06.19.2017
大人と子どもの指導の違いは「時間の概念」 / 霜田正浩氏が語る「指導者が追求すべき本質」とは
元・日本サッカー協会ナショナルチームダイレクターの霜田正浩氏と現・日本サッカー協会フットサルテクニカルダイレクターの小西鉄平氏に登場頂いた、COACH UNITED ACADEMYスペシャル対談。前編に続き、後編でも育成や指導についての熱い話が展開された。ここでは、多岐に渡るトピックスの一部を紹介したい。(文・鈴木智之)
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■子どもには時間と未来がある
対談後編のテーマは「育成年代で求められる指導の本質について」。まずは、指導対象としての大人と子どもの違いについて、対話がスタートした。小西氏は日本サッカー協会フットサルテクニカルダイレクターを務める前は、小学生、中学生年代の子どもたちを指導していた。その経験から「大人と子どもの違いを考えると、子どもの場合は、目の前の試合に勝つことが最大の目的ではありません。そこに対する、意識の持って行き方は気をつけていました」と振り返る。
育成年代の指導を語る上で、テーマに上げられるのが「勝利と育成をどう両立させるか」という問題だ。霜田氏は「試合に勝つことと、子ども達が上達すること。そのバランスの違いが、大人と子どもを指導する上での違いになる」と語り、こう続ける。
「大人の場合、試合に勝つことですべてが報われます。勝つことを前提にスタメンを決め、サブの選手がレギュラーを脅かすことで競争が生まれます。指導者としても、目の前の試合に勝つことが一番の目標になります。一方で子どもを指導する場合は、極端な言い方をすると、明日の試合に勝てなくても、1年後に勝てるようになればいいわけですよね。子どもには、時間と未来があります。それを意識しながら、我慢強く指導をすることが大切で、全国大会出場をかけた決勝戦までの時間が、指導のリミットではありません。指導者が時間の概念に目を向けると、育成によりフォーカスできるのではないかと思います」
小西氏はそれを踏まえた上で、「子どもたち自身の勝ちたい気持ちであったり、勝利を目指すことは否定しません。しかし、指導者も子どもと同じように、勝利だけを目指す姿を見ると、どうなのだろうと思うこともあります。フットサルの選手交替は自由なのですが、上手い子5人を固定して試合に出し続けているのを見ると、多くの選手に試合を経験させてほしいなと思います」と、ダイレクターとしての見解を語る。
小西氏がジュニア、ジュニアユース年代を指導していた頃は、選手達の出場時間が同じになるように調整していたという。それは「少年時代は、試合を経験した分だけ成長する。試合を経験しなければ、成長の速度は遅くなる」(小西氏)という考えからだ。
■すべての指導はコミュニケーション
霜田氏は京都サンガのジュニアユースとユースを指導していた際、『Jアカデミーの目的は、トップチームに選手を昇格させること』という考えのもと、チームに競争原理を持ち込むと同時に、『すべての指導はコミュニケーション』という理念で、「試合に出られない選手ほど、対話の時間をとっていた」と話す。「私が育成年代の指導をしていたときに心がけていたのは、試合に出ていない子と徹底的に話し合うことでした。なぜいまレギュラーで使えないのか、試合に出られないのか。何ができるようになれば、試合に出られるのか。それは、保護者から『なぜうちの子は試合に出られないのですか?』と聞かれる前に、自分から説明しに行っていました」
対話の中で「これができたら試合に出られる」と明確に伝え、練習ではレギュラーとサブをわけず、紅白戦もミックスで行っていたという。
「レギュラーの選手より、試合に出られない選手と話す時間のほうが長かったと思います。Jクラブのアカデミーなので、保護者や選手も"競争ありき"とわかっています。そのため、試合に出られない理由を伝えてあげれば問題にはなりませんし、3年間で辞めた選手もいませんでした」
「指導とはコミュニケーション」と語る、霜田氏らしいエピソードである。COACH UNITED ACADEMY動画では、ここで紹介したテーマ以外にも、トレーニングをする際に心がけていることや、霜田氏がジェフユナイテッド千葉時代にオシム氏から得たアイデアやグラスルーツのチームにおけるコーチングスタッフとのコミュニケーション、チームづくりなどにも言及している。ジュニアを指導する『お父さんコーチ』の参考になる考えも多く紹介されているので、ぜひご覧頂ければと思う。
<プロフィール>
霜田 正浩/
東京都出身。都立高島高卒業後、三浦知良(横浜FC)らと共にブラジルへサッカー留学。その後、フジタ工業(現・湘南ベルマーレ)や横河電機などでプレー。引退後は京都サンガのアカデミー、FC東京、ジェフ千葉でヘッドコーチを務める。2004年、JFA公認指導者S級ライセンス取得。2010年に日本サッカー協会の技術委員に就任し、14年9月~16年12月まで技術委員長やナショナルチームダイレクターを歴任。ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチと交渉し、日本代表監督として招聘した。
小西 鉄平/
神奈川県出身。県立旭高校卒業後、横浜スポーツ&カルチャークラブ(Y.S.C.C.)でプレー。指導者としてボンフィンフットボールスクールコーチ、FリーグU-23選抜監督、ミャンマー女子フットサル代表監督などを歴任し、現在はボンフィンフットボールスクール・ゼネラルマネージャーを務める。また日本サッカー協会(JFA)のフットサルテクニカルダイレクターとして、代表チームの強化や指導者養成にも携わっている。JFA公認A級コーチジェネラルライセンスおよびJFA公認フットサルB級コーチライセンス保持。
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取材・文 鈴木智之