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選手の「尖っているところを残す」ことが指導者の役目/FC東京トップチーム監督「安間貴義」の育成論

COACH UNITED ACADEMYでは、今季途中からFC東京の監督に就任し、最終節まで指揮を執った安間貴義氏に出演してもらった。安間氏はJFLのHonda FCで指導キャリアをスタートさせ、当時J2だったヴァンフォーレ甲府、カターレ富山、J3のFC東京U-23で監督を務めた後、コーチから昇格する形でFC東京の監督に就任した。様々なカテゴリーの選手と接してきた安間氏は、選手育成についてどのような考えを持っているのだろうか。(文:鈴木智之)

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選手に指導者のプレーを押し付けてはいけない

安間氏は選手に対して「興味を持ちながら放っておく」というスタンスを大事にしている。それは選手に細かく指導をし、指導者のプレーを押し付けてしまうと「選手が本来持っている、尖っているものがなくなる」という考えに由来している。安間氏は言う。

「何が大事かと言えば、普段から選手をしっかりと観ておくこと。選手がどうなりたいかをしっかりと聞いてあげること。そこに対してどうアプローチすれば良いか、指導者が具体的に言うこと。そして何よりも、選手を信じてあげることだと思います」

安間氏がJFLの監督を務めていたとき、古橋達弥(現:Honda FC)という選手がいた。元々はサイドバック、ボランチとしてプレーしていた選手だった。

「サイドバックやボランチでプレーしていたのですが、彼のプレーを見るとシュート力がありました。そこで古橋に『どうなりたいんだ?』と聞いたら『Jリーグに行きたい』と。そこで、『JFLからJリーグに行くには、目に見える数字で結果を残すしかないな』という話をしました」

安間氏は古橋選手の持ち味であるシュート力を生かすため、フォワードにコンバートすることにした。とはいえ古橋選手はスピードがあるタイプではなく、身長は173cmとそれほど大きくはない。そこで、シュートの種類を増やすこと、どこのスペースに入ればシュートが打てるかということに取り組んだ。その結果、2000年から2003年までJFLでベストイレブンに選ばれ、2003年には29試合で31得点をあげて得点王に輝くとともに、シーズン途中にJ1のセレッソ大阪へ移籍するという"2ランクアップ"を果たした。

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尖っているところを残すことが指導者の役目

JFLからJ1までのクラブで監督経験のある安間氏は「選手には様々なタイプがいる」と言う。

「JFLの選手の中にも、古橋のように野心を持っている選手もいますし、ひとつ上のJ2になると、"ここで活躍してJ1に行くぞ!"という選手もいれば、"J1では通用しなかった。J2でないとプレーできないんだ"と落ち込んでいる選手もいます。異なるモチベーションを持つ選手にアプローチして、チームとして同じ方向を向かせなければいけない。そこが指導者としての腕の見せ所ですし、おもしろい部分でもあります」

グラスルーツに目を向けると、多くの子供たちがプロになりたいという夢を持ち、サッカーに取り組んでいる。J1という日本のトップカテゴリーを筆頭に、多くの選手を見てきた安間氏は、育成年代で必要なことについて「まずは、しっかりとしたテクニックを身につけること。具体的には、ボールを止めて、蹴ることです。そして、サッカーの原理原則を身につけた選手を育成することが大切です」と語り、こう付け加える。

「ただし、そこに注力しすぎて選手が持つ輝きや、尖っている部分を失わないようにしなければいけません。なぜかというと、選手が本来やりたいプレーを抑えてしまっては、魅力は半減してしまうからです。選手が積極的に取り組むことで、成長につながります。テクニックと原理原則を身につけて、尖っているところを残し、選手が積極的な姿勢でグランドに立てるようにすることが、指導者の役目だと思います」

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「良い指導者」の定義とは?

最後に、安間氏が思う「良い指導者」について考えを教えてくれた。

「良い指導者とは、選手に良い刺激を与えられる人です。そのために大切なのは、選手を観続けること。選手はひとつの変化で、僕ら指導者に色々な答えを突きつけてきます。選手達の表情を観て、これもできるのではないか、あれもできるのではないか? と日々問いかけ、しっかりと観てアプローチしてあげることで、選手達も変わっていくのだと思います」

COACH UNITED ACADEMYでは、安間氏のインタビューを動画で公開中。J1での監督経験を持つ指導者の考えを知ることのできる貴重な機会なので、ぜひご覧頂ければと思う。

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【講師】安間貴義/
1969年、静岡県出身。現役時代は本田技研でプレーし、2002年よりHonda FCの監督に。その後、ヴァンフォーレ甲府のコーチ、監督を歴任し、2010年よりカターレ富山コーチを経て監督に就任。2014年まで監督を務めた後、2015年にFC東京のコーチに就任すると、翌年はFC東京U-23監督も兼務し、2017年9月からトップチームの監督として指揮を執った。