12.11.2018
全国出場経験のないサッカー部から毎年Jリーガーが生まれる理由とは?
ヴィッセル神戸で今年ブレイクした古橋亨梧をはじめ、近年は毎年のようにJリーガーを輩出している興國高校(大阪府)。インターハイや選手権など全国大会の出場経験がなく、一般的には決して知名度は高くないが、昨年は3名のプロを輩出し、今年もすでに起海斗、村田透馬、中川裕仁ら3名がプロから内定をもらっている。
プロサッカーチームも多数あり、かつ強豪校ひしめく激戦区関西において、なぜ興國高校からプロ選手が多く生まれるのだろうか? その理由のひとつが、内野智章監督が徹底する技術の習得にある。
(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
ボールの大きさや重さを頻繁に変えることで技術習得が早まる
興國高校では、1年生から「ボールコーディネーション」という独自のトレーニングを取り入れている。ボールコーディネーションとは、ドリブルやリフティング、パスなどボールコントロールの練習をリズムでつなぎ、前後左右の動きをつけたトレーニング。わかりやすくいうと、コーディネーションの要素を含んだ技術練習だ。
イニエスタもそうだが、高いテクニックを持った選手たちが連動して相手を崩す近代サッカーにおいては、どんなボールが来ても、スムーズに意図したところにボールを置く技術が重要となる。それは『トラップがうまい』というだけでなく、動作やステップワークに優れているからだと内野監督は考える。ボールを止めて、コントロールして、蹴るというように、一つひとつがバラバラではなく、プレーに切れ目がないイニエスタのような動きが理想だ。その動きを研究して作り上げたのが、ボールコーディネーショントレーニング。
このトレーニングで使用するのは、3号球の大きさで、5号球と同じ重さのボール。あるいは表面がゴムでできている、柔らかくて小さいリフティングボール。なぜ、小さくて重さの異なるボールを使って、練習をするのだろうか? 内野監督が説明する。
さまざまな大きさのボールでトレーニングを行う(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
「脳科学によると、ボールの大きさや重さを頻繁に変えることによって、脳に違う種類の刺激が行くそうです。普段、試合で使っているボールと重さは同じなのに、大きさが違うという刺激を皮膚や筋肉に与えることで、脳を活性化させて、技術の習得を早くする狙いがあります」
ボールコーディネーショントレーニングは、神経系の発達を促進し、身体の動きをスムーズにしていく。この「身体の動きをスムーズにする」というのが、ボールコーディネーションの目的のひとつ。決して、器用に足技を繰り出すために練習をしているのではなく、どんな状態でもボールを自在にコントロールし、プレーのスピードを落とさないためのトレーニングなのだと。内野監督は言う。
「朝練の30分と、放課後の練習時にウォーミングアップとして、ボールコーディネーショントレーニングを行っています。これを始めて7、8年になりますが、選手たちのボールコントロール技術、コーディネーションは随分レベルが上ったと思います」
「前後の動き」や「斜めの動き」を入れて、技術練習を実践に近づける
興國のボールコーディネーショントレーニングは、ドリブルやリフティング、複数人でのパス回しなど、個のレベルアップにフォーカスを当てたもの。ドリブルでは大きさや重さ、表面の柔らかさが違うボールを使い、足の様々な部位を使用して、リズミカルなボールタッチで進んでいき、リフティングも両足を使い、足の様々な部位でボールを動かしていく。
足の様々な部位でボールをコントロール(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
一見、オーソドックスな技術練習に思われがちだが、ポイントになるのがドリブルやリフティングに「前後の動き」や「斜めの動き」を入れること。ドリブルは前進だけでなく、後ろに下がる動きも行う。リフティングも、その場でボールをつくのではなく、前後左右に移動をしながら行う。
「前後左右の動きを取り入れているのは、サッカーの実戦に近づけるためです。後ろに下がる動きをするときに使う筋肉は、前へ進むときに使う筋肉と異なります。そのため、それぞれのパターンで、神経系に働きかけるトレーニングを行う必要があります。そして、左右両足を使い、前進と後進を同じようにスムーズにできる状態を目指しています」
どうすればイニエスタのようにプレーできるのか、辿りついた答え
興國の選手のドリブルを見ていると、上半身が起きていて、リズミカルに足を運んでいく。その動作は、イニエスタの動きに近いものがある。内野監督は「テクニックとテクニックをリズムで繋ぐのがボールコーディネーション」と表現する。
「リズミカルに、スムーズな動きでボールを扱うことができで、はじめて興國が目指すポゼッションサッカーができるようになります。ジダンもイニエスタもそうですけど、どんなに速いボールやズレたボールが来ても、意図したところにスムーズな動きで置くことができますよね。あの動きが、ボールコーディネーションなんです。彼らは動きに無駄がなく、流れるようにプレーしています。バルサのホーム、カンプ・ノウはピッチに水を撒くので、パススピードがものすごく速いです。でもそこで、シャビやイニエスタはプレースピードを落とさず、正確にボールをコントロールします。実際にカンプ・ノウで彼らのプレーを見て、どうやったらできるんやろうと考えて、彼らの動作を研究した結果、ボールコーディネーションにたどり着きました」
ポイントは動作とボールコントロールが平行して行われること
ボールコーディネーションの練習で、4人が四角形を作り、ツーステップでパスを回す練習がある。選手たちの動きを見ていると、ボールを蹴る動作と移動の動作がつながっているので、動きが素早く、無駄がない。
ツーステップのスクエアパス(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
「パスを出した一歩目が、走りの一歩目になるという考え方で練習をしています。それができれば、パスを出した動きのまま、味方のサポートに行くことができますよね。単なるボール扱いの練習だけでなく、動作とボールコントロールが平行して行われているところがポイントで、それが、日本人が世界で生き延びるために必要な要素かなと思っています。常に動いていれば、相手にぶつかられる可能性も減りますよね。それをシャビやイニエスタは、自然にやっています。でも、多くの日本人はできません。だから練習するしかない。日本人のストロングポイントは、地味な練習を反復できるところだと思います。努力と反復練習でイニエスタに近づこうと、興國の選手は1年生のときから、ボールコーディネーショントレーニングをしているわけです」
(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
興國では、シャビやイニエスタといった、トップレベルの選手の動きを解析し、独自のトレーニングに落とし込んでいる。卓越したボールコントロールと、どんな状態でも技術を発揮できるハイレベルなコーディネーションが、興國の選手達が評価されている一つのポイントであることは間違いない。
また、内野監督は「本来であれば、こうしたトレーニングは高校生に上がる前にやっておくべき」とも話してくれた。今回ご紹介したトレーニングはジュニアやジュニアユースの年代においてもともて効果的だ。ぜひ、多くの指導者の方に参考にしていただきたい。
※この記事は2016年4月18日にサカイクへ掲載した記事を再編集したものです。