TOP > コラム > 「俺が選手の頃はこうだった」で壊されるタレントたち。客観的なレファレンスを用いた指導の重要性

「俺が選手の頃はこうだった」で壊されるタレントたち。客観的なレファレンスを用いた指導の重要性

サッカーのピリオダイゼーション、フットボールブレイニング(サッカー心理学)など、サッカーの観点から、サッカーの言葉を用いて、フィジカルやコンディショニングの向上について、世界中の指導者に向けたセミナーを開催しているレイモンド・フェルハイエン氏。前回の記事では、指導の際に客観的な言葉を使うことの重要性について、レイモンド氏の考えを紹介した。今回は指導現場で『レファレンス(参考にすべき事実)』を用い、どのように選手やスタッフと話をするかについて、セミナーから一部をお届けしたい。(取材・文:鈴木智之)

<<前回の記事を読む

180126.jpg Photo by bil_kleb

30年前の体験にどのような意味があるか?

若手選手の育成に対して、世界中の指導者が頭を悩ませ、多くの議論が行われている。たとえば、18歳の選手がトップチームに昇格したとき。レイモンド氏によると「多くの指導者は、自分の30年前の経験と照らし合わせて、トップの選手に追いつくために、たくさん練習をさせたほうが良いと言う」と語り、こう続ける。

「しかし、それは時代遅れの考え方です。そこにレファレンスはなく、実体験という主観に過ぎません。複数のコーチが主観を用いて話をすると、議論がまとまらず、答えや解決方法を見出すことができません。そして会議の参加者にフラストレーションが溜まります」

では、どうすればよいか。レイモンド氏の主張は一貫している。

「議論の際にレファレンスを使えばいいのです。私はこう考える、信じるという言葉を使うのではなく、この状況から一歩引いて、ひとつのレファレンスを作ること。間違っても、私が選手の頃はこうだったといった、主観的な話をしてはいけません。30年前の体験に、どのような意味があるのでしょうか? あなたがそうしたから、現代の選手もそうしなければいけないのでしょうか? そうではありませんよね」

レイモンド氏はそう言うと、客観的な事実であるレファレンスを例にあげて、話を展開していく。

IMG_5087.jpg

「ランニングマシーンを時速10kmで走ると、30分後に疲労が溜まります。時速15kmで走ると、20分後に疲労が溜まります。つまり、強度が上がると力を発揮できる時間は短くなります。これは客観的なレファレンスです。私は事実を述べています。2+2=4と言っているのと同じです」

この主張に疑問を挟む余地はない。なぜなら、事実を列挙しているだけだからだ。

「そこから段階的に量を増やしていくことで、徐々に長い距離を走れるようになります。1週目は時速15kmで20分走る、2週目は時速15kmで21分走る。そうすると、11週目には時速15kmで30分走れる状態になります。徐々に強度を上げて体を適応させながら、力を発揮できる時間を伸ばしていくのです」

レイモンド氏はランニングマシーンを例にあげると同時に、これをサッカーにどう置き換えればいいかについて説明する。

「これを育成年代の選手のトレーニングに当てはめると、たとえばU-19は時速10kmでプレーしていましたが、トップチームの強度は時速15kmとします。U-19は週に4回、トップチームは週5回の練習がある場合、トップチームに上がった最初の1ヶ月は他の選手と同じではなく、練習を週3回に減らします。そして、翌月は週に3.5回、3ヶ月後は週に4回。そして5ヶ月後に週5回にするのです。そうすることで、U-19の選手の体を壊すこと無く、トップチームの強度に適応することができます。これは正しいレファレンスを用いているので、疑問を挟む余地はないでしょう」

レファレンスに基づいた議論の結果、「ユースから上がってきた選手は、最初はトップチームの選手よりも練習量を減らしたほうが良い。なぜなら、練習強度がユースよりも高いから」という結論を導き出すことができるわけだ。

26172772.jpg

客観的なレファレンスの積み上げが重要

「トップチームに昇格したばかりの選手は、周りの選手に追いつくために強度の高い練習をする必要がありますが、それは決して周りの選手以上にハードなトレーニングをすることではありません。その選手がそれまでやってきたトレーニングよりも、段階を経て負荷を上げていくことが重要なのです。その考え方を誤ると、タレントを壊すことになり、それは世界中で起きていることでもあります」

レイモンド氏はセミナーを通じて、様々な角度から考え方を提示し、選手を成長へ導くための手法を説明していく。それはすべて「客観的なレファレンス」を用いているため、参加者は疑問を挟む余地がなく、納得して話を受け入れていく。それはつまり、指導者と選手との理想的な対話の関係性でもある。

最後にレイモンド氏は参加者に向けて、次のようなメッセージを送った。

「私が伝えたいことは、指導者として客観的なレファレンスを積み上げていってほしいということ。そうすることで選手は納得し、疑問を抱くことなく指導者についてきます。それは軍隊のように、指導者の言うことを盲目的に聞くということではありません。客観的なレファレンスを用いることで、選手はその指導者の言うことを正しい、事実だと判断するのです」

7時間に渡るセミナーでは、アヤックスが2016-2017シーズンのヨーロッパリーグ(EL)でファイナルに進んだことを受け、同クラブがどのようにしてリーグ戦とELを両立させ、選手のコンディションをキープしていったかを、レイモンド氏がピリオダイゼーションの観点から解説。コンディショニングに必要な4つのポイント(コミュニケーション、状況判断、判断の実行、フィットネス)をベースに、リカバリートレーニング、高負荷(オーバーロード)をどのように使い分け、トレーニングスケジュールを立てていったかを細かく説明していった。

さらには特別ゲストとして、昨シーズンの天皇杯で過密スケジュールの中、ベガルタ仙台、アビスパ福岡に勝ち、ベスト16に進出した筑波大学蹴球部監督の小井土正亮氏、鹿島アントラーズ監督の大岩剛氏による、ピリオダイゼーションの実践についての報告があった。参加者は世界と日本のトップレベルの知見を目の当たりにし、多くの刺激を受けていたようだった。

<<前回の記事を読む

レイモンド・フェルハイエン(Raymond Verheijen)
1999年にオランダ代表スタッフに抜擢されて以来、ヒディンクや、ライカールト、アドフォカート、ファン・ハールなどの名監督とともに、オランダ代表、韓国代表、ロシア代表、FCバルセロナなど世界各国さまざまなチームでサッカーのピリオダイゼーションを実践してきた。サッカーに特化したピリオダイゼーションの分野における先駆者である。
取材協力:ワールドフットボールアカデミー・ジャパン