12.19.2018
パリ・サンジェルマンが実践するタレントを持った若手選手を伸ばすための「個人育成プログラム」
パリ・サンジェルマンの育成改革の一端を担い、3年のミッションを終えた、エコノメソッド(旧サッカーサービス)のダビッド・エルナンデス氏。日本では、サッカー指導のプロ集団として、「知のサッカーDVD」やジュニア年代のスクール、指導者講習会などでおなじみだ。ダビッド氏に「パリ・サンジェルマンの育成改革」について聞いた独占インタビュー。後編では、認知・判断の重要性や日本サッカーの可能性に迫る。(取材・文:鈴木智之)
トップチームで試合に出られるのは、状況に応じて適切な判断ができる選手
――パリ・サンジェルマンのアカデミーの選手たちの印象はいかがでしたか?
タレント性のある選手がとても多く、我々のメソッドをすぐに実行できる選手ばかりでした。
フランスの選手のタレント性は、世界のトップ3に入ると感じました。これほど質の高い選手たちとトレーニングしたのは、私の指導者人生の中でも初めてのことでした。
――2017-18シーズンにトップチームに昇格したヤシン・アドリは、あるインタビューで「ダビッド・エルナンデスに感謝している。日々の指導で技術だけでなく、戦術面での成長を実感している」と言っていました。
とても嬉しいです。私も彼のように優秀な選手と一緒に仕事ができて、かけがえのない経験になりました。
これほど優秀な選手たちと仕事をした経験はありません。スーパーなタレントばかりだったので、彼以外にも多くの選手がトップチームに昇格しています。
――それほどのタレントでも、戦術面では向上の余地があったのでしょうか?
そのとおりです。タレントを持った選手たちでも、サッカーに対する理解やインテリジェンスの部分で向上の余地がありました。
パリ・サンジェルマンのアカデミーにいる選手は、テクニック、スピード、フィジカルなど、強烈な武器を持っています。
そんな彼らがすべきは、強烈な武器を、試合の適切な状況で何度も発揮できるようになることです。
例えば、ボールを運ぶドリブルが得意な選手がいたとして、その選手に対して「試合中のどのエリア、どの状況でドリブルをするか」を理解させることです。これは簡単に見えて、とても難しいことです。
――プレーの認知、判断、実行でいうところの認知と判断の部分ですね。
アカデミーには、トップチームの選手と比べても、パスやドリブルの才能がある選手はたくさんいます。
でも最終的にトップチームに上がれない選手が多くいる、なぜかと言うと、適切なタイミング、適切な場所でそのプレーができないからです。
トップチームの試合に出られるのは、速く走ることができる、ドリブルがうまい、シュートがうまいという武器、特徴を試合のどのタイミング、どのスペースで発揮するかという、適切な判断ができる選手です。
それを理解した選手がトップチームに昇格し、それを理解していない選手は昇格することができません。我々がすべきは、後者の選手を助けることです。
足が速い、ドリブルがうまい、フィジカルが強い。これらは選手が持って生まれた才能、タレントの部分です。
指導者はタレントを教えることはできません。
でも、その武器をいつ、どこで使うかを教えることはできます。ただそれを理解させるのは、とても難しいことなのです。
――パリ・サンジェルマンではタレントを持った選手を伸ばすために、どのような取り組みをしたのでしょう?
年代別代表に選ばれるような選手には、映像を使った「個人育成プログラム」を導入しました。試合中のプレーを分析し、良いプレーとそうでないプレーを指摘し、どのようにすれば改善できるかをアドバイスするのです。
これはポジショニングや身体の向き、どの位置からどのスペースに入るのか、そのスピードやコース取りなど、細かくアドバイスをしていきます。プレーコンサルティングは日本代表選手やJリーガー、日本の年代別代表の選手も実施しているものです。
ただし、これも我々が「こうしなさい」と押し付けるのではなく、ポジションや選手の個性、キャラクター、ストロングポイントを活かし、なおかつそのクラブのプレーモデルに対して、より良いプレーができるようなアドバイスを送ります。
――非常に興味深い仕事ですね。
我々がするのは、クラブや選手の成長スピードを促進させることです。パイロットはクラブの人であり、我々ではありません。我々はクラブの人たちが望む目標に対してガイドし、背中を押す、ブースターのような存在だと思っています。
日本代表が世界に追いつくためには、「プレーモデル」を確立させること
――話は変わりますが、日本代表がロシアW杯に進出しました。強豪ベルギーを追い詰めましたが、最後は力負けでした。今後、日本代表がW杯ベスト8、ベスト4、優勝と進んでいくためには、どうすれば良いと感じていますか?
代表チームで成功している国は、プレーモデルがしっかり確立されています。2010年に優勝したスペイン、2014年のドイツ、2018年のフランスもそうですが、一つのアイデアのもとにプレーしていました。
まず日本は国としてサッカーにおけるプレーモデル、アイデンティティを作ることが大切です。日本が彼らの仲間入りをするためには、選手が海外に出てプレーするのではなく、国内リーグを強くして、日本のアイデンティティとなるプレーモデルを確立する方が、結果として代表チームは強くなると思います。
ただし、日本の代表チーム、選手たちはかなり良いレベルまで来ていると思いますよ。
――どのあたりを評価していますか?
ロシアW杯でベルギーに良い試合をしたじゃないですか。いまのベルギーは世界トップレベルです。日本の人たちは試合に負けたから評価しないかもしれませんが、私はすごく良かったと思います。
選手を見ても、ヨーロッパのトップレベルに肉薄する選手はいますし、U-20以下にも良い選手はたくさんいます。
女子も過去に世界一になり、今年のU-20W杯でも優勝しましたよね。私は日本でも仕事をしているので、日本の人から「どうすれば日本サッカーはもっと良くなりますか?」とよく聞かれるのですが、すでに日本サッカーは世界の中で見ても良いレベルにいます。これは自信を持って言えることです。
【講師】ダビッド・エルナンデス/
2015-2018 :パリ・サンジェルマン育成部門でメソッドダイレクターを務める。
エコノメソッド(旧サッカーサービス社)においてテクニカルディレクターとしてクラブやプロ選手のコンサルティングを担当。
また、2015年まで日本サッカー協会プロジェクトコンサルティングディレクターを務めた経験を持つ。
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取材・文 鈴木智之 写真 新井賢一