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サッカー指導者は子どもの体力低下にどう向き合う?/フットワークの向上とケガを予防するライントレーニング

COACH UNITED ACADEMY、今回の講師は『ライントレーニング』という身体操作やコオーディネーションを向上させるトレーニングを開発し、指導を行うアスレティックトレーナーの佐藤哲史氏。近年問題になっている「子どもたちの体力の低下」を解決するため、コオーディネーションや身体操作トレーニングをするときのポイントを教えてもらった。(文:鈴木智之)

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子どもの体力低下やケガの増加は「現代病」

文部科学省が発表するデータによると、子どもの体力の低下、ケガの発生件数は、増加の一途をたどっているという。佐藤氏が説明する。

「1970年代と2010年を比べると、ケガの件数が右肩上がりで増えています。なかでも、中学生のケガが極端に増えているんです。小学生のときに体を動かして遊んだ経験の乏しい子が、中学に上がって身体が大きくなり、高い運動スキルを求められるようになった結果、ケガをしてしまう事態が起きています」

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子ども達の体力低下、ケガの要因は様々だが、スポーツ以外の勉強を始めとする習い事に関わる時間が多くなったこと。ゲームなど室内で行う娯楽の増加、公園など遊ぶ場所の減少、車や電車など交通網が発達し、歩く時間が短くなったなど、複数の要因が挙げられる。子どもの体力低下やケガの増加は「現代病」と言えるもので、改善のために意識的に取り組む必要があると言える。

佐藤氏が開発したライントレーニングは、一本の線さえあれば、器具なしでどこでも手軽に行える。運動能力の低下や運動経験の少なさから来るケガを予防することのできるもので、コンセプトは2つある。1つが『身体と脳に汗をかく、フットワーク系コオーディネーショントレーニング』。もう1つが『1本または2本のラインを最大限活用した、身体操作トレーニング(フットワークスキルの獲得)』だ。

「私はアスレティックトレーナーとして、ケガをした選手の競技復帰をサポートしています。スポーツ医科学を基盤にケガの再発予防の視点で考えられたのが、ライントレーニングです。もちろんケガ予防だけでなく、パフォーマンス向上の前提となる運動感覚を磨くことができるので、多様な身体活動が身につきやすい、小学生時代から始めることを勧めています」

現在、ライントレーニングは、藤枝なでしこシャインプロジェクトや、同志社大学サッカー部をはじめバスケットボールなど様々なカテゴリ、競技で採用され注目が集まっている。

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運動パフォーマンスの前提を理解しておくべき

サッカーだけでなく、スポーツを動きの観点から解説すると『連続した動作を素早く、正確に行うこと』が重要になる。身体を動かすためのベースとなる考え方について、佐藤氏は「動きのライブラリー(図書館)」と表現する。

「人間が目的をもって体を動かす時は、体の中にある動きのライブラリーから、動きの本を取り出すことをイメージするとわかりやすいです。動きの本が棚にいっぱい入っている人は、多様な動きをすることができます。反対に、本棚に本が少ない人は、少ない中から求められた動きをしなければいけないので、ぎこちなくなってしまったり、無理な動きをしてケガにつながってしまいます」

ライントレーニングは多様な動きを通じて、動きのレパートリーを身体の中に蓄積していくもので、サッカーの場合はボールや相手に対して、自分の身体を正確に、速く動かすことができれば、良いプレーができるようになる。

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「サッカーは様々な方向に色々なタイミングでフットワークを行うスポーツです。ドリブルやシュート、パスなどのスキルを向上させるためには、間接的には『パフォーマンス前提』として刺激を入れる必要があります」

つまり、ドリブルを向上させるためにボールを使ってドリブルの練習をするのではなく、その前段階であるフットワークのトレーニングをしておくことで、身につけたい動きがスムーズに入ってくるという考え方だ。

「ドリブルで相手をかわしてシュートに持ち込めない選手は、筋持久力が足りないからではないか。ボレーシュートがうまくできない選手は、股関節の可動性が乏しいからではないか。運動パフォーマンスの前提を知っていると、選手にかける声かけや指導の内容も変わってくると思います」

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COACH UNITED ACADEMY動画では、『パフォーマンス前提』の詳細に触れているほか、「動きの正解を求めずに、様々なバリエーションの動きができるようになることが大切」「想定外の動きを繰り返して、想定内にする」など、身体操作、コオーディネーションについて、様々な見地から興味深い解説が行われている。とくにジュニア年代の指導者にとって有意義な情報が詰まっているので、ぜひ動画で全容をご確認頂ければと思う。

また、後編では佐藤氏による具体的なトレーニングメニューも紹介する。

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【講師】佐藤哲史/
第26回全国高校女子サッカー選手権で準優勝した大商学園女子サッカー部、同志社大学サッカー部のアスレティックトレーナーを務める。病院ではケガをしたアスリートのリハビリを担当。個人の特徴を見ながら、それぞれに合ったトレーニングや社会復帰をサポートしている 。IT を使ってスポーツ現場の変革を目指す、SportsMultiplyの代表でもある。