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少年サッカーに異変!子どもに広がる運動機能障害/いわきFCアドバイザーが指摘する成長期のスポーツ問題

COACH UNITED ACADEMYでは、指導者向けの様々なテーマで情報を発信している。今回の講師は小俣よしのぶ氏。育成システムの研究を長年続けており、近年はいわきスポーツクラブ(いわきFC)、ドームアスリートハウスアカデミーアドバイザーとしても活動中だ。小俣氏が選んだテーマは「成長期の運動スポーツ問題」。ジュニア年代の指導を行っている方には、ぜひご覧いただきたい内容になっている。(文:鈴木智之)

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昔に比べ、体力運動能力が低下している現代の子どもたち

セミナー前編のテーマは「子どもたちの体力運動能力の低下や偏り」について。近年、サッカークラブ加入時期が低年齢化しており、幼稚園でスクールに入る子も増えている。一方で外遊びの場は減少しており、「サッカースクールでしか運動しない」という状況にある子どもも多いのではないだろうか。

サッカーや野球など、低年齢からその種目に特化した運動をすることで、サッカーならサッカー以外、野球なら野球に必要なスキルや動作以外の運動能力や運動動作を習得する機会がなく、走る、飛ぶ、蹴る、体を支える、柔軟性など、本当の意味でトップレベルのアスリートになるために必要な能力や要素が習得できない現象が起きている。小俣氏は言う。

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「ロコモティブシンドロームという言葉を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか? 一般的に運動機能障害といって、身体機能が低下し日常生活を送ることさえ困難な状態を言い、年配の方に多い疾患です。うまく歩けない、長時間立つことができない、重たいものを持つことができない、腰や膝が痛いといった、年配の方と同じような機能障害が、子ども達にも蔓延しています」

中学生を対象にした運動器事前検診では、開眼で片足立ちが5秒以上できない中学生が7%おり、しゃがめない、前屈ができない、腕が180度上まで上がらないなど、基礎的な動作ができない子や機能低下に陥っている子どもが増えているという。

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「このような現状が大きな問題になっていて、文科省も三年前から体力テストに加えて、運動器事前検診を行っています」

「ロコモティブシンドローム」は、運動経験の少ない、あるいは運動不足の子どもに限った話ではない。週に10時間以上、専門的にサッカーに取り組んでいる「サッカー少年」にも見られる現象なのだ。

運動能力の偏りは、特定の競技ばかりのトレーニングが原因

「NHK のクローズアップ現代で特集が組まれたのが、一週間に10時間以上サッカーに打ち込んでいる子どものケースです。サッカーばかりを行っているため、ふくらはぎや太ももなどの筋肉が過度についてしまい、柔軟性や運動機能のバランスが損なわれ、しゃがめない、しゃがんだ状態から立つことができない、股関節を曲げて前屈ができないといった、運動機能障害が見られました」

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これは特別な例ではなく、小俣氏は「私が担当しているサッカークラブでも同じ例があります」と実例をあげる。

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「小学校6年生を対象にした育成診断テストで、身体形態と体力運動能力を計測しました。サッカー少年の場合、上体起こしと20メートルシャトルが成人の平均に達する一方、立ち幅跳びと長座前屈は学年の平均を大きく下回り、小学校低学年の数値の子が数多くいました」

小俣氏は「上体起こしの数値が高いのは体幹トレーニングが流行っているからで、20メートルシャトルはサッカーで走り込みすることによります。小学生のサッカーはダッシュしたりジャンプしたり、強いボールをけったりする状況が少ないので、下半身の力発揮を示す立ち幅跳び、関節可動域などに関係する柔軟性である長座位前屈の数値が低いと考えられます」と見解を述べる。

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「これはサッカー少年に顕著な体力運動能力のデータです。私が担当しているクラブでも起こっているので、おそらくこれを読んでいる皆さんのクラブでも、同じようなことが起こっているのではないでしょうか」

外遊びが減り、基礎的な体力運動能力が備わっていない中で、専門競技に特化することで、体力運動能力に偏りが起きる。これは非常にシンプルなロジックだ。小俣氏はそこに「ジュニア年代で勝つためのトレーニング、戦術のもとに偏った指導をすることで、体力運動能力の偏りに拍車がかかっている」と警鐘を鳴らす。

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「これは少年野球の例ですが、アンダーアーマーカップに出場した各リーグの選手に育成診断テストをしたところ、ほぼ全ての種目で暦年齢を大きく下回るという結果が出ました。具体的には、小学校6年生に実施した長座位前屈、20 メートル 走、伏臥上反らし、背筋力、立ち幅跳び、反復横跳び、すべてが小学校1年生から4年生程度の発達度合いしかなかったんです」

その理由は繰り返し伝えている通り、「低年齢からひとつの種目に特化し、偏ったスキルや運動をしているから」にほかならない。

「小学生レベルであれば、試合で勝つための戦術に沿ったトレーニングをすることによって、それに伴った結果を出すことはできるでしょう。しかし、将来的にアスリートとして成長し活躍するために必要な、偏りのない身体形態の形成や体力運動能力の習得に着目しないと、ジュニア年代でしか通用しない選手になってしまい、15、6歳でスポーツ選手としての成長が止まる傾向があったり、けがや障害で競技を辞めざるを得ない可能性もあります」

COACH UNITED ACADEMYで配信している小俣氏の動画セミナーでは、数々の研究実績や数字をもとに、子どもたちの運動能力の偏り、低下について説明している。子どもたちを伸ばすためのトレーニングが、本当にその子のためになっているのか?という、指導内容を省みる意味でも、示唆に富む内容になっている。とくに育成年代の指導に関わる指導者は、知っておきたい知識と言えるだろう。

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【講師】小俣よしのぶ/ いわきスポーツクラブ(いわきFC)、ドームアスリートハウスアカデミー、石原塾アドバイザー。筑波大学大学院修了。30年以上に及ぶスポーツトレーニング、強化育成システムの研究実績を有する。プロや社会人から成長期年代まで幅広い年代のフィジカルトレーニング指導経験を持つ一方、東独・キューバなどのスポーツ科学を中心とした育成強化システムの専門家として研究している。アカデミーアドバイザーを務める「いわきスポーツアスレチックアカデミー」では運動スキルを身につけながら体力運動能力を改善向上させるトレーニングの指導に携わっている。