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GKを"育成する"トレーニングの構築方法とは? / スペイン有数のGKコーチ「ジョアン・ミレッ」の育成メソッド

2017年5月のCOACH UNITED ACADEMY講師は、FC東京でGKコーチを務める、ジョアン・ミレッ氏。24歳の若さで現役を引退したジョアン氏は、スペイン・カタルーニャ州のテラッサで育成年代からプロ(スペイン2部)のGKを指導。2002年からはバスク州のゲルニカにて、育成およびトップチームのGKコーチを務めた。スペインで多くのGKをプロへと送り出した後、2013年より湘南ベルマーレのアカデミーGKプロジェクトリーダーに就任。2017年より、FC東京のトップチームでGKの育成に情熱を注いでいる。

今回はジョアン氏の30年を越えるGK指導の経験から「GKトレーニングの構築方法」「年間トレーニング計画の立て方」「ヨーロッパやスペインと日本のGKの違い」などについて、存分に語ってもらった。詳細は3回に分けて掲載するCOACH UNITED ACADEMY動画に譲るが、ここでは、欧州トップレベルのGKコーチであるジョアン氏の考えの一部を紹介したい。(文・鈴木智之)

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■「GKコーチ」と「GKを育成するコーチ」の違いとは?

ジョアン氏は「まず皆さんに伝えたい事があります」と切り出し、次のように続ける。

「"GKコーチ"と"GKを育成するコーチ"の違いについて、話をさせてください。私は自分のことを"GKを育成するコーチ"だと自負しています。ですが、昔は"GKコーチ"でした。"GKコーチ"はトレーニングメニューを遂行する人。"GKを育成するコーチ"はGKに『教える』ことができる人を指しています。そこが大きな違いです」

続けてジョアン氏は"GKを育成するコーチ"になるためのポイントとして「指導者自身が、GKに必要なそれぞれのアクションを完璧に理解している必要がある」と述べる。GKのプレーにはすべて理論や裏付けがある。そのため"GKを育成するコーチ"は、どの技術をどの順番で身につけさせるべきかといった部分を、理解することが求められるのだ。

「なんのためにトレーニングをするのでしょうか。それは、試合で良いプレーをするためです。『試合で良いプレーをする』という目的のために"GKを育成するコーチ"は、『今日はこのプレーとこのプレーのトレーニングをしなければいけない』と考える必要があります。私が指導の現場でよく目にするのが、負荷がコントロールされていないトレーニングや、思いつきで考えられたようなトレーニングです。トレーニング前に監督から『最近、ハイボールに出られていないじゃないか』と言われたら『ではハイボールの練習をします』。もしくは『右のセービングが弱い』と言われたので『セービングもやります』という形です。このようなトレーニングは、GK にとって悪影響です。なぜなら、それぞれの技術を深く発展させることができないからです。与えられる知識のテーマが5分ごとに変わるので、整理もつきづらくなります。毎回違うことを言われ、違うことをやらされるのであれば、結局GKは自分のやりたいようにしてしまいます。なぜなら、そこに明確な指導基準がないからです」

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■トレーニング後に問いかける「3つの質問」

いまでこそ"GKを育成するコーチ"として、数多くのプロ選手を輩出してきたジョアン氏だが、指導を始めたばかりの頃は、ここで指摘したようなミスをしたことがあるという。

「私にも、指導においてミスをした時期があります。コーンでグラウンドを埋め尽くし、GKにたくさんジャンプをさせて、クタクタにさせてロッカールームに帰していました。毎回のトレーニングで5万回飛び、30万回シュートを打たれ、クタクタになってロッカールームに引き上げるのは良いこととは言えません。例えば20回シュートを連続で受けました。最初の8回は全力でやれるとしましょう。しかしその後はどうでしょうか。GKはフィジカル的に疲れて、正しいアクションが発揮できなくなります。正しく飛ばない、立ち上がらない、正しく動かない...。つまり、何もトレーニングしていないのと同じです。ですから、適正回数が大事になりますし、そのためには計画が大切になります」

ジョアン氏はトレーニング後、GKにする3つの質問があるという。それが「疲れた?」「怪我は?」そして「考えた?」である。

「もしトレーニング後にGKが『考えています』と言えば、それは素晴らしいトレーニングだったと言えるでしょう。指導者は、GK自身の考えを発展させ、何をトレーニングし、何をしたか、何が良くなったか、何のためになるかを促す必要があるからです。ですからGKは、常に考えながらロッカールームに引き上げていかなければいけません。私はいつも『シャワーを浴びている3分でもいいから、復習、反省の時間を作ってくれ』と言っています。今日はこれをやったな、これが良くなったな、こんな要求があったなと、脳は知識を入れて、反省をしていくことで記憶されていきます」

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COACH UNITED ACADEMYの動画前編でジョアン氏が語るトピックは「GKに重要なプレーインテリジェンスの発展」「GKがトレーニングするべきグラウンドの場所」「明確な指導基準の大切さ」「グローバルトレーニングの前にすべきこと」「GKにおけるフィジカルトレーニングの重要性」「知覚、判断のトレーニング不足」など、多岐に渡る。

GKコーチはもちろんのこと、すべての指導者にとって、GK指導に対する非常に重要なアドバイスが多く含まれている。これを機会にぜひ動画を御覧頂ければと思う。必ず多くの気付き、指導のヒントが得られるはずだ。

最後に、ジョアン氏のメッセージでこの項を締めくくりたい。

「指導者が選手に要求していいのは、トレーニングしたこと、教えたことだけです。トレーニングしていないことを、選手に要求してはいけません。まず、選手は正しい解決方法を学ばなければいけないのです。トレーニングをしていないのに、何かを言うことはできません。トレーニングを考える時に大切なのは、何をするか、いつするか、どのようにするか、そしてなぜするか、この順番です。指導者は、何をするべきか、何をするかという理由を明確に持っていなければいけません」

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<プロフィール>
ジョアン・ミレッ/
1960年生まれ。スペイン出身。24歳で現役引退後、スペイン・カタルーニャ州のテラッサで育成年代からプロ(スペイン2部)のGKを指導。2002年からはバスク州ゲルニカにて、育成およびトップチームのGKコーチを務めた。スペインで多くのGKをプロへと送り出した後、2013年より湘南ベルマーレのアカデミーGKプロジェクトリーダーに就任。2017年より、FC東京のトップチームでGKコーチを務める。

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