07.09.2018
選手の思考やプレーを変えたければ「○○の質」を高めよ!/サッカーコーチを指導する倉本和昌のコーチング理論
COACH UNITED ACADEMY、今回の講師は"サッカーコーチ専門コーチ"の倉本和昌氏。サッカーコーチ専門コーチとは、文字通り「サッカーコーチを指導するコーチ」のことで、倉本氏は長くスペインで指導者として活動し、スペインの上級指導ライセンスを取得後、湘南ベルマーレ南足柄、大宮アルディージャで育成コーチを務め、2018年からサッカーコーチ専門コーチとしてキャリアをスタートさせている。今回は「選手がミスを恐れず、チャレンジするようになるサッカーのコーチング術」をテーマにしたセミナーの様子を、2回に渡って紹介したい。(文:鈴木智之)
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勝つチームを作るには「4つの質」を順番に高める
前編のテーマは「ミスが許されない状況はなぜ発生するのか? 選手タイプ・状況に応じた適切な声掛け」と題し、指導者と選手の関係性をどのように構築していけば、選手のパフォーマンスを向上させることができるのかについて。
指導者なら誰でも「試合に勝ちたい」「選手をもっと成長させたい」と思っていることだろう。
倉本氏によると「勝つチームを作るためには、4つの質を順番に高めていくことが大切」だという。
「マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授がチームや会社など、うまくいっている組織を調べると、次のサイクルが回っていることがわかりました」
【1】関係の質
↓
【2】思考の質
↓
【3】行動の質
↓
【4】結果の質
ビジネスマンのマネジメント研修などでもよく出てくる「組織の成功循環モデル」である。
「指導者は誰しも、結果を出したいと思っています。チームを勝たせたい、選手がより良いパフォーマンスを出せるようになって欲しい。そのためには、もっと練習しなければいけない、もっと頑張らなければいけない、厳しく、苦しいことに耐えなければいけないという思考になり、そこで止まってしまうことも多かったと思います。そうすると短期的には結果が出ることがありますが、それについて来られない選手が出てくるので、チームの雰囲気は悪くなっていきます」
さらなるレベルアップを目指すにあたり、練習量を増やす、あるいは厳しい練習を課すという結論に達したことのある人も多いのではないだろうか。しかし、倉本氏は、「その前に見直すべきことがある」と言う。
「それがサイクル1の関係の質です。たとえばAとBという2人のコーチが、選手Cに指導をするとします。C選手はAコーチのことを慕っていますが、Bコーチのことは好きではありません。そこでAコーチがC選手に『こういうプレーをしてみれば?』とアドバイスを送ると、C選手は『やってみようかな』という気になると思います。選手とコーチの関係の質が良いので、思考も前向きになり、行動に移すことができるので結果が出やすいです」
さらに、こう続ける。
「では、Aコーチと同じ提案をBコーチがした場合はどうでしょうか? C選手はBコーチのことを普段から『いつも怒ってばかりで、自分のプレーに文句を言うし、嫌だなぁ』と思っているので、提案されたことに対してすぐにやってみようとはならないはず。ただし、『やらないと怒られるから、とりあえずやろう』と行動には移すかもしれませんが、Bコーチが見ていないところではやらず、やったとしても本心からの行動でないので、結果には繋がりにくくなってしまいます」
尊敬する人からのアドバイスは素直に聞き入れられるが、そうではない人に言われても響かない。それは指導者と選手の関係性に限らず、会社や学校、家庭などで、同様の経験をしたことのある人も多いのではないだろうか。
では、どうすれば「関係の質」が良くなるのだろうか?
倉本氏は「大切なのは、選手にとって安心や安全を感じられる場を、指導者が作れているかどうか。そのような空気感が作れているかを、改めて見直して欲しいと思います」と、言葉に熱を込める。
選手が緊張しない環境作りから構築していく
「大人でも子どもでも、初めての場所に行った時は緊張しますよね。緊張する理由は、その場にいる人たちが、味方なのか敵なのかがわからないからです。人間は緊張すると、パフォーマンスを発揮できません。緊張状態にある人に対して『ミスをしてもいいから、トライしよう』と言ったとしても、トライしませんよね。そのために、まずは『この場所はミスをしても大丈夫なんだ』『コーチは自分の味方なんだ』と、選手に感じさせられるかどうかが非常に重要なんです。その前提を作らないと、選手に強く言って、強制的にやらせるしかないという状況が生まれてしまいます」育成年代の指導現場で、指導者が選手に怒鳴っている光景をよく目にする。おそらく、そうすることが指導だと思いこんでいるのだろうが、それは選手を萎縮させるだけでなく、「関係の質」を低下させていることにほかならない。
倉本氏のセミナー前編では、指導者と選手の「関係の質」を高める方法や考え方、さらには「指図」と「指示」と「指導」の違い。「自主的」と「主体的」の違い。五感を使って脳に司令を送る「VAK理論をもとにした、タイプ別選手への接し方」など、いわゆるサッカー指導者向けのセミナーではあまり触れられていないが、指導の本質にアプローチするための効果的な考え方を紹介している。「なぜ選手が伸びないんだろう?」と悩んでいる指導者の方は、ぜひご覧頂ければと思う。現状を打破する様々なヒントが詰まっているはずだ。
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【講師】倉本和昌/
サッカーコーチ専門コーチ。高校卒業後、スペインのバルセロナに留学。アスレチックビルバオにて育成の仕組みについて学び、スペイン公認上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後は湘南ベルマーレ南足柄、大宮アルディージャのアカデミーでコーチを務め、2018年よりサッカー専門コーチとして独立。埼玉県サッカー協会の指導者養成講師、国体スタッフも兼任。Jクラブ、大学、高校、町クラブ、幼児など様々なカテゴリーのコーチをサポートしている
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取材・文 鈴木智之