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縦パスを入れるタイミングと各ポジションの駆け引き/市立船橋高校の縦パスから早い攻撃に繋げるトレーニング

COACH UNITED ACADEMYでは、高校年代有数の強豪・市立船橋高校のトレーニング公開中。毎年のようにJリーガーを輩出し、高校サッカー選手権で5回の優勝を誇る名門はどのようなトレーニングをしているのか? 前編では、新たな攻撃オプションとして新チームで取り組む「縦に早い攻撃」についてトレーニングを紹介してきた。

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相手がプレスに来ているときこそチャンス

8対8のシステムは守備側が2-4-2で2CB、4MF、2FW。攻撃側は3-2-2-1で3DF、2ボランチ、2シャドー、1FWの形で行われた。グリッドの大きさなどの詳細は動画でご確認頂ければと思うが、グリッド内に白マーカーでボックスを作ってプレッシャーを強めるエリアとし、オフサイドラインもマーカーで設定する。

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開始前に朝岡監督は「(前編で紹介した7対6のトレーニング)1つ前の練習よりピッチに幅ができたので、パスを受けられるスペースはたくさんある」と話し、サイドを使ってどのように相手ゴール前に進入するか、選手たちのプレーを観察していく。

ここでもパスの優先順位は、ボールを縦に入れること。そのためにディフェンスラインの裏へ抜ける選手、中盤に降りてくる選手など、複数の動きを同時に行う重要性をコーチングしていった。ほかにも、最終ラインからのビルドアップに対して、プレスをかける相手FWを封じるため、ボール保持側チームのボランチがどこの位置に立てば良いかを問いかけていく。

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攻撃側の目的は、相手のプレスをかいくぐって中盤から前線へパスをつなぎ、フィニッシュに持ち込むこと。朝岡監督は「ボールの移動と逆の動きをして、スペースを作ってパスを受けること」「守備側の動きを想像して、逆のポジションをとること」に言及。守備側が前にパワーを掛けてプレスに来たときに横パス、バックパスをすると、相手のエネルギーを受けることになってしまう。

一方で、その状況下で前方にパスを通すことができれば、相手の裏を突き、エネルギーを逆手に使うことができる。そのため、攻撃側には「縦パスのチャンスを狙おう。相手がパワーを持ってプレスに来ているときこそ、前で受ける選手のポジショニングが大事」と話し、攻撃の選手が縦パスを受けてターンをし、シュートまで行くと「ナイス!」と褒めていた。

トレーニング中に注意したのは、ボールを受けたときに足元に止める選手に対してだった。「相手のプレッシャーを受けている時は、ボールを動かして、相手を動かす。そして逆をとる。チームとしても、個人としても動きながらプレーする。ボールを動かさないと相手も動かない」と話し、素早い判断、正確な技術の重要性を説いていく。

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プレッシャーがある中どうやって縦パスを入れるか

続いては11対11。グラウンドの横幅を55mほどに設定し、大外のレーンを使えないように制限をつける。攻撃の幅をとることができないため、グラウンドの中央部に選手が密集し、スペースも時間も少なくなる。

そこで朝岡監督は「プレッシャーがきつく、縦パスを入れにくい状況になった。その中で縦パスを入れるためにはどうすればいい?」と問いかけるが、選手は答えることができない。そこで朝岡監督は「今日の練習は何をしてきた?」と指摘し、選手たちに厳しい言葉をかける。

動画をご覧の指導者の方は、心当たりのある光景ではないだろうか。指導者が練習の狙いを尋ねても、選手達は答えることができない。選手達はただ練習をやらされているだけになっており、なんのための練習なのかを考えていないのだ。

朝岡監督は「この設定だとどういう現象が起きる? 何をしなければいけない?」と問いかけ「答えを持ってプレーしないとうまくならない。意図、理由を知らずにやっても、何を向上させたらいいかわからないぞ」と語気を強める。

ちなみに、この問いの答えはトレーニングの最初からテーマとして設定されていた「相手との駆け引き、タイミング、パススピード、ボールを受けた後の素早いターン、狭いエリアで勇気を持って受けること」などである。

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各ポジションの選手が自分の役割を明確にする

さらに、朝岡監督の話は戦術的に進んでいく。市立船橋のシステムはウィングバックを置いた3-4-2-1。しかし、グラウンドの横幅を短く設定しているため、ウィングバックが攻撃時に幅を作りずらい。通常のグラウンドサイズであれば、タッチライン際に広がってポジションをとれば、比較的容易にパスを受けることができるのだが、この設定だとそうもいかない。

朝岡監督は選手達に「ウィングバックはどうすればいい?」と問いかける。答えは、相手の裏のスペースを突くこと。つまり、突破にかかることである。指揮官は「状況を見て、どう解決するか。そこを考えることが、プレーの向上につながる。相手を見て、次の変化を想像しよう」とアドバイスをし、選手たちの意識が縦の攻撃に向いたところで、横幅の制限を外してフルコートで11対11を実施していく。

ここでは、ウィングバックが縦パスを入れられないと見るや「ウィングバックはバックパス禁止」というルールを設定し、狙うべき形が出やすいように微調整していった。

朝岡監督は選手達がプレーの狙いや意図を理解し、選手間でイメージを共有するための考え方、必要なプレーなどを、トレーニングを通じて提示していく。その手腕をぜひ動画でご覧頂ければと思う。きっと、多くの発見があるはずだ。

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【講師】朝岡隆蔵/
市立船橋高校時代に選手権優勝を経験し、卒業後は日大に進学。指導者として敬愛学園、市原八幡高校を経て、2008年に母校のコーチに就任。2011年より監督として市立船橋高を率い、就任1年目に高校選手権で全国優勝を達成。2013、16年度ではインターハイでも日本一に輝いた。