でプレーするための環境づくりは意識しています」
レジスタのトレーニングを見ていると、選手たちは一つひとつの練習、プレーに集中している。そこには、中城氏と子どもたちとの間に駆け引きがあるのだという。
「他の選手にコーチングをしている時、僕は言われていないから、関係ないからというふうに、聞いていない子もいます。でも、ひとりが言われていたら、他の子も同じ状況になるときがあるわけです。なので、できるだけみんなに聞こえるように言います。ときには小さい声で話すこともあります。そうすると、『何を言っているんだろう?』と耳を傾けようとしますよね。選手によっては、話を聞く集中力がない子もいるので、その場合は違うところで補足したりと、相手によって使い分けるようにしています」
とくにジュニア年代において、ピッチ外とピッチ内は密接につながっている。自分で考え、行動できる選手になるために、どのようなアプローチをして、子どもたちを自立させていくか。それは、多くの指導者が試行錯誤しているところだろう。中城氏は「ボールを蹴る以前の部分は、指導をする上で大切にしている」と語る。
「自立という観点からいうと、荷物の置き方は徹底させています。5,6年生になったら、あえてうるさく言わず、意識できているかを見ています。意識できていれば、行動につながりますよね。自分のことは自分でやる、ものを大切にするといった基本的なことは、習慣になってほしい。もちろん、他の子ができていなかったら助けてあげる。そういう発想も出てきてほしい。子どもたちは、好きなサッカーに関することなので、嫌なことでも覚えよう、やろうとします。それはサッカーという場を通じて、身につけやすい部分ですし、身につけられる部分だと思っています」
オフでのコミュニケーションは子供目線が効果的
レジスタの選手たちを見ていると、試合中、ここぞという場面で集中し、ギアが上がる印象を受ける。その秘訣をたずねると、中城氏は「オンとオフの切り替え」について話をしてくれた。「僕らとしては、サッカーをするとき、つまりオンのときは真剣に全力でやります。でも、練習が終わったあとなどは、子どもとくだらない話をするときもありますし、基本的に子ども目線で接しています。そうしないと、子ども自身がもたないんですよね。子どもにもリフレッシュする時間が必要です」
さらに、切り替えの重要性を次のように語る。
「子ども目線で話すと、悩みや想いが聞けて、それに対してアドバイスができます。その時間は大切にしています。オフの時間があるから、オンのときに精一杯出しきることができるんですよね。切り替えがないと疲れますし、ひょっとしたら、ここぞという場面で出さなければいけない力を、指導者が消しているのかもしれません。自分としては、試合中のここぞという場面で、力を出せる選手を増やしたいと思っています」
中城氏は練習中や練習前後に、選手に問いかける。話をする。コミュニケーションをとる。それは、選手と信頼関係を構築するために他ならない。
「指導者は、言えば子どもは理解してくれると思っています。でもそれは自己満足なんですよね。子どもと会話をすることで、お互いの信頼関係であったり、もっとうまくなりたいという向上心が芽生えてくるのだと思います。子どもと話をするときに意識していることは、1でも2でもいいので、こちらが言うことを理解する力を得て欲しいと思って話をすること。どの程度、理解しているかはわかりませんが、こちらの言葉に対して、どのような反応をするかはしっかりと見ています」
COACH UNITED ACADEMYでは、中城氏がトレーニング中、選手に対してどのタイミングで、どのようなトーンで、どのような声をするのかを見ることができる。選手達のプレーの何を見て、どこにコーチングをしているのか。中城氏がグラウンドで表現する、指導の熱をぜひ感じてほしい。
中城勉(なかじょうつとむ)
1976年10月14日生まれ。2004年にレジスタFCを設立。2008年にわずか4年間で埼玉県を制し、2012年にはダノンネーションズカップの日本大会で優勝。世界への切符を掴む。その後も、強豪ひしめく埼玉県にて素晴らしい成績を収め、ついに第39回全日本少年サッカー大会にて悲願の初優勝を成し遂げる。先日行われた国際規模のCOPA PUMA TOREROS 2016 においても優勝。レジスタFCを率いて各大会、常に上位の成績を収めている。
取材・文 鈴木智之