01.29.2018
有効な縦パスを引き出す個人戦術とテクニック/市立船橋高校の縦パスから早い攻撃に繋げるトレーニング
2017年度は杉山弾斗(ジェフユナイテッド千葉)、2016年度は原輝綺(アルビレックス新潟)、杉岡大暉(湘南ベルマーレ)、高宇洋(ガンバ大阪)と、毎年のようにJリーガーを輩出する市立船橋高校。高校サッカー選手権で優勝5回を誇る高体連屈指の強豪は、どのようなトレーニングをしているのか?
COACH UNITED ACADEMYでは、滅多に見ることのできない市立船橋高校のトレーニングをお届けする。チームを指揮するのは、2008年からコーチを務め、2011年より監督として名門を率いる朝岡隆蔵氏。朝岡監督が就任以降、戦術的なポゼッションで相手を圧倒するスタイルに変貌した市立船橋だったが、新チームになり新たな攻撃のオプション作りにも取り組んでいる。
それが、相手の状況に合わせて縦に早いボールを入れていくトレーニングだ。テクニックとスピードが融合した新たな『市船スタイル』は、どのようなトレーニングによって作り上げられていくのか。その一端を紹介したい。(文:鈴木智之)
この記事の動画はオンラインセミナーで配信中!詳しくはこちら>>
縦パスを引き出す個人戦術とテクニック
朝岡監督は高校年代を指導するにあたり「ユース年代になるとチーム戦術や対戦相手に向けたゲーム戦術も入ってきますが、忘れてはならないのが個人戦術であり、一人ひとりの個性やキャラクターを重視した指導です」と語り、実際にトレーニングでは個人戦術とテクニック、そしてチームの一員としてどう動き、どのように味方と関わりながらプレーしていくかにフォーカスして行われていった。トレーニング前半のテーマは個人戦術を中心に、縦パス、パススピード、タイミング、ターンのスキルなどが設定され、対面パスや3対1のパス&コントロールを実施。最初のメニューではパスの出し手はフリーでパスを出し、受け手は守備の選手にマンマークを受ける状態から、相手を外してパスを受け、反対側へいる味方へパスをつなぐ形を繰り返した。
朝岡監督は「守備側の選手は、試合中は相手に寄るし、インターセプトも狙うけど、ここではまず立つことに意識を向けよう。攻撃側は守備側の選手に、パスコースに立たれないようなタイミング、ポジション、コントロールに意識を向けて、ボールを触る位置を工夫しよう」とアドバイスを送っていく。
ここでの攻撃側のポイントは、マンツーマンでついてくる守備側の選手をどこでどう外すか。パスを受ける位置、ボールを呼び込む角度、ファースタッチのコントロールなど、様々なアイデアを駆使して相手を外してボールを受け、パスをつないでいく。
ここで朝岡監督は、攻撃側の選手が状況を適切に判断することに言及。「守備側の選手に、前に立たれたか立たれていないかは、自分でジャッジしよう。相手と駆け引きをして、ボールを受ける場所を変えたり、受けるタイミングに変化をつけること。その精度が大切。ファーストタッチでボールをコントロールし、ツータッチ目で縦パスを入れるイメージで、20、30メートルのパスをしっかり入れよう」と声をかけていく。
味方が時間を作っている間に何をするか?
続いては、最初にパスを出す選手が守備側の位置を見て、手前にいる味方にパスを出すのか、それとも1つ飛ばして奥にいるフリーの選手にパスを出すかを判断する要素が加えられた。攻撃側には選択肢が増え、守備側はマンツーマンで相手を見つつ、縦パスを入れさせないためのポジショニングが重要になる。技術と判断の両方が求められるトレーニングだ。さらに、パスの受け手となる中央にいる選手は、ワンタッチで奥の選手に出せそうであれば、フリック気味に縦パスを入れるというルールを加えていく。朝岡監督は「そのアイデアを持ちながら、ワンタッチで出すのが無理であれば、ボールをコントロールしよう」とアドバイス。次々に設定が変わり、短い時間で集中力が求められる状況が続く。
次の練習は7対6。守備側は2CB、2MF、2FWで2-2-2の布陣を作り、攻撃側は3CB、2MF、2シャドーの3-2-2でスタンバイ。攻撃側の3CBがボールを保持したところからスタートし、ボールサーバ(図:白の選手)に当ててリターンパスを受け、設定されたラインを突破すれば1点。守備側は奪ったボールを保持し、パスを5本繋げば1点というルールで開始された。
グリッドの大きさなどはCOACH UNITED ACADEMY動画を参照頂ければと思うが、攻撃側は、サーバにどのタイミングで縦パスを入れるか。また、サーバはどのタイミングで中盤に降りてきてパスを受けるか。その駆け引きやコンビネーションが鍛えられるトレーニングで、ウォーミングアップから一貫してテーマに沿ってオーガナイズされていることがわかる。
朝岡監督は攻撃側の選手に対して、パスがうまく回らないと見るや、「(攻撃側の)3人のセンターバックがパスを回して時間を作っている間に、どこにボールが入ったらどう動くかというイメージを作ろう。それが、遅攻のときにすべきこと。周りとコミュニケーションをとって、イメージを共有させよう」とアドバイスを送っていく。
守備側の2FW、2MFに対しては、背後のスペースを守りながら、相手にパスを出させるように誘導して、ボールが出てきたところに強く潰しに行く意識を徹底。攻撃だけでなく、守備の駆け引きに言及しているところも見どころのひとつだ。
映像をご覧いただければわかるのだが、朝岡監督のトレーニングは設定したテーマに対して、段階を踏んで個人からグループ、チームへとステップアップするように組み立てられている。このあたりのオーガナイズ、声掛けの内容は大いに参考になるだろう。
この記事の動画はオンラインセミナーで配信中!詳しくはこちら>>
【講師】朝岡隆蔵/
市立船橋高校時代に選手権優勝を経験し、卒業後は日大に進学。指導者として敬愛学園、市原八幡高校を経て、2008年に母校のコーチに就任。2011年より監督として市立船橋高を率い、就任1年目に高校選手権で全国優勝を達成。2013、16年度ではインターハイでも日本一に輝いた。
取材・文 鈴木智之