05.15.2017
GKの能力を最大限に伸ばすトレーニングの順番 / スペイン有数のGKコーチ「ジョアン・ミレッ」の育成メソッド
スペインで多くのGKを指導し、プロへと導いた後に来日。湘南ベルマーレのアカデミーを経て、今季からFC東京でGKコーチを務めるジョアン・ミレッ氏。トップレベルのGKコーチであるジョアン氏の講義、ラストとなる今回は「GKが行うべきトレーニングの順番」について、見解をお届けしたい。(文・鈴木智之)
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■計画性を持ってトレーニングの順番を考える
ジョアン氏は「本来はトップシークレットですが」と前置きをしながら、彼の考えをCOACH UNITED ACADEMYの読者に公開してくれた。「GKトレーニングにおいて、私はまずキャッチングから始めます。次はポジショニング、怪我予防、ハイボールの順番です。キャッチングができて、ポジショニングができるようになったところで、ハイボールのトレーニングに移ります。この順番を変更することはできません」
ジョアン氏はGKのプレーに必要な動作を分解し、薄皮を重ねていくように、日々のトレーニングで段階を経て向上させていく。
「次はハンドフィードです。ハンドフィードをしてサポートをするなど、それに付随した技術も学びます。それらを実現するためには、上半身も含めたパワーが必要です。セービングをするためには、下半身の強化も重要です。もしセービングでボールをこぼした場合、立ち上がらなくてはいけないからです。その際は、地面から正しく立ち上がる、反転する技術が必要になります」
■"思い付き"でトレーニングをしてはいけない
続いてジョアン氏は『爆発力』という、耳慣れない言葉を使った。これは、ボールをこぼしてしまい、素早く次のプレーに移る、速くリアクションをするという状況で必要な『ダブルアクション(2つの動作)』の際に有用なもので、こぼしてしまったボールに対して、立ち上がった後に正しくボールや相手選手にアタックする方法を、1対1のトレーニングを通じて学んでいく。ジョアン氏によると「ダブルアクションは、ファーストアクションと修正、セカンドアクションが合体したもの」と定義しており、それをトレーニングすることで、GKはミスをしたとしても、適切なリアクションでリカバーすることが可能になる。
「これらのトレーニングが済んで、ようやく足元のトレーニングに入ります。モダンサッカーでは、足元の技術が重要視されています。それについて異論はありませんが、GKにとって足元の技術よりも大切なのは、相手のシュートを止めることです。この優先順位を間違えてはいけません。まずシュートを止めて、それから足でボールを扱うのですから」
近年、GKの足元の技術がクローズアップされて久しいが、GKはゴールを守る、シュートを止めるために存在しているのであり、足元の技術はゴールを確実に守った上で、プラスアルファの部分である。そこを履き違えてはいけないというのは、ジョアン氏の本質を突いた指摘だろう。
「技術のトレーニングを終えたあとに個人戦術、その後に集団戦術と順番を経て学んでいきます。(COACH UNITED ACADEMY動画で紹介している)パワーポイントをみなさんが分析し、トレーニングで発展させた時に順番が違っていたり、その時々の思いつきでトレーニングをしてしまうと、GKが本来成長できたであろう最高到達点まで、たどり着くことが難しくなります。私はここで紹介した順番が、最適なものであると確信しています。そのことに驚かれる方もいるかもしれませんが、これは私の20年間を越える仕事の上で導き出した結論なのです」
COACH UNITED ACADEMY動画では、この記事で紹介した「トレーニングの順番」だけでなく「ヨーロッパやスペインと日本のGKの違い」についても言及している。
GK指導の職人でありカリスマが、日本の指導者のためにノウハウを惜しげもなく披露してくれた。ジョアン氏の懐の深さに感謝するとともに、ひとりでも多くの指導者がこの動画を見て、GK指導に対する見識を深める機会になればと思う。
<プロフィール>
ジョアン・ミレッ/
1960年生まれ。スペイン出身。24歳で現役引退後、スペイン・カタルーニャ州のテラッサで育成年代からプロ(スペイン2部)のGKを指導。2002年からはバスク州ゲルニカにて、育成およびトップチームのGKコーチを務めた。スペインで多くのGKをプロへと送り出した後、2013年より湘南ベルマーレのアカデミーGKプロジェクトリーダーに就任。2017年より、FC東京のトップチームでGKコーチを務める。
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取材・文 鈴木 智之