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他の人と違う指導法も10年後には正しいかもしれない/FC東京トップチーム監督「安間貴義」の育成論

多くの指導者の哲学、トレーニングを紹介しているCOACH UNITED ACADEMY。今回は2017年にJ1のFC東京を監督として率いた、安間貴義氏に出演して頂いた。安間氏はヴァンフォーレ甲府、カターレ富山で監督を務めた後、FC東京のコーチを経て、2017年のシーズン途中に監督に就任した。JFLのHondaFCで指導者としてスタートし、J1、J2での監督経験を持ち、2016シーズンにはFC東京U-23の監督としてJ3も経験。様々なカテゴリーでの経験がある安間氏は、選手の育成についてどのような考えを持っているのだろうか。Jクラブの監督が語る、貴重な提言を紹介したい。(文:鈴木智之)

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皆が同じ指導をしなくても良い

安間氏は育成年代の指導について「指導者、選手によって様々なアプローチがあり、皆が同じ指導をしなくても良いのではないでしょうか」と語る。その理由を尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「いま、他の人と違う指導をしていても、10年後にはそれが正しいこともあるからです。ひとつ例をあげると、私がヴァンフォーレ甲府の監督をしていたときに、グランドを縦に5分割して、トレーニングをしていました。当時はその練習を"馬鹿げている"と言われたこともあったのですが、いまは"5レーン理論"といって、ヨーロッパの方から紹介されています。いまでは指導のトレンドとして、多くの人が知るところです」

安間氏は自身の経験から「選手が伸びるために必要だと思ったならば、自信を持ってそのトレーニングを続けてください」と指導者の背中を押す。

「変化を恐れずにチャレンジしてください。指導者の歩みの幅によって、選手の歩みも変わってくると思います。そうすることで選手も指導者も成長し、結果として日本サッカーのためになると思っています」

指導者の心構えはこの他にもCOACH UNITED ACADEMY動画で話してくれているので、ぜひ映像で確認してほしい。

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選手に「考える条件」を与える

さらに話題は育成年代について「選手に考えさせる指導をするためには、どうすれば良いか?」というテーマへと移っていく。

育成年代の指導者で選手に対して「考えろ」という声掛けをしている人を見かけるが、選手からすると、何をどう考えれば良いかがわからない場合が多い。そこで、指導者がどうすれば、選手自身が考えてプレーするようになるかについて、安間監督は持論を展開する。

「選手自身が考えてプレーするようになるためには、まず指導者が選手に対して、考えるための材料を与えることが大切だと思います。そうしないと、なにをどう考えればいいのか、選手はわからなくなってしまいますから。そこで重要になるのは"観ること"だと思います」

さらに、こう続ける。

「例えば、パスミスをしたい選手はいませんよね? それにも関わらず、パスをミスしてしまった。原因はなんでしょうか。ミスを恐れて慎重になりすぎた結果、相手チームの選手を観すぎて、相手の動きに同調してしまったゆえのミスかもしれません。パスを受ける方も、出し手の選手のボールの持ち方を観る。それによって『この状況では、相手チームの選手との距離をとらなければいけないな』と考えるようになります。お互いに観ることを増やしていけば、ミスの少ないチームになっていきます」

観る=認知と言い換えることができる。いつ、なにを、どの順番で観ればいいのか。安間監督はそれを「考える条件を与える」と説くが、指導者が選手に提示してあげることで、考えが整理され、適切なプレーにつながっていく。

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選手は積極的に行動したとき、大きな変化を遂げる

「パスミスを例にとっても、ボールを持っている選手個人のミスなのか、それとも周りの選手のミスなのか、大きく分けると2つあります。指導者はそこをしっかり見てあげること。ミスに対して、何をどのように注意するかで、選手から信頼を得ることができるかどうかが変わります」

ミスをただ指摘するのが指導者の仕事ではない。ミスにも種類があり、チャレンジした結果のミスもあれば、考えもなくプレーをし、ミスをしてしまうこともある。

「選手がミスをしたときに怒る指導者がいますが、指導者の要求に対して積極的なミスかどうかを判断することが大切です。選手が意識的にトライした上でのミスであれば問題はありません。これは私の経験から感じたことなのですが、選手は積極的に行動したときに、大きな変化を遂げます。褒められて伸びる選手、見守ってあげなければいけない選手、色々といると思いますが、選手一人ひとりを観ておき、悩んでいるときにかける一声や、次のステップへ上がろうとしている選手へより良い声かけをすることで、その選手にとって大切なものになります。言い換えれば、そこで指導者として何を言うかが勝負になるのだと思います」

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ほかにもCOACH UNITED ACADEMY動画では、自身の指導を振り返り、監督就任1年目で選手をシステマチックに動かして優勝したが、選手の「やらされてる」表情を見たときに『これではダメだ』と思い、翌年からはある程度裁量を与えた結果、選手が大きく成長したことなど、実名をあげて話してくれた。Jクラブでの経験を持つ安間氏ならではのエピソードを知りたい方は、ぜひ動画で確認してほしい。

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【講師】安間貴義/
1969年、静岡県出身。現役時代は本田技研でプレーし、2002年よりHonda FCの監督に。その後、ヴァンフォーレ甲府のコーチ、監督を歴任し、2010年よりカターレ富山コーチを経て監督に就任。2014年まで監督を務めた後、2015年にFC東京のコーチに就任すると、翌年はFC東京U-23監督も兼務し、2017年9月からトップチームの監督として指揮を執った。